第17話 背負ったものは過去か未来か

 「おい勇翔!」


 リレーが始まる前、俺は歩に話かけられた。 

 

 「どうした?」

 「どうしたじゃねえよお前!お前の方こそどうしちまったんだ!?」

 

 何故彼は怒っているのだろうか。傍から見ればそれは分からない。

 だが、これは俺と歩だけが知っている”もう一つの事実”が原因だ。


 「お前、中学時代のこと話したって言ってたよな?誰に喋った?どこからどこまで喋った?」

 「それが何か関係あるか?」

 「大ありだよ!!!」

 

 そう言うと彼は物凄い勢いで俺をにつかみかかってきた。

 その力はとても強く、加減なんてものはをしていなかった。


 「ちょっと千葉君!?」


 慌てた様子で一緒に来ていた和泉が仲裁に入ろうとしたが……


 「手を出すな!!!!」


 歩は今までに聞いたことのないレベルの大声を上げた。その声に和泉どころか周囲の人たちがおびえていた。

 さすがにやりすぎだよ……


 「どうせお前のことだから”あの事”は言っていないはずだと思って俺が今ここにいるんだよ!お前死にたいのか!?」


 しかし歩は周りの目など気にもせず物凄い剣幕で俺に言葉を浴びせ続けている。


 「死なないさ。ただ死ぬ気ではやるつもりだ」

 「お前……いい加減に……!」


 歩はこぶしを上げ俺に振りかざそした。が、それは俺の顔面の目の前で止まった。

 俺はそこで彼はただ怒りをぶつけているのではないことに気が付いた。

 そうか、お前はそんなに俺のことが気になるのか。でもそれは何故なんだ?お前に直接的な原因があるわけじゃあるまいし……

 すると歩は震える手を放した。


 「もう勝手にしろ!!!」


 そう言い残し彼は俺から離れていった。

 その後和泉はすぐさま俺に声をかけてきた。


 「そ、外木場君、大丈夫かい?」

 「俺は大丈夫。ただ……」

 「そうか。それならよかった。と、とにかく、リレー頑張れ」


 和泉もそう言い残した後俺から離れていった。

 ああ……、これじゃあせっかくのムードが台無しだよ……

 でも、その根本的な原因は俺だ。あとでみんなに謝らないとな……


 「外木場君?もう集合時間だよ?」

 「今行く……」


 これは俺、いや俺が”背負ってしまった”ものとの戦いだ。でもこの結末は神にしか操れない”運命”だ……




 そしてクラスリレーが始まった。

 俺の出番は一番最後の二人分だ。

 一見すればこんな重要な所を鈍足で体育の実技の成績が悲惨だった俺にするというのは捨てゲー、もしくは舐めプとしか思えないだろう。

 ただ今の俺は違う。

 今の俺は皆の期待を背負った一人の戦士だ。そう思いながら俺はリレーの行方を目で追っていった。

 展開では何処も拮抗しているが、皆楽しそうに過ごしている。勝利だけ目指している人間はこの中では内海さん、そしてその意図を理解している俺だけだろう。

 この勝利は本当に意味はあるのだろうか?そんな事をしても本当に何かが変わるのだろうか?それは今の俺には分からない。

 ただ、これは内海さんのためではない。

 俺のためだ。

 そんな事を考えているうちに俺の出番は着々と迫ってきている。

 よし、久しぶりにやってみるか。

 これからの俺のためにも、そして……

 そう決心した俺は自身の手を右膝の上に重ね、撫でるようにした後、出れにも聞こえないような声で呟いた。

 その瞬間を誰かに見られた気がするが、今更どう言われようと俺はもう自分の言葉を折ることはできない。

 たとえそれが絶対に破ってはいけなかったはずの”約束”であっても……


 「外木場君、次だよ」

 「ああ」

 

 クラスメイトに言われて俺は立ち上がった。

 多少ブランクこそあれど、今の状態は高校生の平均記録ははるかに上回っていたのは密かに確認済みだ。

 さて、戦況は……

 俺のクラスは今3位か。距離的にはそこまで離れていないけど1位になるには二人を追い抜かす必要性がある。

 いいじゃん。こうでなきゃ面白くない……そうじゃなきゃ”証明”ができない。

 そうして俺の前のランナーが近づいていき……


 「外木場!あとは頼んだ!」

 

 そういわれながら俺はバトンを受け取る姿勢に入った。

 大丈夫だ。俺ならいける。もう一度、羽ばたけるはずだ。

 そしてバトンを受け取った瞬間、俺は思いっきり右足で地面を蹴り飛ばした。


 「なんだあいつ!?クソ早え!?」

 「うちの学校にこんな足早い生徒いたっけ?」

 「でも誰?」


 人の目を一瞬で奪い去り、その瞬間だけが俺が主役になれる。

 あまりにも懐かしい。そしてこの感覚がたまらない!!! 

 さすがにここ3年間、激しい運動を控えていただけあって足の運びが若干重い。でも、それでもこの速さは健在だった。俺はとんでもない速さで一人、また一人と抜かしていき、現状トップに躍り出た。

 そして俺は本来、最後の人へとバトンを渡すはずだった場所を通り過ぎた。

 しかし、勝負はここからだ。

 リレーのアンカーというのは大体そのクラスでも最速の人がなることが多い。ある程度の距離を保っていても、今の俺の既に一人分走った俺の体力は限りなくゼロに近い。このままトップスピードを保つのはさすがにキツイ。

 でも、体力が尽きても俺にはもう一つの”体力に準ずるモノ”がある。それは根性だ。

 ここへきて根性論とは、前時代的だなとは思うがそう言ってる場合ではない。俺は最後の”体力”を使い果たす勢いでさらにスピードを上げた。ただひたすらに。

 そして俺はそのまま誰にも抜かされることなく、ゴールテープを切った。 

 その次の瞬間、校庭は大歓喜となった。

 クラスメイトもこちらへ向かってる中、一番前にいたのは……

 

 「外木場!アンタってやつは!!!」


 満面の笑みを浮かべた内海さんだった。

 こらこら、先生に走るなって言われただろ……

 そう思いながら彼女の元へと向かうために右足を踏み込んだ次の瞬間……


 「ぐああああああああああああ!!!???」

 

 俺の膝に今までにないとんでもない激痛が走った。

 そして俺は膝を抱えながらその場に倒れた。


 「え!?ちょっと外木場!?だ………」


 内海さんが何かを言っているようだったけど俺は膝の激痛どころでなにも聞き取れなかった。

 ただとにかく、膝が痛い。

 そんな中、俺はかつて医者から言われた一つの言葉が頭をよぎった。


 「これは……所謂、膝爆弾ですね」

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