第7話 襲撃の痕

 早瀬の邸宅は、洋風の吉良の屋敷とは違い、純和風の創りだ。

 見た目は古臭い純和風ではあるが、もちろんセキュリティーは最新設備を備えていた。


 吉良は早瀬の屋敷のセキュリティーシステムの説明を部下から受けた後、広い玄関から屋敷に上がり、まだ血の跡があちこちに残る廊下を歩いて奥に進んだ。

 調査の為に、ふすま等は全て取り外されており、奥の方まで続く畳の部屋全部を見渡す事が出来る状態になっていた。


 吉良達は、畳についているいくつもの血の跡を、悲しげな表情で見ながら、縁側に出て庭沿いの廊下を歩いた。

 歩きながら吉良は、庭や、天井、そして廊下の低い位置に、赤外線カメラ等のセキュリティー装置が、問題なく設置されている事を確認する。先ほどの報告通り、装置の配置の方法にも全く隙は無さそうだ。

 吉良は不思議そうに良平を振り返りながら訊いた。


「これだけの設備なのに、そんなに簡単に襲われてしまうものなのか?」


 良平は庭の方に目をやっていた。

 じっと庭を見つめていて、吉良の質問が聞こえていない様子だ。


 吉良と、良平の後ろからついて歩いていた直美は、良平の見つめる場所を同じように見た。だが、そこには特に気になる物はなく、良平が庭の何を見ているのかは分からなかった。


「あの辺りで、……末っ子の彩の死体が見つかっている」

 直美の耳元で、原田すぐるが小さな声で教えてくれた。

 ああ……

 直美は悲しい表情になり、良平を見た。


 良平は、しばらく庭を見つめていたが、突然、吉良の方に振り返った。

「客が来たんだ、……兄貴の紹介で」


 良平は吉良の目を見てそう言った。

 少し前の吉良の質問に対する答えのようだ。


「それで、親父が屋敷の中にそいつらを入れた」

「なるほど、そうやって侵入を許したのか……」


「俺は部屋でくつろいでいた。そこに姉が来て、どうも胡散臭いから、親父と一緒に話を聞いてくれと言った」

 吉良とすぐる、そして他の者も皆、黙って良平の話を聞いた。


「それで、姉と一緒に親父の部屋に行った、そしたら、もう……親父は……」

 悔しそうに良平が言う。

 ぶっきらぼうに話すのは、涙を押し込む為なのだろうと、その場に居た者は皆思った。


「あとは……そこら中で銃声が響いて、……みな……死んだ。あっという間だった。」


「……つよしの死体が、認識されていないんだ」

 ぼそっと吉良守が言った。剛というのは、良平の兄のことだ。


「早瀬の直系では、長男の剛だけが見つからない」

「兄貴も死んだ……俺の目の前で……」

 良平は守を睨みながらそう答えた。

 良平の言葉を聞き、直美の顔色が変わる。泣きそうな顔だ。


「……兄貴はあれでも一流だったから、あいつを判別するのは難しいだろうな。判別のつかない死体がごろごろ転がっていたんじゃないのか?」


 良平はそう言い、ふすまが全部取り外され、だだっぴろくなっている部屋を見渡すように見る。

 屋敷の中はあちこちに血の痕が残っていて血の匂いも残っていた。


「そんな……判別出来ないなんて……」

 直美が小さな声でそう言い、目を伏せた。

 良平はちらりと直美を見たが、すぐに守のほうに視線を戻す。


「姉貴はどこで?」

「え?」

 突然質問されて、守はすぐに対応できなかった。


「姉貴は俺を逃がそうとして盾になったんだ」

「ああ、……椿さんはあの辺りで亡くなっていたよ。取り巻き達が必死に彼女を守ろうとしたのだろう。彼女の上や周りには数人の男達が一緒に絶命していた」

 守は良平に丁寧に説明してやる。


「そうか。……悪いが、そこに花を供えてくれないか? それからあの、庭の3つ石を置いているあの辺りにも頼みたい」

「分かった……」

 守は頷いた。



「お前たち、先に戻っていてくれ」

 一通り確認が終わった後、吉良は優と直美に言った。

「良平も、優……原田の車で戻っていてくれ。私は少し寄る所がある」

 優と直美と良平の3人は小さく頷いた。

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