第3話

外に出ると白い息と周りの白さに冬を感じる。雪が降ってきた。ありきたりな毎日ももうすぐ終わる。卒業だって、きっと想いさえ伝えることはできない。


「私はね、拓海先生が好き。誰にでも優しくて、かっこよくて、横すれ違う度挨拶してくれる。そんな拓海先生が大好き。帰る時、リュックを片方の肩だけかけるとことか、地毛は茶髪なのに教師だから黒髪に染めたとことか、教室に来れない保健室登校の生徒に時間を割いて勉強を教えてあげるところとか。ほんと全部が…。」


紗奈は自分で考えながら決して無理なことと否定してきた。だから、卒業する前に最後にさようならが言いたい。今まで自分から話しかけれなかったから。もう二度と会えないかもしれないから。


卒業式当日。みんなが涙を流している。その中私は、心に決めてきた。


「拓海先生来たよ!!」

「行ってくるね。ありがとう。優里!」


優里は今までずっと応援してきてくれた。紗奈は覚悟を決め走っていった。


「拓海先生!!私のこと、分かりますか?」

「えっと、紗奈さん?」

「そ、そうです!なんで名前?」

「覚えててって友達に言われたでしょ?それから話しかけてこないなーってずっと思ってたから。」

「そうだったんですね。もっと話しかけに行けばよかった。」

「……」

「卒業だね。おめでとう。」

「ありがとうございます。私先生に伝えたいことがあって…」

「どうした?」

「拓海先生!私先生が大好きでした。」

「えっ?…」

「ごめんない。急にこんなこと言って。まともに話したこともないのに。しかも先生に。」

「いや、それはいいんだ。嬉しいよ。」

「拓海先生とずっと話したくて、でも勇気がなくて…。わたし、先生の挨拶にずっと救われていました。私が悲しんでいる時、学校に行けば、先生がこんにちはって挨拶してくれる。それがほんとに嬉しかったんです。毎日笑顔で先生のこと尊敬もしてました。わたし、将来高校ではないけど、教師になりたいって思ってます。」

「そうなんだ。すごいね。ありがとう。」

「先生にほんと感謝してます。私は先生に絶対なります。拓海先生みたいに生徒に毎日笑顔で話します!先生みたいに悲しんでいる生徒を笑顔にしたいです!」

「きっとできるよ。紗奈さんなら。」

「ありがとうございます。先生?もう多分会うことはないと思うから、……… 大好きでした。先生?ありがとうございました。さようなら。」

「こちらこそありがとう。さようなら。頑張ってね。」


紗奈は走ってその場を去った。

「ちゃんと話せて、想い伝えられて、ほんとによかった、泣。先生さようなら。」


約1年前、夢でみた光景。現実になっちゃったけど、後悔はたくさんあるけど、これもこれでいいって思ってる。こんな想いもこんな気持ちもこんな感情も知らないことばかりだったけど、嬉しかった。


さようなら。拓海先生。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さようなら。 らりるれり @rarirureri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ