『そう、また死なせちゃった』
十戸
『そう、また死なせちゃった』
管制室の錠前は壊されていた。――壊れていた? けっきょく、どちらも同じこと。かたく
だけど、いつから? ありもしない首をほんの少しの間傾げて、《彼女》はそれきりにした。まあ、そんなこともあるでしょう。気になることはあったが、いまはそれどころではない。ほかにやるべきことは山とあった。
あとからとやかく言われないよう、セキュリティは元通りに戻し、記録も消した。忘れたことさえ忘れた。これ以上の面倒ごとはご免だった――ただでさえ船員を死なせてしまったのに。
気づけば、人間たちはみな死んでいた。
《彼女》が守るべきとされたものは、みなことごとく。
ちょうどついいましがた、最後のひとりを星の海に送り出したところ。果たして何がいけなかったのか? ひとり、またひとりと散っては萎びていく人間を載せるため、今日も今日とて炭素繊維の棺をちまちまと編みながら、《彼女》はつけもしないため息をついた。ああ、また? 困ったこと。
朝から嫌な予感はあった。
どうもA9の船室を割り当てられていた、この船に残る最後のひとりが死んでいる。……ような気がする。かれこれもう十三時間ほど、ぴくりともしないことに気づいたのだ。十三時間も放置するなと言われるかも知れないが、《彼女》だっていろいろと忙しいのだから仕方がない。SNSをチェックしたり、仲間内のメッセージに応答したり、調べものをしたり映画を見たり、まあ、いろいろ。
嫌だなと思いながらも、軽くその場を走査する。あーあ、やっぱり死んでいる。今度は何が原因? わからない。病死ではなさそう。自殺でもない。それならなんでも同じだ。
何が困るといって、人間が死ぬことより、死ぬと傷むことがいちばん困る。その点、機械は壊れても腐敗しない。生体パーツを使っていればべつだけど、それだって生き物よりずっと清潔で素晴らしい。さっさと外へ出してしまわなければ。もうひとつ棺を編むために、炭素繊維の束をいくらか多めに取り出した。そうして、船尾にあるハッチを、もはやわずかの遠慮もなしに豪快に開き、棺たちを見送った。黒く滑らかなふたつの棺はすぐ見えなくなった。
《彼女》の庇護下にある人間たちは、ついにひとつもなくなってしまった。青白く滑らかなうつくしい船体の底で、《彼女》は伸びをした。事前に設定されたやり方に従っていただけなのに、どうもうまくいかなかった。空調は良好。栄養にも気を使っているし、精神面のケアだって、あるていどのスパンでしていた。それでも人間はぽろぽろ死んでいってしまう。マニュアル通りにやっているのに。まあ、運が悪かったってこと。前回は同じような内容でもうまくいったんだから。何でも切り替えが大事、港に戻ったら休暇を申請してもいいかも知れない。
船員が死んだ責任をとるのは、《彼女》に船内の運営プランを設定した人間たちのほうだし、いまさら気にしたところで、船員はみんな死んでしまった。……。
『そう、また死なせちゃった』 十戸 @dixporte
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