〜無能勇者は妹の飯で無双中です〜

小鮫鶲ハル

 〜無能勇者〜


「いやだ。いやだ、いやだ、いやだ! まじで行きたくないよお゛〜!」


 ダンジョンの入り口に鼻水を流すお兄様の悲鳴が聞こえる。

 彼の名前は私のお兄様こと「レイン」。職業は【勇者】。

 そして、悲鳴を向けられているのは、妹の私「アルシェ」。職業は【魔道具師】。

 私達は、数年前にパーティーを組み、そこから脅威の快進撃をとげ、今ではこの国有数のSランク冒険者にまで成り上がった。

 でも、お兄様は職業が【勇者】なのにも関わらず、ダンジョンに潜るときは必ずと言っていいほどにこうやって悲鳴を悲鳴を上げてしまうのです。

 その理由は単純。お兄様は怖がりだから。


「もう、いい加減にしてくださいね! このダンジョンでモンスターを討伐しなかったら、もう一生料理を作ってあげません!」


「え? イヤダイヤダ! 料理食べたい! 絶対に食べる! 何すればいい?」


 でも、お兄様を扱う方法は至って簡単。

 それは、食べ物で釣ること。そうすれば、お兄様は重い腰を上げて働いてくれます。


「それじゃあ、Aランクモンスターのナーガサウルスを討伐してきてね! お願い!」


「アルシェ様の仰せのままに!」


 そう言って、お兄様はあっという間にダンジョンの奥に潜って行ってしまいました。

 さて、と。私はお兄様が来る前に、下準備をしておきますか。

 ナーガサウルスは、鶏肉のような味がして、非常に美味です。

 なので、今日作るのは「ナーガサウルスの唐揚げ風定食」!


 そして私は収納ボックスからオリジナル魔道具を取り出します。

 この魔道具は、短時間で揚げ終わって、なおかつ、カリッとした食感を出すことができるんです。

 他の世界について書かれた本に、芋を細長く切ったものを揚げている装置を見て、思いつきました。


 これを扱うには、魔道具師としての実績が豊富じゃなければいけなく、多分この国の中で扱えるのは私だけなんじゃないでしょうか?


「アルシェ! 約束通り、ナーガサウルスを討伐してきたぞ! ちゃんともも肉も取り外したから・・・・・・早く飯を作ってくれ!」


 あらまあ、流石は【勇者】のお兄様。あっという間にナーガサウルスを討伐してしまいました。

 本当に、飯のことになったらすぐに行動するんですから・・・・・・

 これじゃあ、きっと私のご飯に依存しすぎて嫁をもらえませんね。


「わかりましたよ。お兄様。今日は『ナーガサウルスの唐揚げ風定食』です。

 これを食べたら、ちゃんとダンジョンに潜るんですよ!」


「もちろんです!」


 お兄様がそうおっしゃったのを確認して、私は作業を再開します。

 油は、酸化していない新鮮なものを使うために、魔法を使って原料から絞り出します。

 今回の油の原料は外国から取り寄せたもので、世間では「おり〜ぶおいる」って言われているものらしいです。

 少し味見してみると、おり〜ぶおいるの風味が口一面に広がりました。

 これはいい料理が作れそうですね。

 それでは、主役の唐揚げを作っていきます。

 といっても、予め収納ボックスに入れておいた卵と衣をちゃちゃっと合わせるだけですが。

 それを、魔道具に入れて、数分。

 はいっ! 完成です。我ながら上出来。

 次は、定食には必ずと行ってもいいほどに必要なご飯とお味噌汁です。

 ご飯は、もう予め収納ボックスに入れておいたものを取り出します。

 お味噌汁も、後は煮込むだけでいいようにしたものを、「お鍋の魔道具」に放り込んで、茹でます。


 それから数分後、無事お味噌汁ができ上がったようです。

 ちなみに私の作った魔道具で作った料理には、様々な能力が一時的に付与されます。

 例えば、今日作った唐揚げでしたら、「攻撃力アッププラス」が付きますし、ご飯だったら、「スタミナ耐久アップ」、お味噌汁だったら、「防御力アッププラス」がついて、魔道具しか使えない私でも、ナーガサウルスを討伐できるくらいの力が付くのです。

 それを素の状態でナーガサウルスを討伐できるお兄様が食べるとどうなるか?

 答えは簡単です。国の騎士が全員でお兄様にかかってきても、お兄様は難なく倒すことができるようになります。

 と、言うのも、去年の大戦争で、私が料理を餌にして戦わせたときに、私が差し入れで持っていった手作りお弁当を食べた途端に力がみなぎって、私達の国の被害なしで戦争を終わらせたのですから。本当に、私がその能力を悪用しなくて良かったです。


「できましたよお兄様。召し上がれ」


「やっとだぁー! 頂きます! パクッ・・・・・・流石だ! 流石だよアルシェ! 君は天才だ!」


「喜んでいるようで、何よりです」


 お兄様の笑顔は、この国で一番華やかです。

 それを間近で見れる私は、どれだけ幸せなことか・・・・・・私は毎日、そうしみじみ実感しています。


「うううごごごごごごごごごぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 っ!? 大変です。その途端、私の料理におびき寄せられたのか、大空からドラゴンが襲撃してきました。

 あ、でもかなりいい肉の付き方をしていますねぇ・・・・・・

 料理にするとしたら「ドラゴン肉のビビンバ風」ですか。


「お兄様! あのドラゴンを討伐してくれれば、『ドラゴン肉のビビンバ風』を作りますよ!」


「本当か!? よっしゃー! いっちょやるぜ!」


 お兄様は、そう言って、地面を蹴って大空にいるドラゴンを討伐しに行きました。

 そのドラゴンは、お兄様に火を吹きますが


 ・・・・・・しかしお兄様。いい加減私の料理に依存しすぎるのをやめないと、嫁をもらえませんよ?





無能勇者は妹の飯で無双中です (完)

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