第10話 思わぬ共通点


 翌日。


 ルナさんのとの約束どおり、俺はまた彼女の屋敷に向かう。


 依頼内容も最低3日となってたし、ここで投げ出すわけにはいかないもんね。ルナさんとも仲良くしたいし。


 早速買ってもらった純白のワンピースを着て、それに合わせた帽子もかぶって街に繰り出す。いつもと違う服装だから少し緊張する。


 ……というか、こんなに女の子らしい服を着るのは初めてだ。なんか足元がスースーする。下着が見えそうでヒヤヒヤだ。


 なるべく服装が乱れないように静かに街を歩く。


 朝からこの街は活気にあふれていて、何回見てもこの喧騒は飽きることはない。前世だと雑踏は苦手だったけど、異世界だと少し気が大きくなっている気がする。


「おい、あれ……」「【漆黒の炎帝】だよな?」「いつもの服装と違うぞ?」「あれじゃ【炎帝】だな……」「つか、めちゃくちゃ可愛くないか?」


 すれ違う人たちが俺を見てそんなことを言っている。服装で目立っていたのかと思っていたけど、どうやら違うらしい。


 可愛いと言われるのは嬉しくもあるけど……。多分ルナさんのセンスがすごくいいんだろうな。自分でもこの服は可愛いと思うしね。


 服装を褒められてすこし上機嫌になりながら、俺は屋敷に到着した。今日は誰にも止められることはなかった。やっぱりあのローブは不審者に見えるんだな……。


「……おはようございます。ユーリです。ルナさんの護衛にきまひた」


「はい、お伺いしております。こちらへどうぞ」


 警備をしている男の人に話しかけると、すんなりと通してくれた。少し噛んでしまったけど、まぁ気にしない。スムーズに話しかけられただけでも一歩前進だ。


「おはよう、ユーリ! あっ! ウチの選んだ服じゃん! 嬉しいなぁ、めっちゃ似合ってるよ! カワイイっ!」


「ぁ、ぁりがとぅ……ごじゃます」


「そんなに緊張しないでよ〜! ウチら、もう友達じゃん? 敬語もやめてよぉ」


「は、はい……。いや、うん」


「そうそう! 合格っ! ささ、こっちきてお茶しようよっ!」


 部屋に入ると、昨日とは違う服に身を包んだルナさんが出迎えてくれる。今日は薄い青を基調にしたドレスだ。髪飾りが綺麗な金髪に映えている。


「ルナさ……ルナも、よく似合ってるよ。かわいい」


「ホントっ!? ユーリに褒められるとなんだかすごく嬉しいな!」


 彼女の服を褒めると、ピョンピョンと飛び跳ねながら喜びを表現してくれる。これだけ喜んでくれるなら、褒め甲斐がある。


 昨日と同じようにお菓子とお茶が用意されたテーブルに腰をかけて彼女の話を聞く。隣に控えたメイドさんが慣れた手つきで紅茶を淹れてくれる。


 淹れたてだからふーふーをしてから口をつける。……うん、すごく美味しい。


 見たことのないような豪華なお菓子を遠慮しながらつまみながら、ルナさんの話に相槌を打つ。


 今日の話題はどうやら彼女の通う学校の話らしい。


 アーカニアにある学校というと、ハイナ魔法学校だろうか?


「最近、あんまり学校に行けてないんだよね……。しかも、なんか周りから距離を置かれててさ……」


 ミスティライト家については、昨日の夜レネシアから少し聞いている。


 どうやらアーカニアの商業ギルドを取りまとめているのが、ミスティライト家らしい。交易が盛んなアーカニアを仕切るということは……つまりそういうことだ。


 彼女が学校で距離を置かれているのはその辺りが原因かもしれないな。人好きする性格のルナにとっては、この家格は邪魔になるんだろう。


 ハイナ魔法学校は庶民も通う一般的な学校だしね……。周りからしたらルナはとんでもないお嬢様という認識になってもおかしくない。


 実際は、すごく話しやすくて誰にも分け隔てのないすごくいい子なんだけどね。


「ねぇ、どうしたら友達ができるかな? ウチ、みんなともっと仲良くしたい」


「……私も人見知りな性格だから、気持ちがよく分かるよ。最近は少しマシになったけど、ここにきてから半年くらいはずっとひとりぼっちだったから……」


「え、そうなんだ。こんなにカワイイのにみんな話しかけないなんて、見る目ないなぁ」


「あ、ありがとう……。で、でも私も悪かったんだよ? いっつも真っ黒のローブを着てさ……」


 俺はルナにここにきてからの生活をかいつまんで話す。今までこんな話をすることはなかったから、ところどころ詰まるところもあったけど、彼女は最後まで相槌を打ちながら真摯に聞いてくれた。


「そっかぁ……。ユーリは人見知りな性格なんだね。ウチはグイグイいく性格だから反対かもしれないけど、友達が少ないのは同じだね」


「……だからルナの助けになりたいんだ」


「ありがとうっ! すごく嬉しいな!」


 ルナが満面の笑顔で俺の手を握る。彼女の手はその性格を表すようにすごく暖かくて、俺の心を落ち着けてくれる。


「学校まではついていけないけど……。なにか方法がないか考えてみるね」


「うんっ! ユーリ、大好き!」


「ちょ、ちょっと!?」


 手を握るだけでは足りなくなったのか、身を乗り出して俺の身体を抱きしめるルナ。太陽のような香りに包まれて、落ち着いたはずの心が乱される。


 こんな可愛い女の子に抱きつかれることに少しの罪悪感を覚えつつ、たどたどしく俺もルナを抱きしめかえす。


 最初出会った時はそのオーラに圧倒されたけど、こうやって話してみると、年相応の悩みを持つ普通の女の子だと分かった。


 ――彼女の力になりたい。依頼とか、お金とかはどうでもいい。ただ、のために何かできることがあるはず。


 俺はルナの体温を感じながら、そんな決意を固めるのだった。


 

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【TS】人見知りの俺が異世界転生したのは最強の美少女エルフでした〜友達を作ろうと頑張っていたら、いつのまにか【漆黒の炎帝】と呼ばれている件〜 モツゴロウ @motugorou

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