第27話 戻りゆく日々
この朝早い時間も随分と久しぶりだ。
といってもそんなに期間が開いていたわけではない。むしろまだ2週間もたっていないぐらいだ。
だがそれだけあの日々が長く感じてしまっていたのだろう。
今思えばいろんなことがあったな。いや本当に。
まさに怒涛の日々だった。
でも、それももう終わった。
これからはこの前と同じように静かで、慎ましく生活をしていこう。
ただ、今までとちょっと違った形で……
「おはよ」
静かで、そしてまだ誰も来ないはずだった時間帯にその声は聞こえてきた。
でもその声はとても懐かしく思えてしまうほどだった。彼女とは昨日も会話をしたはずなのにとても変な気分だ。
「おはようさん」
この返しもとても久しぶりな感じがする。俺の日常が返ってきたのだと思えてくる。
そして教室に入ってきた彼女は荷物を持ったまま俺の席へと一直線へと向かってきた、そのまま彼女は前の席の人の椅子を持ってきて俺と向き合うようにして座った。
ああ、この光景もまた懐かしく思える。
するとそんな俺の様子を不思議がっていたのか彼女は話しかけてきた。
「……?どうしたの?なんか遠い目をしてるわよ?」
「いや、なんだかな……」
「いや意味わかんないんですけど……」
俺もわからない。
そうだ。なんだか変な気分なんだ。
いつもの日々が戻ってきたような感じがするけど、それと同時に違和感みたいなものも入り混じっている。
これはどう言語化するものやら……
「まあいいわ。それよりもアンタ、今日が何の日かもちろん知っているわよね?」
今日?
なんかあったっけ?
ここ最近はそんな事考えてる隙なんてなかったからそんなものは勿論……
「知らん」
「アンタ、さすがに即答はどうかと思うわよ……」
え?今日ってそんなに大事な日だっけ?
俺はほぼ空っぽになっていた記憶を必死に探ってみたが結局分からなかった。
「ん゛!」
そうすると内海は何かの用紙を取り出しとある場所を指しながら俺に見せた。そこに書かれていたのは……
「テスト1週間前……?」
そういえばもうそんな時期か。すっかり忘れていた。
「この前も思っていたんだけどアンタってよく進級できたわよね……」
「まあな」
「一ミリも褒めてないわよ!」
内海さんはそう言いながら手に持っていたペンで頭を叩いてきた。お前はいつからそんなキャラになったんだ?今まではそんなんじゃなかっただろ。
あと今更、暴力系ヒロインは流行らないと思うぞ。
「とにかく、テストが近づいてきているってことよ」
「そうか。がんばれよ」
「アンタも頑張りなさいよ!?」
俺は別に最終的には卒業できればどうでもいいんだよなあ……
しかも俺は国語に至ってはトップに君臨している身だ。これ以上の努力は必要ない。
「アンタ、国語は兎も角、ほかの教科どうなってんのよ?」
「大体下は38点、上は48点ぐらいだな」
俺がテストの点数を教えてやると内海さんは呆れた表情を浮かべ、更に頭も抱え始めた。
「アンタ、それじゃあ余裕をもって卒業できないわよ……?」
まあ確かにそうかもな。
お世辞にも余裕とういうことは無いだろうが、俺はこれで満足しているんだ。コレ以上はあまり望んではいない。
「俺は卒業さえできればいいんだよ……」
そう答えると彼女は待っていたとばかりの表情を浮かべながら口を開いた。
「進学はどうすんのよ?」
「…………あー」
「アンタああああああああ!!!」
そうか、そうきたか。それは盲点だな。そこまでは考えてなかった。
「え!?まさか何も考えていなかったの!?」
「ああ。別に何とかなると思って……」
「何とかなるわけないでしょ!?」
そんなものやってみなきゃ分からないだろ?意外と何とかなるかもしれないぞ?
根拠は無いが……
「とりあえず今日から、いや明日からでもいいからこの時間は勉強しなさいよ!?」
「お断りします」
折角、平穏な日々が戻ってきたんだ。しばらくは何も頑張ろうとは思えなかった。
「じゃあ今日からこの時間はアタシとアンタのテスト勉強の時間ね。ハイ決まり」
「おい、勝手に他人のスケジュールを変えるな」
「いいじゃない。これでよい成績が出せたらアンタも優等生の仲間入りよ」
「ぐぬぬ……」
などと言い合いをしていると……
「お前ら、なんで朝からなにしてんだ……」
唐突にきこえてきた声の方角、教室の入り口には歩が立っていた。
「よお歩。早いじゃないか」
「よお。じゃねえよ!?どうしたんだよお前ら!?」
「どうもこうもない。ただの談笑だ」
談笑と言うには少し一方的な会話だった気がするが、この際どうでもいい。同じようなモノだし誤差だよ誤差。
「あと、俺以外もいるぞ」
「ん?」
俺、そして何故か内海さんも辺り、と言うか歩の後ろに目を配ると確かにもう一人いた。
それは……
「メイ!?」
先に声を出したのは内海さんだった。まあそれもそのはずか……
教室の入り口付近には内海さんの友達である、雪柳さんがいたのである。てかまた君か。よく遭遇するね……
「ご、ごめんねちーちゃん!なんかすっごく仲がよさそうで声掛けに行けなくて……」
「ええ!?いいや別にコイツとはそんなに……」
コイツって言うな。
あとそんなに何だよ。そこで止めるな。
「……じゃあな勇翔」
「おい待ちやがれ!」
歩は唐突にそう言うと、走りながら教室を出て行った。
コイツめ、場の雰囲気を破壊した挙句、自分だけ逃げるつもりか。
そうはさせまいとすぐさま立ち上がり歩を追いかけようとしたが、急に後ろから強く袖をつかまれた。
こんな時に誰だと思ったが、俺の後ろにいる人物は最初から一人しかいなかった。
そしてその人物は俺の目をただまっすぐに見つめたまま動かなかった。
その目はまるで何かを訴えているようだった。
「な、なんだよ……」
思わず口に出した瞬間、俺は気が付いた。
俺は今、走って逃げたあいつを追いかけようとしたんだ。
そして俺はすぐさま椅子に座りながら内海さんに告げた。
「……ごめん」
「いや、気づいてくれて良かった……」
彼女は安心したかのような表情だった。
俺もこれからはこういうのには気を付けないといけないなあと思ったが、俺達はこの場にはもう一人いたことを忘れていた。
「ちーちゃん、今……」
それらを見ていた雪柳さん手を口に当てて驚いていた。
そうして次の瞬間……
「邪魔してごめんねえええええええええっ!!!」
そう叫びながら雪柳さんもまた、走りながら教室を出て行った。
そして俺達は教室に取り残された。微妙な雰囲気を保ったままで……
「これ、大丈夫なのか……?」
「アタシはわかんない……」
二人して中身のない発言をしていた。
内海さんが俺の言葉をどういった意図でとらえたのかは分からないが、肝心の俺が分からないのでどうしようもなかった。
最近のこの時間帯は呪われているのかと疑うぐらいハプニングが続出しているな。これからの登校時間を見直すべきか?
などと考えていたら掴まれたままの袖が引っ張られてこういわれた。
「……とりあえずテスト勉強でもする?」
「……そうだな」
こうして訳も分からず俺達は何故かテスト勉強を始めた。
内海さんの教え方は授業よりもとても分かりやすかった。これからは内海さんが授業教えればいいのに……
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