第6話宿敵は貴女?

 王城についたリオ達は、アラン宰相の通達があったらしく、足を止められる事無く王城に入ることができた。

 一応アッシュが居るとは言え、こんなとんとん拍子に進んで良いのだろうかとリオは思ったが、近年は大きな戦争も無く、平和な世が続いていたせいで警備体制が緩くなっているのだ。

 馬車を従者に任せて三人でアランの執務室に向かうが、リオはどこかで感じた事があるような魔力を感じて首を傾げた。

 

 千年も経っているのに知り合いでも生きているのだろうかと思いもしたが、足を止めて考え事をしてたせいでアッシュ達が少しだけ先に行ってしまったので、直ぐに考えるのを止めて追い掛けた。

 だが、アランの執務室に近づくにしたがってリオが感じる魔力は強くなり、リオはもしかしたらと思い始めた。

 

 確かに殺したはずだとリオは自分に言い聞かせるが、黒い扉の事もあり、完全には否定できない。

 (もし生きているなら、今の俺に倒すことが出来るのだろうか? いや、例えこの身が壊れても殺して見せる)

 もしもの事態を考えながら歩いていると、ついにアランの執務室の前についた。


 アッシュがアランから扉を開ける許可を貰い中に入ると、アランの他にフィロソフィアが一緒に居た。

 その事にアッシュは疑問を抱いたが、特に気にはしなかった。

 しかし、リオはフィロソフィアの事を見ると、躊躇無く剣を召喚し、斬りかかった。

 

 フィロソフィアを見た瞬間にこいつは神を名乗る者だと確信したからだ。

 だがその剣はフィロソフィアがかざした手の平に当たると、激しい音を立てながら止まってしまった。

 

「相変わらず激しいのね」

「何故生きている! 貴様は俺が殺したはずだ!」


 飄々と笑いながらフィロソフィアは受け流すが、リオは激昂して叫んだ。

 二回、三回と続けさまに剣を振るうが、それに対してフィロソフィアは魔法陣を使って防御する。

 

「今は落ち着いてくれないかしら。周りの方々が置いてかれてますわよ?」


 フィロソフィアが目線をリオの後ろに向け、それに釣られて後ろに振りかえると固まっている二人がいた。

 アランも、あまりの出来事に放心して、椅子に座ったまま固まっている。


 リオが斬り掛かった、ほんの数秒の攻防ではあったが、アッシュ達はそれを呆然と見る事しか出来なかった。

 リオの行動が急だったのもそうだが、あの瞬間に感じたリオの殺気と、フィロソフィアから感じた魔力が尋常ではなかったからだ。

 自分に向けられたものでは無いと分かってはいるが、アッシュは自分が斬られたのではないかと錯覚するほどの恐怖を感じた。

 

 リオが振り返り、目線が合うと。アッシュはこの事態に声を張り出す。

 

「何をやっているんだリオ! その方はアラン宰相の孫だぞ!」

「えっ!? 孫!?」


 感じられた魔力と、フイロソフィアを見た瞬間本能的に行動してしまったため、リオは今更ながらマジマジとフィロソフィアを見る。


 感じられる魔力は神を名乗る者のそれなのだか、見た目はどう見ても少女なのだ。

 確かに魔力は知っているものだが、感じられるそれは昔に比べて弱々しいものである。

 フィロソフィアはリオに見つめられて頬を染めて答える。


「そんなに見つめないで下さい。恥ずかしいですわ。それに、その身体であまり無理をするのは良くないですわよ?」

 

 自分とフィロソフィアとの温度差。周りの様子から、リオは流石にこのまま続けるのは難しいと考えた。

 それに、僅かに数合の打ち合いなのに、身体の節々が悲鳴を上げているのを、ひしひしと感じていた。


 少しだけ空気が緩むと、固まっていたアランがやっと声を上げた。

 

「なっ、何をやっているんだね君は! 儂の孫に何をしてくれる!」

 

 アランは怒声を上げて、椅子から立とうとするが腰が抜けてしまったらしく、アッシュを睨み、早く動けと促す。

 アッシュもリオを取り押さえようと動くが、それはフィロソフィアが止めた。


「詳しくは後で話しますから今は手を引いてくれませんか?」

 

 リオは多少苛立ちながらも、剣を消すことで答える。

 フィロソフィアは笑みを崩さずに手に浮かべていた魔法陣を消し、リオとリオの後ろで固まっている二人に座るように勧た。アランにも大丈夫だと伝え、何時ものようにお茶を淹れて、皆に配った。


「私の事は良いので進めてください」

「うっ、うむ。何だ、色々とあるが、君があの黒い扉から出てきた少年で間違いないかね?」

 

 アランは冷や汗を拭い、フィロソフィアをチラリと見ながらリオに声を掛ける。

 

「一応そうです」


「そうか、だとするなら神を・・・…の前にアッシュとコローナは少しだけ席を外してもらえるかな? 終わり次第呼ぶから外で待機していてくれ」

 アッシュは先程のリオの行動から大丈夫なのかと思いもするが、元々席は外す予定だったので、コローナと共にアランの言葉に従い、執務室の外に出て行った。


「さて、フィロソフィアについては一応知っているので残ってもらっている。まあ、先程の事を考えると、思う部分もあるがね」

「少々思い違いがあっただけです」


 そう答えながらもリオは対面に座っているフィロソフィアから視線は逸らさない。紛れもなく感じられるそれはリオが知っているものだからだ。

 

「話は戻すが、君は神を名乗る者……侵略者を知っているかね?」

 

 リオは微かに眉を潜めて言葉の意味を考える。何故目の前に神を名乗る者と思われるフィロソフィアが居るのに、その事を俺に聞くのだろうか?

 いや、アッシュから聞いた話とすり合わせれば、あれから千年も経っているのだから、あの時と状況が違うのかもしれない。


「その顔は肯定と捉えさせてもらおう。私は先祖代々受け継いできた知識としてでしか知らないが、君は詳しく知っているかね?」

「多少知ってはいますが、既に死んだのでしょう?」

「そうなっているが、黒い扉が現れ、中から君が現れた。そこら辺はどうなのかね?」

「俺が知りたい位ですよ」

 

 やっとの思いで殺したはずの者が笑みを浮かべて目の前に居るのだ。そう思うと無性にリオ苛立った。


「そうか。それで、先程フィロソフィアに斬りかかったの何故かな?」

「本人に聞いたらどうでしょうか?」

 

 場には似つかわしく無い湯飲みでお茶を飲むフィロソフィアに視線を向けると、コホンと一回咳ばらいをして答えた。


「そうですわね。やっとこの日が来て下さいましたし、御爺様にも説明いたしましょう」

 

 フィロソフィアはすっと立ち上がると、カーテシーをしてからゆっくりと口を開く。

 

「私の名はフィロソフィア・フラウ・サフォーク。またの名を神を名乗る者……の残留思念が転生した者ですわ」

「……えっ」


 フィロソフィアの言葉を聞いたアランは、思わず固まってしまった。

 

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