転生したら小説の主人公だったので、神(作者)と相談しながら生きていきます。

八月 猫

第1話 神との遭遇

 辺り一面真っ白な空間。

 ふわふわとした雲のような地面の上に青年は立っていた。


「ここは……」


 青年は自分の置かれている状況を確認するべく記憶を探る。


「俺は……確か……」


 しかし、青年は何故自分がここにいるのか、自分が誰なのかも思い出すことが出来なかった。


「いや、分からない……。記憶が何も無い……」


 その時、目の前の空間から眩い光が広がる。


「何だ?!」


 その光の中から後光を発しているかのような神々しい姿の男が現れた。


「もしかして……神様……?」


 青年はその姿を見てそう感じた。


「はい。私はあなたの世界で言うところの神という存在です」


「じゃあここは天国?俺は死んだのか?」


「そうです。あなたは不慮の事故に遭い亡くなってしまいました」


 神は青年に哀しそうな目でそう告げた。


「そうですか……。どんな人生だったのか思い出せないですけど、それはそれで未練が無くて良いですね。神様が直接来られるという事は俺は天国へ行くんですか?それなら良い人生だったってことですね」


 青年は思っていたよりも淡泊な性格だったようで、自身の死を意外にもすんなりと受け止めていた。

 そんな青年の態度に神は少し安堵したかのように小さく息を吐いて――


「実は……あなたの遭った不慮の事故とというのは、私ども管理者のミスで起こったものなのです」


 結構衝撃的な事実をさらっと打ち明けた。


「はあ?!ミスで死んだだあ?!」


 ……態度が豹変する青年にドン引く神。


「――え?あ、はい、そうです」


「お前!人の命を何だと思ってるんだ!!たった1つしかないんだぞ?生きたくても生きられない人だっているんだ!それをミスで殺すとはどういう了見なんだ!!事と次第によっては神であろうと法廷で戦うぞ!!」


 青年は神に命の尊さを語るという度胸の持ち主だった。

 神につく弁護士に同情してしまう。


「あ、あの、すいません!ですので!今回はあなたに別の世界で新しい人生を送ってもらおうと思いまして、こうして私が参った次第でして」


「別の世界で新しい人生?何だそれ――」


 青年は再び記憶を探る。

 すると生前に読んだであろう本の記憶があった。


「あ、それってラノベにあった異世界転生ってやつか?」


「そうです!そうです!あなたが行く世界は、魔法や魔物が存在しているファンタジーな世界です。そこであなたに――」


「ちょっと待った!」


「え?はい……」


「そこには魔王がいるのか?」


「あ、いますいます!そこであなたに――」


「俺は勇者としてそこに行くのか?」


「理解が早くて助かります!その通りで――」


「却下だ」


「え?」


「その提案は却下だと言った」


「え?何でですか?!チートな能力も差し上げますから、そこで活躍すれば富も名誉も自由自在になる未来が――」


「それだから却下だと言っている。そんな力で勇者になって魔王を倒す?それのどこが面白い人生だというんだ?そりゃあ普通は憧れるかもしれないけど、今時そんなテンプレな展開は、先がすぐに読めて面白くないんだよ」


「テンプレで面白くないと言われましても……。これが転生人気ナンバーワンのパッケージなんですよ?」


「どうせあれだろ?言語理解とか鑑定とか貰って、実は秘密の能力があってって感じのやつなんだろ?」


 まさにその通りだった。


「……はい。その通りです」


「先の分かってる展開はつまんないと言ってんの。何か他の案無いの?」


 神の用意していたプランはこの1つだけだった。


「他のと言われましても……」


「ああ!もういいよ!あんたじゃ話にならないから上の人出してよ」


 神の上の人などいない。


「上の人……。一応、私が一番上の責任者をやらせていただいているのですが……」


「違う違う。あんたじゃなくて、そこの人だよ。そっちの方が神よりも上の立場なんじゃないの?てか、あんたが本当の神なんじゃないの?」


 青年は虚空を見上げながらそう言った。


「そこのさっきからぶつぶつ言っている人。あんただよあんた」


 青年は独り言のように空に向かって――


「独り言じゃねーよ。ずっとナレーターやってるあんたの事を言ってんの!」


 はえ?


「あんたがこの世界の本当の神様だろって聞いてるんだけど?」


 ……えっと、我のことですか?


「そうそう。あんたが何か言うと、その度に言った通りになってるじゃん。だからあんたがここのトップなんだろ?」


 青年はあろうことか、作者である我に向かって話しかけてきていた。


「いや、そういうのはもういいからさ。ちょっと俺と話しようよ?」


 ええぇぇぇ!!



 これは不慮の事故で命を落とした青年と、本当の神である作者との物語である。

 

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