第5話国のお偉いさんは大慌て
黒い扉が現れた。
その報告を聞いたヴァルベルグ王国の宰相であるアランは、直ぐ様王城にある執務室で本棚を漁り、古ぼけた一冊の本を取り出した。
「……間違いない」
アルクは震える手で本を読み進め、目的のページで指を止めた。
そこには黒い扉の真実の一部が書き記されてる。
神を名乗る者、黒い扉を開き現れる。人類は滅びの振り子に翻弄され、終焉の時を待った。
最期の時、矛盾を背負いし人類の敵と共に扉に消える。世界は滅びから解放され、人類は歴史を贋造した。
アランが所持している本の中では、唯一黒い扉がどれだけ危険なものか記されているものであり、祖父からも、もしも現れることがあったら、全てを捨てて逃げろと言われ。この事は子孫にも言い伝えろとも言われていた。
アランとしてはただの御伽噺だろうと高を括っていたが、まさか本当に現れるとは思わなかった。
焦燥しきって悩んでいると、黒い扉から少年が現れて、黒い扉は消えた報告を受け、その後もコローナからの報告とアッシュからの手紙を受け取って、後日に空き次第来るように伝えて胸を撫で下ろした。
どうして自分の代でこんな目にと、薄くなってきた頭を気にしながら執務をしてると、来客の予定も無いのに扉を叩く音が聞こえた。
「誰だ?」
「私です。御爺様」
年若い女性の声にアランは、こんな時間に来るのは珍しいと思いながらも、入室の許可を出した。
扉を開き、入って来たのは青みがかった銀色の髪をサイドでまとめ、アランと同じ黒眼が特徴的な少女だった。アランの孫である少女の名はフィロソフィアと言い、たまにふらっと、アランの執務室に来てはアランにお茶を淹れたりして労っているのだ。
「ソフィアか。こんな時間に来るなんて珍しいじゃないか」
「皆さんが慌ただしくしていたので、御爺様もお疲れではないかと思って」
フィロソフィアはクスクスと笑い。アランの事を労いながら、入口の近くに置いてあるポットでお茶を淹れる。
アランはそのお茶を受け取り一息ついた。
「ソフィアは黒い扉の事はしっているかい?」
「あの御伽噺ですか? そう言えばあのお話って他のと全く違いますわよね」
「そこら辺はまた今度話すとして、その御伽噺の黒い扉が実際に現れた見たいでな。直ぐに消えてしまったみたいだが、後の事を考えると頭が痛い」
フィロソフィアは身体を大事にする様に言うが、今日に限って言えばアランを労いに来ただけではない。
「その黒い扉からは何か出てきたのですか?」
「薄汚れた少年が出てきたらしい。明日はその少年と話しなくては行けないので、気が気ではない」
アランはことりとお茶を置き、薄くなってきた頭をさする。
フィロソフィアはふむふむと頷き、自らもお茶を飲んで、相槌を打った。
「さてと、今日は帰れそうになさそうだ。すまないな」
「何時もの事ですから構いませんわ。それでは失礼します」
ソフィアは軽く頭を下げ、執務室を後にした。
ソフィアは扉を閉めながら、にやけそうになる顔を何とか抑え込む。
ああ、やっとこの時が訪れてくれた。
その事を噛みしめて、アランの前で高笑いしなかった自分を褒めてやりたい。
フィロソフィアは神を名乗る者が転生した人物であり、黒い扉が現れる様に、水面下で進めていたのだ。
だが、既に昔のような力も野望もなく、昔とは違った目的の為に動いている。
アランの執務室に行くよりも前に、コローナから報告を聞いており、アランの元には確認のために行っただけに過ぎない。
黒い扉そのものには興味はなく、中から出てきた少年がソフィアの目的の人物である。
少年・・・リオに殺された時の事を思い出し、頬を染める。
絶望の中で抗い続けるリオと殺しあった事は、数少ないソフィアの良い思い出である。
神を名乗る者の頃は自我が薄く、半ば本能でしか行動が出来なかった。
今は昔と違いしっかりと自我があり、人として行動が出来る。
早くリオに会ってこの気持ちをぶつけたい。あわよくばもう一度
止めどなく溢れる思いを胸に秘めフィロソフィアは家に帰って言った。
そして、明日リオと会って何を話し何をしようかと、初心な少女の様な表情を浮かべながら、そっと夢の世界に入るのだった。
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