第27話:クロフォード神官の童心③


 かけた方にしろ、かけられた方にしろ、形跡と手がかりが残りにくいのが呪術だ。だからこそ、こうして図らずも『残りかす』を手に入れたことで、事態は大きく前進していた。

 「神官さん達、絶対原因を突き止めます! って張り切ってたもんね。上手くいくと良いなぁ」

 「大丈夫ですよ。ここにいらっしゃるのは専門家の方達で、みんな優秀な人ばかりだって、リアムさんも仰ってましたし」

 「う゛っ、……うん、まあ、そうだね……」

 無邪気に太鼓判を押してくる沙夜の言葉に、今まさにそれを思い返していた伊織は変な声を出してしまった。いかん、彼女に他意は一切ないというのに、身体の方が勝手に反応する。

 ……転移してすぐに知り合った、エルチェスター神殿の大神官であるリアム。その後よくよく話を聞いてみたら、何と神官長の代理も兼ねているというから驚きだ。どうも彼を直接教えた師匠が本来の長で、今現在持病が悪化して養生しており、その間の穴埋めとして中央から派遣されてきた、という事情のようだ。 

 いや、それはいい。問題は初対面からこっち、彼とほぼ毎日のように行動を共にしている、という点だった。

 「――おや、イオリ殿。ミズハヒメも今お戻りですか」

 「うわっはいぃ!? どどどどうも今戻りました!!」

 「はーい、ただいま戻りました~」

 「お帰りなさい。どうやら上手くいったようですね、良かった」

 間が良いのか悪いのか。ちょうど今しがた通り過ぎようとしていた部屋から、ひょっこり顔を出して笑ったのは、話題になっていたところのリアムその人だった。のほほんとお返事する沙夜の側で、驚きその他諸々で挙動不審になってしまった伊織である。

 こちらの微妙な反応に気を悪くした風もなく、逆に労ってくれるリアムはいつもの神官装束だ。相変わらず穏やかな顔立ちに違和感がある、と思ったら、丸いフレームの眼鏡をかけていた。おお、これは初めて見たな。そして似合ってます、はい。

 「……リアムさん、眼鏡かけるんですね。目悪いの?」

 「ああ、これですか。いえね、視力は悪い方ではないんだが、今見ていたものの仕様が特殊でして」

 「特殊? 普通に眺めてもわからない、ってこと?」

 「ご名答です。ちょっと失礼」

 思いついたことをそのまま言ってみたところ、なかなかいい線をいっていたようだ。ちょっと嬉しそうに頷いた相手は、手に持っていた紙を差し出して見せてくれる。覗き込んでみると何かの報告書、のようだ。いちばん上のところに、つい最近聞いたばかりの単語が書いてあって目を惹かれた。

 「燐モスの被害報告書、ですか」

 「ええ、表向きは。第二段落と第三段落の間に、少し隙間があるでしょう? これを通して見てみて下さい」

 続いて、かけていた眼鏡をはずして目の前に持ってきてくれる。距離が近いことに内心どぎまぎしながらも、相手は変な意図があってやってるわけではない! と自分に言い聞かせて力づくで落ち着き、そうっとレンズ越しに書類を眺めてみると――





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見習い聖女と紅の呪い ~ 新米女神様と異世界転移しました。神具『おしろい』で人助けしまくります! 古森真朝 @m-komori

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