第2話 小説の世界

「つまりここはあんたの考えた小説の中の世界だってことね。それで、さっきそこの自称神様との話の続きなんだけど」


「自称……」


 ああ!神がすっかり落ち込んでしまってる!


「あのさあ、最初からめちゃめちゃ強い能力とかいらないんだよ」


 え?でも、その方が楽にやれるよ?

 弱いとすぐ死んじゃうかもよ?


「じゃあ、あんたの言う強い能力って何?もの凄い魔力とか魔法?都合よく戦えることの出来るスキル取り放題?異常なほどの身体能力とか?」


 えっと、そのへんのやつの詰め合わせとか考えてたんだけど……。


「いらない!いらない!そんなの最初から持っててどうすんの?いきなりそんなの使う?どれか1つでも過剰戦力なのに、その詰め合わせとかって何考えてんの?」


 いや、異世界転生ってそういうもんじゃん。

 俺強えぇぇぇ!!ってやりたくない?


「まあ、俺だって何もこのままが良いって言ってるわけじゃないんだ。でも、そんな異常な力はいらないって言ってんの。俺強えぇぇぇ!!とかにも興味が無いっていうか、そんなのを全力で使う時って最後のボスとかの時だけで良いじゃん。冒険スタート、はいカンストっておかしいでしょ?スライムとか相手に馬鹿でかいファイヤーとか撃つわけないじゃん」


 あ、だから、普通の冒険者とかじゃ勝てないような魔物に偶然出会って――


「普通の冒険者じゃ勝てない魔物って何?ドラゴンとか?」


 そそ。

 偶然ドラゴンに出会って、その場にいた冒険者を助ける的な?


「何?俺の今から行く世界って、歩いてたら偶然ドラゴンに出会うような場所なわけ?」


 いや……序盤は割と平和な世界を冒険してもらおうかと思ってるけど……。


「じゃあ偶然ドラゴンに出会うっておかしいじゃん。俺がそいつ無視したら、近くの国とか亡びるような世界のどこが平和なのよ?」


 だから君にそれを倒してもらってね?


「そもそもドラゴンが出たって事が国に知れたら一大事じゃないの?それを倒した俺は最初から平穏な暮らしからドロップアウトしちゃうじゃん」


 ほら、それは助けた冒険者とかにも黙っていてもらったら大丈夫だから。


「え?何?その世界の冒険者って、そんな一大事を報告しないような危機管理能力の欠如した奴らの集まりなの?ドラゴンがその一匹とは限らないんだから、ちゃんと報告して対策を考えておいてもらわないと駄目じゃん」


 危機管理能力の欠如とか……君、記憶無くしてるんだよね?


「生前の記憶っていっても、自分の事だけみたいだわ。他の事は結構覚えてる」


 彼は全ての記憶を失っ――


「止めろ!!そんなことしたら、本当にドラゴンに遭った時に無視するからな!」


 ……チッ!


「ああん?」


 君、段々とガラが悪くなってきてない?


「それはあんたがおかしなことばっかり言うからだ。で、どうすんの?」


 えっと、じゃあ、ドラゴンは止めておいて、凶悪なワイバーンとかが街を襲ってて、それを偶然居合わせた君が倒して街を救うとかはどう?


「それを俺が無視したらどうなる?」


 無視するの好きだねえ。


「俺は倒した時のリスクマネージメントはしっかりしておきたいんだ」


 無視した場合、街には甚大な被害が出る。

 その後にワイバーンは遠くの山へ飛んで行くって感じになるかな?


「街には戦える奴はいないのか?冒険者とか警備兵とか?」


 いるけど、その人たちじゃあ手に負えないくらいのワイバーン。

 ほら、あれって空飛んでるでしょ?だから――


「剣と魔法の世界で、街を護ってる警備兵の中に魔法使える奴はいないのか?他の冒険者だって、魔法や弓矢使える奴がいるだろう?」


 いや……普通ファンタジー世界の警備兵で魔法使って戦ってる人って少ないから……。所詮しょせんモブだし……。

 冒険者も高ランクの人たちがたまたまいないとか。


「それでよく警備兵なんていえるな。何?そいつらバイトか何かなん?騎士とまではいかなくても、最低限魔物から街を護れる奴らを雇わないと駄目でしょ?どうせ木の枝みたいな槍持ってる奴ばっかりの設定にするつもりだろ?それに高ランクじゃなくても普段から魔物と戦ってる冒険者だったら、それなりの数いりゃあワイバーン一匹くらい何とかならないか?薬草採集の専門家ばっかりいる街なの?」


 そんな街で話の展開を考えるの難しすぎる……。


「あのさ、もっとバランスを考えてくれないとこっちだって困るんだよ」


 異世界転生でバランスと言われても……。


「あのお……私、そろそろ定時なので失礼してもよろしいでしょうか?」


 あ、神様ごめん。

 うん、今日はもう上がって良いよ。

 明日の有休も確認してるからゆっくり休んでね。


「はい。じゃあ、お先に失礼します。お疲れ様でした」


 はい、お疲れ様。


 じゃあ私も戸締りの確認して上がるかな。


「逃がさねえよ?」


 ……チッ!


 

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