第24話 俺が連れて行ってやる

 そして翌日。

 午前中は病院に行く関係で学校を遅刻することになった。

 その代わりに俺の松葉杖生活に終止符を打った。

 激しい運動はまだ禁止の扱いだが今の俺にはそれは誤差みたいなものだ。

 だが、これでようやく自由の身だ。これで動きの制限はほとんどないだろう。

 しかし、大きい病院に行ってた所為もあってか、こうして俺が登校した時には既に学校は4限目が終わりかけの時間だった。

 そのまま一人の昼を過ごし、あっという間に放課後を迎えた。

 さて、屋上に向かうか……

 俺はそう思いながら席を立ち、来る当てのない待ち人を待つことにした。

 正直、一日二日で来るとは思っていない。とは言え、覚悟はできている身だ。気長に待とうじゃないか。

 そう思っていたのだが……


 「待たせたわね……」


 その待ち人は俺の予想をはるかに上回り、まさかの僅か一日でここへ来た。いくら何でも早すぎでは?


 「……早かったな」

 

 彼女の事だからもうちょっと時間はかかると思っていたのは俺の勘違いだったみたいだ。

 まあそれも彼女らしさか……


 「本当に答えは出たのか?」


 俺は彼女にそう問いかけた。その道に悔いはしないか、またそれを受け入れて生きる覚悟があるかどうかを確認したかった。

 彼女は少し悩んだ末にはっきりと言った。


 「ええ。もう答えは用意してあるわ」


 そうか。

 でも、答えは見えているようなものだった。


 「じゃあ聞いてもいいか?」

 

 そう聞くと彼女は何も言わずに頷いた。


 「アタシは、アタシはアンタを踏み台になんかしない」

 

 彼女はそう言いながら真剣な眼差しで俺の目を見ながらそう言った。

 でも俺は驚きはしなかった。むしろそう来ると思っていたまである。

 理由は簡単だ。なぜなら今の内海さんは昔の俺そのもので、俺もその答えを出したからだ。

 だから俺の返事も決まっている。


 「それは無理は話だな……」

 「……は?」


 あたりまえだ。今のお前はさっきの発言で矛盾してしまったんだ。


 「じゃあ俺から問うぞ。お前があの時言った”踏み台にする”ってどういう意味だ?」

 「それは……」


 彼女は少し考えるそぶりを見せた後


 「自分自身の成長という自分勝手な都合で他人を何とも思っていないでやる事よ」


 なるほどな。確かにそれは踏み台という言葉によくあっている。でも本題はそこじゃない。


 「そうか。じゃあお前はどうするつもりだったんだ?」

 「それは勿論……」


 正直に言うとこんなのはただの茶番だ。わかりきっている答えをただ聞いているだけのクソみたいな時間だ。

 そう思った俺は内海さんの答えを聞く前に自分から言い出した。


 「自分の中にすべてしまい込むんだろ?怒りも悲しみも、罪悪感も……」

 「!?」


 彼女は驚いた表情をしていた。まるで自分の言いたいことの本質を突かれたような反応だ。


 「何故お前の考えを知っているかわかるか?でも今のお前には分からないだろうな」

 「そんなの言いがかりよ!」

 「じゃあ言ってみろよ」


 俺は少し強い口調で言ってしまった。

 

 「それは……」


 彼女はそう言ったはいいものの二の句が継げずに黙り込んでしまった。


 「な?わからないだろ?でも、理由は簡単だ」

 「………?」


 彼女はまだ自分の矛盾に気がついていないようだった。

 ならば今、気づかせてあげよう。彼女がこの先、このことについて苦しまずに生きていけるように。

 だけど、今は許してくれ……

 そう自分自身の感情を押し殺して俺は彼女に告げた。

 

 「お前があの時既にもうお前は俺を”踏み台”にしたからな」

 「………?………!?」


 彼女は聞いた瞬間こそは首をかしげていたが、あの時のことを思い出したのかは知らないが、しばらくしたら目を見広げた。

 まるで今、気が付いたかのように……

 そんな彼女を置き去りにし、それでも俺は口が動く。


 「そして今、お前は何故こんな事をしたのかという自分自身に対する怒りが沸いたはずだろ?」

 「アンタ……どれだけアタシのことを……」


 彼女はもう何度目か知らない驚きの表情を見せた。


 「そうよ。今アタシは、無責任で矛盾なことをした自分が許せない。だからもっと違う方法を……」

 「やめろ」


 俺は彼女の真面目さに嫌気がさして、咄嗟に強い口調で彼女の言葉を遮った。

 

 「今更自分のしたことを無かった事にすることなんてお前にはもうできないぞ。少なくともお前に”自分に対する怒り”がある以上な……」


 俺はそのまま続けるように言う。


 「そして、その違う方法の先には何もないぞ」


 そう言った俺に対して彼女はそんな言葉を否定するかのような表情をした。


 「そんなの……やってみなきゃ………」

 「何もなかったから、俺と歩はああなったんだぞ?お前は全部聞いていたんだろ?」

 「で、でも……それでも………」

 「それに………」


 俺は彼女の否定の姿勢を無視し、告げた。


 「じゃあ俺が見せる……いや、お前を連れて行ってやるよ。その”俺を踏み台”にした先の景色をな」

 「!?」


 そう言うと彼女はとても驚いた表情を見せた。それもそのはずだ。これはいわば未来を見せると言っても過言ではない発言をしたからだ。

 でも、それはあくまで疑似的なものだ。


 「アンタ……何を言って……」

 「何をのクソもねえよ。そのまんまの意味だよ。それなら真実が分かるだろ?」

 「……わかったわよ。でもそれがアタシに気に食わなかったら、アタシは違う方法を探すわよ」

 「好きにしろ……」


 そうは言ったものの、今の俺にはその”違う方法”に対するカバーは何も思い浮かんではいなかった。でもそれだけ自信があるってことだ。


 「で?その景色はどこで見られるわけ?」

 「……こっちだ」


 そう言いながら俺は、そして後ろをついてくる内海さんは屋上から出て行った。

 今言ってしまえば、俺もその景色は見たことがない。

 ただ、今までの俺達という点から見ればそれは非日常。つまり別の景色になる。

 それがどういうものなのかは知らないが、きっと良くなる。いや、俺が良くするための努力をする。

 たとえその先にいろんな困難があったとしても、俺はあんな思いを。そして、俺の友人に同じ思いをさせたくない。

 それだけだ。

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