第3話 とある記録

「結局俺の目的って何なの?勇者は却下するとしての話だけど」


 あ!じゃあ、勇者は別の人を召喚しておいて、それを影から支えるとかってどう?

 君の正体は隠すようにするから、君が表立って目立つことは――


「却下!」


 なんで?!

 君の平穏は守られるし、フィクサー的なポジションて格好良くない?


「その勇者を支えるってことは、そいつらにずっとついていかなきゃならないんだろ?そりゃあ平穏かもしれないけど、俺の自由はどこにあるんだよ。それに、そんなことしてたら俺は向こうの世界の生活費すら稼ぐ暇がないんじゃないのか?どうやって生きていけって言うんだ?そもそも、そんなすぐに影からの支えがいるような奴を勇者にすんなって。もっと精神的に自立した奴に任せろよ」


 いや、勇者だって最初は強くないわけだし……。


「それこそあんたの匙加減だろ?人に馬鹿みたいなチートガン積みしようとしてて、今更何言ってんの?」


 ……ごもっともです。はい。


「とにかく、俺の希望は3つ。『それなりに危険を回避できるだけの能力』、『馬鹿みたいに目立つことのない話の展開』、『大それた目的のない冒険者としての生活』。以上だ」


 他に製造系のスキルとか――


「いらない」


 王国の姫様とのラブロマンスとか――


「ああ、それそれ!」


 おお!!やっと興味あるものがあった!!


「そういうのは絶対に止めてくれ!!」


 ――え?


「どうせあれだろ?お忍びとか、城を勝手に抜け出してとかした姫様を助けることで惚れられるとかってなるんだろ?」


まあ、そうじゃないと一介の冒険者が姫様と話す機会ってなかなか無いだろうし。


「で、王様にも気に入られて婿になって国を継いでくれとか、逆に親馬鹿の王様が『貴様のような奴にうちの娘をやるものかー!!』って言って、姫様が『お父様なんて嫌いです!それなら私が国を出て行きます!』になるやつだろ?」


 君、前世でラノベ作家か何かだった?


「知らないよ。あんたが俺の記憶消してるんだからな。何にせよ、そんなめんどくさい展開はまっぴらごめんだ!俺は普通に冒険者して、普通に恋愛して、普通の人生を送りたいんだ」


 ……それ、読んでて面白い?


「それを面白くするのがあんたの仕事じゃないのか?」


 そうだけど……我にも出来ることと出来ないことが……。

 ほら、一流の料理人でも材料が無いと料理作れないでしょ?あれと同じだって。

 盛り上げられる要素が無ければ、どんな作家でも面白く出来ないって。

 アイデア大事!!


「あんたの意見は全部テンプレなぞってるだけで、アイデアなんていうもんじゃなくね?」


 ガフッ!!!!!


「それに、そういうテンプレ使ってるのに面白い作品書いてる作家はいっぱいいるだろ?小説の出来なんて、そういうベースにどれだけ自分の色を出せるかとかじゃないのか?あんたの作品からは自分というものが全然見えないだよ」


 編集者の人かな?


「平和だけど魔物のいる世界で、魔法はあるけど普通のレベルで、冒険者はやるけどB級くらいの中堅レベルで、王国とかの人間とは一切かかわらず、魔王退治や勇者のいないストーリー。これでいこう」


 それはただの君の日記になるんじゃ……。


「あ、じゃあこれを小説じゃなくてブログにして発表するっていうのはどうだ?」


 そんな厨二病日記を誰が読むのさ……。

 しかも超地味だし……。


「俺の封印された左目がうずくぜー!!だから薬草採取の依頼を受けるぜー!!」


 そこだけ派手にしても駄目。

 ギルドのお姉さんの困惑した顔が目に浮かぶし。


「今こそ秘められた真の力を使う時!!この右腕の包帯を取って、深淵なる闇の世界の力を開放する!!ゴブリンどもよ!地獄に落ちるがいい!!」


 え?何?そういうのが好みなの?


「……ん、んんん。まあ、これはそういうことで盛り上げるという手もあるぞっていう例だ」


 目立ちたくないんだよね?

 もしかして本当は――


「違う違う!!そういうのじゃないから!!」


 本当?

 それくらいなら別に入れてもギャグパートで済ませられなくもないかな?


「……もし、入れられるんだったら、少しくらい……何かしてやっても良いぞ」


 じゃあ勇者になって――


「だからそれは却下だって!!」


 分かったよ。

 とりあえず普通の世界に普通の能力で転生して、そこでのんびりと厨二冒険者をやるってことで良い?

 それからの展開は向こうに行ってから相談して決めよう。


「厨二冒険者……。まあ、そうだな。ここでいつまでもあーだこーだ言ってても仕方ないしな」


 ……元のルートに戻すのも、向こうで隙を見ながら徐々に。


「何か言ったか?」


 べっつにー。


 そうして彼は異世界へと転生してい――


「あ、その前にあと1つ」


 もういい加減、転生してくれ―!!



 この話は――とある転生者が本当の神である作者と先の展開を相談しながら進めていく物語。


 あらゆる困難を回避したい転生者と、次々と困難を繰り出そうとする作者との戦いの記録である。




―― 完 ――



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転生したら小説の主人公だったので、神(作者)と相談しながら生きていきます。 八月 猫 @hamrabi

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