第8話 僕の推しです!
「うめちゃのファンだよ」と胸を張って言ってもらえるような人間に成長できていたら――
効いたのはその一文だと思う。
四宮さんの件で、僕は「うめちゃ」を一時期自分の中に封印していた。相手は当然ながら僕の気持ちなど関係なく努力している一人の高校生なのに。タレント、俳優の卵なのに。
愚かだった過去の自分の反動で、僕はある意味もっと愚かになった。
堂々と「うめちゃ推し」を公言するようになった。誰からも相手されないと知っていても。
自転車そのものや、ロードレーサーのポスターに紛れさせて、自作のうめちゃポスターを張ったり、自転車を買いに来た高校生にうめちゃの作品(出演シーンはかなり短いが)を紹介したり。
ネット上でも色々発言した。
「近々ブレイクする俳優候補ナンバーワン。ソースは僕」
ってな感じで。
でも僕はそれを本気で信じていたし、うめちゃもそうなるよう努力していた。
そんなときのパンデミック。
うめちゃはLAで軟禁状態、とは言い過ぎかもしれないけど、ほぼ部屋から出ることができず、我が自転車屋も、売り上げが落ちまくった。いや、うちの自転車屋なんてまだ恵まれている方だ。
ライブハウスや、小さな劇場、映画館の多くが閉鎖に追いやられた。
「今回のお仕事、全部流れちゃった」
うめちゃからそんなメッセージが届いたのは、うめちゃがLAに渡って一年が経った時だった。
それから三か月後、日本に帰ってきたうめちゃは、学校も正式に辞め、事務所からも離れていた。それでも高校生の頃と変わらず、オーディションを受け続けている。
そんなある日、うめちゃの全SNSで同じ内容の投稿があった。
「
そのタイトルで投稿された内容は、新進気鋭の映画監督兼平元が、八十年代の「角川三人娘」のような現代の「アイドル女優」ではない「女優アイドル」を発掘して映画を作るというもの。そのオーディションがインターネットで生配信され、視聴者審査があるらしい。その応援を求める投稿だ。
正直、アイドル女優と女優アイドルの違いに関してはピンとこないが、とにかく全力でうめちゃを推した。ネットでも、リアルでも。
結果、うめちゃは主要キャストとなる最終五人に生き残り、役どころは未定だが、ひとまず映画出演は勝ち取った。その要因は正直、僕の応援なんて必要ないくらいのうめちゃの実力があったからだ。
キャストが決まり、監督自らによる脚本も書きあがり、あとはクランクインというところで、再びうめちゃがお願いをする投稿をしていた。
「映画制作のためのクラウドファンディングにご協力ください!」
映画業界は、やはりまだ苦境に立たされているようだが、僕にとっては大きなチャンスだった。初めてうめちゃと間近で会うチャンス。
たった三万円の支援で、うめちゃと同じ円卓で、試写会を見ることができる。僕は悩むことなくその特典のある支援をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます