第9話 そして運命の恋
試写会当日。
僕の左隣に三十分後にはうめちゃが座る。緊張せずにはいられない。
僕以外の人たちもどこかそわそわしているようだ。
意外なことに、うめちゃのテーブルに男は僕一人。うめちゃの飾らないけど女の子らしい可愛さというのは、同性からも支持されるらしい。
「あの、わっさん、ですよね?」
今は空席になっているうめちゃの席とは反対側。僕の右隣の女の子が話しかけてきた。
多分世間一般の標準的な目で見て可愛らしい子だ。なんとなく可愛らしい感じの子。それが彼女の第一印象。
「はいそうです。和哉っていうんですけど、その『和』を『わ』って読んで」
僕は「わっさん」のままでは失礼な気がして、本名で自己紹介した。
「ああ、そういう由来だったんですね」
「由来ってほどたいそうなモノじゃないですけど」
「私、ぷりりん、です。本名は、
「感謝?」
どんどん増していく可愛らしさに緩んでしまいそうになる口元に耐えながら、僕は感謝される覚えもない彼女に首を傾げた。
「うめちゃに出会わせてくれて、うめちゃをずっと応援してここまで引っ張り上げてくれて、ありがとうございます」
「え? いや、そんな、ホント、僕なんて何も」
ホントに何もしていない僕はしどろもどろになって、ただただ目の前で手を横に振っていた。
「ううん、うめちゃが言っていました。頑張れたのはわっさんがひとりじゃないって思わせてくれたおかげだって」
「言ってた?」
「ええ。ダイレクトメッセージで」
そうか。僕だけ特別じゃないよな。他のひとともメッセージのやり取りすることもあるか。
「ホント、わっさんにはずっと感謝してたんだから。はじめまして、って言わなきゃかな?」
背中から聞こえた声に全身鳥肌が立った。茜ちゃんは両手で口を覆って涙ぐんでいる。
ゆっくり振り返ると、少し大人になったうめちゃがいた。
そう、その日、ぼくはミニシアターで恋をした。
五年後、あの時と変わらず僕の隣には彼女がいる。そして、映画館でうめちゃの、儈梅花主演の映画を見ている。
「また一段と凄くなってるね」
「うん、さすが僕らの推しだね」
「やっぱり私より可愛い?」
「そりゃあね。でも好きなのは茜だけだよ」
僕はもう、同じ失敗はしない。
試写会を推しと共に 西野ゆう @ukizm
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます