11:真犯人
「他には……」
「はい?」
「他には何か出来ないの? こう、探知とか水の糸を張る以外に」
今のジルが一体どの程度のことが出来るのか、念のため把握しておきたかった。
「まあ、簡単なものなら出来ますけど」
そう言うとジルはおもむろに立ち上がり、部屋の隅の水がめに近づくといきなり水の中に腕を入れた。
一応飲み水なんだけど、アレ。
「…………」
ジルはそのまま十秒ぐらい水を素手でかき混ぜ、やがて引き抜いた。
そしてその手をこちらに差し出してくる。
「……えっと、一体何をしたの?」
「とりあえずこの中の、水以外の物質を集めてみました」
そう言って更に手を寄せてきたのでよく見てみると、手の上にゴマ塩のような砂粒が乗っていた。
……何か、凄い地味なやつだな。
というか、これが飲み水に入っていたのか。あまり知りたくなかった。
砂を少しつまんで触ってみたところで、あることに気が付く。
「あれ、濡れてない」
「ええ。水は除けました」
「……え?」
さらっと言ったが、そんなこと可能なのか?
砂だけでなくジルの手や腕を撫でてみたが、すべすべしているだけで特に湿ってはいなかった。
まるでゴム手袋でもしていたかのようだ。
「これで水に残っていた魔力は使い果たしたので、もう出来ることはありません」
ジルはそう言ってまたその場に座り込んだ。
「なるほどね……」
これが今出来るジルの限界だというのなら、技術や精度はともかくとして、危険性はほとんど無いと言ってもいいだろう。やはり杞憂だったようだ。
しかしすぐに座り込んでしまうのを見るに、よほど疲れているんだろうか。
「あのさ、もし良かったらお菓子でも食べる? あんまり残ってないけど」
「……お菓子というのは?」
「こういうのだよ。もしかして見るの初めて?」
テーブルの上から焼き菓子をいくつか取って見せる。
ジルはそれを一枚つまむと、特に躊躇もせずに口へ放り込んだ。
「えっと、どう?」
「……そうですね。この体は美味しく感じているようなので、もう少し食べてみたいです」
「じゃあ全部食べていいよ」
テーブルの上に残っていたお菓子を皿ごとジルの前へ置いた。
俺とアンリが食べ残したものだったので十枚も無かったが、初めて食べる人間用の食事という意味では手頃な量だろう。
「…………」
ジルはまるで作業のように無言でお菓子を食べ、すぐに皿を空にした。
「……あの、そこのお茶を貰ってもいいですか? 口の中の水分が足りなくなりました」
「ああ、乾パンみたいなもんだからね。そりゃパッサパサになるよね」
ジルの分のお茶を注いでやり、カップを床に置く。
「でも大丈夫かな。さっきあれだけ水を飲んでた訳だし、カロリー過多になりそう」
「……栄養の取り過ぎという意味ですか? 水に栄養価は無いですし、どれだけ飲んでも問題は無いのでは?」
「いやあるでしょ。だって飲むだけで食事代わりになる水でしょ? 一日の必要量がどれくらいか知らないけど、流石にあれだけ飲んだら多いと思うけど」
「確かにあの水を飲めばしばらく食事をせずとも平気でしょうけど、それは栄養が豊富に含まれているからではありませんよ?」
「えっと、じゃあどういう原理でそうなるの?」
「単純に言えば、井戸の水を飲むと私としばらく繋がる形になるので、その間は私が魔力で活動エネルギーを代替してるだけです」
「……は?」
何か今、凄いヤバいことを聞いたような。
あなたの能力はTSです 青城雀 @JeanWaterCastle
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