第21話 変わりゆく日々
そして月曜日。
俺は昨日病院を退院した。
退院したと言ってもまだ松葉杖での生活することになるが、これであの窮屈な空間から解放された喜びの方が上だ。
だが今の俺にはその喜びはほんのひと休憩にしかならなかった。
これでようやくある程度の自由な行動が可能になった。
足がこの状態なのでまだ制約があるもののこれはデカイ。
「おはよう勇翔。足の方は順調か?」
親に送迎してもらい、車から出てきたところで偶然にも歩と出会った。
そのため時間はいつもよりだいぶ遅い時間だ。
「おはよう。まあそこそこかな」
「そうか。何かあったら言えよ」
「最初からそのつもりだ」
今の俺だと頼れるのが歩しかいないというのもあるが、この存在は大きい。
それにしてもこの時間だとさすがに人が多いのは分かるけど、なんか視線が気になるなあ。
それもそうか。あの日からまだ1週間ちょっとしか経ってないんだよな。それならまだ記憶に新しい人もいるはずだ。
あの日のことが他の人にはどう見えてて、どこまでの情報が知れ渡っているのかは知らないが、俺を見る人は皆哀れむような眼をしていたように見える。
「そういや勇翔。お前まだ松葉杖なのか?前の時は退院した頃にはもう普通に歩いていたんだろ?」
「ん?ああ。俺が少し無理言って退院する日を1日ずらした。その代わりこれはちゃんと使えってことだ。」
「別にそんな焦って学校来なくてもいいのによ……」
まあ傍から見ればその感想が一般的だろう。
だが、今の俺はその1日という短い期間でも無駄にはできない一刻も争う事態なんだ。
だからこの二日間は歩を相当振り回す羽目になるだろう。
「すまんな歩。先に謝っとくわ。ごめん」
「は?」
歩は心底不思議そうな顔をしていた。
まあ無理はないだろう。
だがいずれ分かるさ……多分……
「じゃあ気を付けろよ」
「わかってる」
2階に上がった俺たちだが、お互いの教室は反対方向にあるため廊下で別れた。
さて、教室の様子は一体どうなっているのだろうか。言葉づてで伝えたはもらったが、実際にその場にいないと分からないことも多いはずだ。
朝のホームルームまであと二分。来るべき人はもういるはずだろう。
そう思いながらも俺は教室へと入っていった。
その瞬間、俺は教室にいる人達の視線を一気に浴びた。
その後すぐに俺の周りには人だかりができ始めた。
ナニコレ!?こんなの初めてなんですけど!?
集まった人たちはいろんなことを喋っていった。ある人は体育祭の日、ある人は足のケガについて、あとなんか稲妻について語っているやつと様々だった。なんか情報の一部が漏れていない?
ただ、俺の探している人はその場にはいなく、それどころか教室にもいなかった。これでは折角学校に来たというのに何も進展がないまま一日が終わってしまう。
と思われたが、その人物は学校のチャイムと同時に教室に入ってきた。
だがその人物は俺の予想をはるかに上回るほど酷い状態だと一目見て気づいた。顔は酷くやつれているように見え、発しているオーラも物凄く邪悪だった。
これでは俺からきっかけを作るのすら難しいな……
そう思った瞬間、俺はすぐさまrinelを開いてとある人物にメッセージを送った。あの人ならばなんとかなるかもしれない……
昼休みの時間。
俺はいつもと違う場所で昼食をとっていた時にとある人物に声をかけられた。
「それで、私を呼び出して何のようだね?」
「なんだかんだ言って来てくれますよね先輩って……」
そう、粟島先輩だ。
むしろこんな時こそこの人を利用できる絶好のチャンスだろう。そう考えた俺は朝にこの人にメッセージを送った。
「まあ今の君にはどうせ内海さんの事関連だろうと思っているからな」
「むしろそれ以外ありませんしね……」
俺この人と直接の関連することが何一つないからな。
だが、その関係性だから出来ることと言ってもいい。
「それで要件なんですけど……」
俺が口を開き始めると先輩はすぐさま真剣な眼差しへと変わった。
「内海さんを放課後に屋上に連れて行ってください」
「……それを何故私に?」
先輩は不思議そうな顔で尋ねてきた。
まあ何も説明しないのも変か。
「逆に聞きますけど先輩は今の俺と内海さんの関係のまま、それができると思っているんですか?」
「それを何とかするのが君だろ?自分でケジメをつけるじゃなかったのか?」
そう言われちまえばそうだけどそれには一つ穴がある。
「確かに俺はそう言いましたけど、それって所謂結論の話ですよね?俺は全てを一人で片づけるなんて言っていませんよ?」
「君さあ……さすがにそれは屁理屈すぎるだろう……」
先輩は呆れているようだった。
まあ自分でも何言ってんだコイツ状態ではあるもののそうは言ってもいられない。今の俺に必要なのは自分だけの道の最短ルートではなく、外からみたバグを使ったショートカットだ。
「それにあと俺の中でこの話を知っているのは内海さんの友達三人だけだ」
「それで私というわけか……」
俺の中では内海さんがいなくなった時のダメージは先輩の方が上だと判断の上である。特に先輩の場合だと”金”という生活に直結する事態というのも相まってだ。
「わかった。それに関しては協力しよう。だがこれ以上の関与はしないし、その場で何を言われても知らないぞ?」
「構いません。何が何でも来させればいいんです。非人道的でない範囲で……」
一応保険みたいなものをつけといた。焼け石に水な気もするがないよりかはいいだろう。
こうなったらあの三人にも一報でも入れとくか……もしかしたら何かしらのアシストを期待できるかもしれん。
「……もう戻っても構わないか?」
すると先輩は心底暇そうな様子で聞いてきた。
こんな状況だって言うのに結構能天気な人だな……
「別にいいですよ。ご協力感謝致します……」
「そうか。では失礼するよ」
そう言い残しながら先輩は教室から出て行き、俺一人になった。
さて、一体先輩はどんな手を使ってくるのだろう。まあ、あまり良い方法を使ってくることは無さそうかな……
今のうちに覚悟を決めとくか……
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