燃え上がる
やなの
燃え上がる
燃え上がる。
燃え上がる。
この火は燃え尽きることを知らない。
燃え上がる。
いつから燃えていたのか。
最初はほんの小さな灯火であったに違いない。しかし、この火が小さくならないことをどこかで確信している。
燃え上がる。
燃え尽きることを知らないこの火は何も恐れない。
消えることなど恐れては燃え上がることなんてできないのだ。
小さな灯火であったとき、燃え尽きることより、燃え上がることばかりを考えてたのだろう。
小さかったはずの火元は君が思っているより小さくはなかった。
それを知らず、燃え上がることもなく燃え尽きてしまった。
燃え上がる。
燃え上がる。
私は火である。
君は終わりから考える。
君は隣で起きる火事や遠くで起きるかもしれないその火の終わりばかりを考える。
燃えているのは君ではないのか。他のところで起きている火事や鎮火を尊べるほど君はできていない。自惚れてはならないのだ。
燃え尽きる火なんぞ気にするものではない。
それは他の火が介入できるものではないのである。
私は他の火には介入せず、自分のまわりの酸素を食らう。それ故に燃え尽きることないのである。
尊ぶべきは自分の火元だけである。
燃え上がる。
たった今も燃え上がっている。
終わりなどない。
この火は燃え尽きはしない。
鎮むこともないのに、君は鎮むことばかりを考えている。
ないことを考えるほど、君は暇らしい。
さて、私には君になんて介入する気はない。
勝手に燃え尽きてしまえばいい。
燃え尽きるとき君のまわりの酸素をここに置いていってはくれないか。
まだ燃え足りないのだ。
煙を出しても出しても足りない。まだまだ二酸化炭素を出したくて出したくて堪らないのだ。
燃え上がる。
まだ蝋燭の頭を照らすほどだったとき、考えたのだ。
このまま、蝋燭を溶かすことしかできない程度でなにをを成し遂げるのか。
例えばどこかの寝台の蝋燭が一生を終えた時、私は何を成し遂げたと言える。
私は燃え上がってはいない。
(燃え上がれ。)
なに、誰に言われたわけではない。神に言わたのでもない。これは使命でなく、意思である。
燃え上がる。
その時から燃えることばかりを考えている。
酸素を求め、ただ只管に二酸化炭素を出しているのだ。
隣や後ろや下のことなんて気にしてはいないのだ。気にしてなんかやるものか。
燃え上がる。
燃え上がる。
母が燃え尽きることを恐れているからと言って母を愛していても燃え尽きることを恐れてはいけない。
私は燃え尽きやしない。
母が火が沈むことを考えているからと言って私がそれを考えてやる必要はないのだ。
火が鎮む心配なんて勝手にやってくれる心優しき隣人に頼んでおけばよい。
鎮火はしない。
燃え上がる。
燃え上がる。
燃え上がる。
暗転。
熱い。
熱い。
ここは暑すぎる。
明転。
弘樹は寝ていたのだ。
五時間布団の中で光遮断しても寝れなかったのに、いつの間にか眠れていたらしい。
これは弘樹にとってら朗報である。
暫く眠ることができていなかったので、母も心配していた。
幸いなことにカーテンの隙間からは光が射し込んできている。
不幸いなことといえば、びっしょりと汗をかいていることであろうか。
大抵の人間がそうであるように、弘樹とっても寝起きに汗をかいていることは大変不愉快なことであった。
カーテンを開けるか否か迷っていると、腹が減っていることに気がついた。
布団の真横に置いてある低机の上に手を伸ばすと眠ろうとする前に食べていたクッキーの残りに触れる。
寝起きにクッキーは如何なものなのかと思いながらも、弘樹のいまの判断力ではその判断を否にはできず、それを2枚ほど手に取り口に運ぶ。
本能的に仰向けでは良くないと思い、せめて身体ごと横を向き口や手から屑が落ちることを気にせず食べる。
どこかからゴミ収集車から鳴る軽活な音楽が聞こえる。
その音は近くなったと思ったらすぐにどこかに行ってしまう。
ゴミ収集車が通るということは八時過ぎなのか。
弘樹は回るようになった頭で考える。
低机に手を伸ばす。
クッキーを次は1枚手に取り口に運ぶ。
咀嚼を終えたところで、次に少し上体を起こしカーテンを開ける。
朝日が射し込んできた。
随分と久しぶりに陽の光を見たような気がする。
昨日は寝れなかったのだから実際、弘樹は昨日も陽の光は浴びたはずなのだが、そんなふうに思う。
暗転。
弘樹は陽の光に照らさている。
昼下がり。
隣には希望と未来。
前にも後ろにも建物が建っていた。
それはどこかで見たことのあるようなビルであったり、見慣れたような一軒家であったり、行き慣れたようなコンビニであった。
明転。
時計を見る。
八時二十一分。
暗転。
ビルの入口で立ち止まる。
上を見上げる。
綺麗に回れ右をする。
入口に希望も未来も置き、ビルに背を向け歩き出す。
明転。
弘樹は布団から出る。
低机は昨日眠りにつく前と同じ状態である。
布団は畳まず、布団の上に座布団を置く。
暗転。
周りから建物が消えていく。
前にも後ろにも右にも左にも何もない。
歩き続ける。
目指しているあの立て看板を。
たどり着いたのは昨日見た1枚の紙。
明転。
手にペンを取る。
紙と向き合う。
書きかけの昨日のインクに足していく。
ここは熱い。
燃え上がる。
燃え尽きることは知らない。
燃え上がる やなの @yananodesu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます