第6話 吉良家と早瀬家
吉良家と早瀬家は平安時代から続く旧家で、両家とも、ある特別な仕事を生業として繁栄してきた一族だ。
もちろん他にもそういう旧家がいくつかあるが、現在も強い組織力を保ち続けているのはこの両家だけだった。
その特別な仕事とは、政府の裏の仕事を請負うというものである。
その時代時代に応じ、彼らの一族は調査、扇動、そして暗殺と、いろいろと表には出せない仕事をこなしてきた。
そして、それは現在も変わらない。
表では、商事会社やカフェバーを経営しながら、裏では特殊なシークレットサービスを提供する組織として、内閣調査室と連携して仕事をしているのだ。ちなみに早瀬の表の事業は土木建築業だ。
彼らは公の組織ではなく、警察や自衛隊等の政府の正式な機関には属してはいない。
だが、逮捕権や調査権を国から与えられており、場合によっては外交特権を使う事も出来る特別な立場にある。
何より普通の公務員と大きく違うのは、暗殺権という、決して表には出せない秘密の権利を持っている事だ。
そういう特殊な事情の為、吉良家と早瀬家は普通の家庭とは全く違う。
直系の一族の者や昔から家来として仕える一族の者達は、幼少の頃から特殊な訓練を受け、生き残る為の術を学び、諜報活動について学びながら育つ。
直美と良平は、そういう特殊な環境で育った似た者同士なのだ。
良平の実家である、早瀬家が仕切る早瀬
その業界ナンバー1である早瀬が一夜にして壊滅させられたのだ。
今回の早瀬家の壊滅は、この特殊な業界に大きなショックを与えていた。
犯人は一体どういう組織なのか、内閣調査室主導ですぐに捜査が行われることになり、業界ナンバー2と言われている吉良にも当然調査依頼が来た。
既に吉良の優秀なエージェント達も調査を開始しているが、今のところ手がかりは何も無い状況だった。
~~*~~
良平は傷による消耗が激しかったのだろう。
3日間、大人しくベッドの中に収まっていた。
が、4日目に直美が朝食を運んだ時、良平は床で腕立て伏せをしていた。
「ちょっと! 大丈夫なの?」
直美の声で、良平は腕立て伏せをやめベッドに腰掛けた。
「大丈夫だ。腹には力を入れてない」
「傷口開いても知らないから……」
そう言いながら、直美はテーブルに持って来たお盆を置いた。
「ベッドで食べる?」
「いや、そこでいい」
そう言い、良平は腕や首を回しながら、テーブルの方に歩いて来て椅子に座った。
「服、何とかしてくれよ」
良平は直美の方に視線を向けて言う。
「服?」
「いつまでもパジャマはないだろ?」
「ああ……そうね。分かったわ」
直美の返事を聞いてから、良平は食事を始めた。
直美は湯飲みにお茶を注ぎ入れて良平に差し出す。
良平はお礼の代わりに「ん」と声を出し、直美から湯飲みを受け取って、口をつける。
「仲良くやっているようだな」
二人がそうやっている所に、ちょうど吉良と側近達が入って来て声を掛けた。
直美は父の言葉にぷいっと横を向く。少し照れているらしい。
「食事中で申し訳ないが、ちょっと失礼するよ」
吉良の後ろから、吉良の弟の
彼は外務省が内密に組織している内閣調査室に入り込んでいるメンバーだ。
良平は手を止めて、吉良と守の顔を見た。
「いいから、食事は続けて」
守の言葉に、良平はもう一度、箸を手にする。
「大分、回復したようだな……食欲があるのはいいことだ」
吉良が微笑んだ。
「今日は、君に頼みたい事があって来たんだ」
守が良平に言った。
良平は食事を続けながら目だけ守に向ける。
「君の家の検分に付き合ってくれないか?」
守るの言葉に良平の表情が少し動いたが、またすぐ無表情になる。
「酷い有様でね。一体どういう状況だったのか教えて欲しいんだ」
守は出来るだけ優しい口調で言った。
「……そんな事をする意味が?」
良平は顔も上げずに言う。
「相手を特定する手掛かりになるかもしれないし、君も……」
守は少し言い難そうにして、それからいう。
「君も逃げるのに必死で、状況をちゃんと把握できてないんじゃないか? だから、君がもう一度状況を確認すれば、何か分かることがあるかもしれないだろ?」
「……」
良平は何も答えず黙っていた。
直美は良平を同情するような表情で見つめていた。
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