第9話 初めてのお買い物
数時間後……。
「次はワンダーランド・ウェアリーの新作だねっ! いくよー!」
「ちょ、ちょっとまって……!」
俺の手を引いてズンズンと歩き続けるルナさん。
俺は早くもこの依頼を受けたことを後悔していた。
……ルナさんのお買い物は
最初の1時間くらいはまぁ、女の子の買い物だし……と思っていたけど、彼女のショッピングは桁が違った。
ふ
俺の両手には抱え切れないくらいの買い物袋がぶら下がり、持てない分はあとで配送をしてもらう手配をする。
そんな感じで服屋とかアクセサリーショップとかコスメ店とかを10軒以上は回った。
魔力で身体を強化していても、疲れるものは疲れる。
護衛(お買い物)に慣れてないのもあって、俺は疲れ果てていた。
「あ、これとかめっちゃ可愛くないっ!? ねね、ユーリも着てみてよ!」
「は、はひぃ……」
たまにこうやって着せ替え人形になりつつ、いつ「そろそろ帰りません?」と切り出すか考えていた。
「めっちゃ似合うじゃんっ! 店員さーん! これください!」
ルナさんは自分の買い物に満足したのか、俺の服を吟味し始めた。ちなみに今着ているのは純白のワンピース。普段ダボダボの真っ黒ローブしか着ていなかったからすごく違和感。
「この帽子も合わせて……。うわ、ワタシってもしかして天才!?」
彼女のセンスはとてもいいと思う。自分で鏡を見てもすごく似合っている。
「あ、ありがとう……。ルナさん、すごくセンスいいんだね」
「え、ホント!? ユーリにそう言ってもらえると嬉しいな!」
満面の笑みで俺の手を握るルナさん。距離感がすごく近い……!
――俺が褒めたことでまたテンションが上がったのか、その後もお買い物はしばらく続くのだった。
◇◇◇
「それじゃまた明日ねっ! ……ちゃんと来てね?」
あたりがすっかり真っ暗になった頃、ようやくルナさんのお買い物は終わった。というよりは、お店が閉まり始めたからもういく店がなくなったというのが正しいかも。
彼女と買い物するのは楽しかったけど、これが明日も続くとなると……。うん、あまり深く考えないようにしよう。
明日は平和にいくことを願いつつ、夜の街を歩く。
一仕事終えた開放感から、俺は目についたお店に入ろうとする。前世ならこんなことはやったことはないけど、せっかくの異世界だし冒険するのも大事だよね。
「いらっしゃいま……せ……?」
「ぇぇと……ひとり、です」
「こ、こちらへどうぞ」
俺の姿を見た店員さんは少し驚いたようすだった。真っ黒のローブを着た客が来たら確かにビックリするよね……。
店内はほぼ満席だったけど、なんとか空いてる席に腰掛ける。
メニュー表に目を向けると、いろいろな料理名が書かれていた。……ほとんどどんな料理かわからないけど。
とりあえず一番上に書かれている一番人気っぽい料理を注文しようかな?
「ご注文お決まりですか〜?」
「ぇぇと……これをひとつ」
「かしこまりました〜! 少々お待ちくださいね〜」
注文を受けた店員さんが奥へ引っ込む。店内を見渡すと、チラチラとコチラを見ている人たちが少し。やっぱりこの服はかなり目立つみたいだな……。明日からはルナさんが買ってくれた服を着ようかな。
「お待たせしました〜! ゴルムン蟹のピリ辛炒めで〜す!」
……お、カニ料理だ!
アーカニアは交易が盛んだから、いろいろな食材が楽しめる。特に近くの港町で獲れた魚介類は、アーカニア名物でもある。めちゃくちゃ美味しそうだ。
「いただきま――」
「……ユーリ?」
やってきた料理にかぶりつこうとした俺に、後ろから声が掛けられた。この声は……!
「レ、レネシア……?
「奇遇だな、ユーリ。……1人か?」
「は、はい……!」
「そ、そうか……」
…………。
少しの沈黙。
いつもよりカジュアルな服装をしたレネシアは、次の言葉を探すようにモジモジとしている。こころなしか顔も赤いような……?
「……いっしょに、食べますか?」
「いいのか!?」
「もちろん。……お一人ですか?」
「ああ。いつもここには一人で来ている。……ふふっ、仲間、だな」
向かいの席に腰を掛けながら微笑むレネシア。いつになく嬉しそうでこっちも自然と笑顔になる。
レネシアと一緒だと、すごく安心する。普段のクールな表情も素敵だけど、この柔らかい雰囲気のレネシアも大好きだ。
「今日は大変でした……」
「何かあったのか?」
「……護衛任務を受けたんですけど、ちょっと色々ありまして」
俺は今日の出来事をかいつまんで説明する。ルナさんの人となりや、買い物の長さ。
俺は男? だから買い物が長い女の子の気持ちがよく分からないんだよな。
「なるほどな……。買い物の長さか。私も最低限しかしないから分からないな、すまない」
「い、いえ! ……良かったらまた今度お買い物行きませんか? お忙しいと思いますけど」
「い、いいのか!? いつにする!? 明日……は訓練があるから、明後日……、いや明後日も用事が……」
ぶつぶつ。独り言を言いながら自分の世界に入ってしまったレネシア。俺はいつでもいいんだけどね。
あ、でも確かルナさんの護衛は最低3日間って書かれていたな……。
「3日後以降なら時間あるので、いつでもいいですよ? ……あ、でもいつ会えるか分からないよね」
「……私は基本的に騎士団の詰め所にいる。夜はここの店に来ていることが多いから、また会った時に話そう」
「ですね。……楽しみにしてます」
「ふふ、私も楽しみだよ」
レネシアとそんな会話をしながらカニ料理を堪能する。一人で食べるには少し量が多かったから、レネシアにも取り分けてあげる。彼女は嬉しそうにカニ料理を食べている。
その所作は気品にあふれ、すごく様になっている。
「……ど、どうした? 私の顔になにかついてるか?」
レネシアのその綺麗な食べ方をじっと見つめていると、その視線に気づいた彼女は顔を赤くしてオロオロとする。
「……いえ、食べ方もかっこいいなって思っただけです」
「あ、ありがとう……! まさか食べ方を褒められるなんて思ってなかったな」
恥ずかしそうに笑うレネシア。こんな風に笑う彼女をもっとみんなに知ってほしいと言う気持ちと、俺だけに見せる笑顔を独占したいと言うわがままな気持ちが生まれる。
……せっかくだし、みんなで仲良くなりたいな。いつかパーティを開く時は真っ先にレネシアを誘おう。
――俺はそんな決意を固めつつ、レネシアとの会話と食事を楽しむのだった。
──
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