第15話 気持ちの中身が知りたくて

 そして数日が経った。

 クラスでは着々と体育祭の準備が進められ、日に日に皆がワイワイと賑わいを見せていく中俺はそんな物には目もくれずに過ごしていた。

 そんな俺でもここ数日、いや今週に入ってから気がかりなことが一つだけある。

 それは…… 


 「あーまた千尋ちゃん寝てるー」

 「千尋?次うちら移動教室だよ?」

 「起きてよお!今日これで3回目だよお……」

 「zzz……」


 最近、内海さんがやたらと疲れているように見える。それも日に日に悪化しているらしく、朝来るのも時間ギリギリだし授業中はずっと寝ている。そして休み時間に入るたびに友達が起こしに来る。

 別にただの寝不足ならいいんだけど、どうにもそうは見えない。何かあったのかな……?

 こんなことを気にしてもしょうがないのは分かっているけど、それでも気になるものは気になる。

 また俺が原因に関与していなければいいんだけど……

 こんな時って他の人ならどうするんだろう?

 俺はこういうのに全く経験どころか知識すらない。今になって自分という人間が嫌いになる。

 取りあえず気晴らしにでも誘うか?

 そう思った俺はrinelのトーク画面を開いた。のはいいものの……

 どう送ればいいんだコレ???

 いやわからん。俺、自分から何かに誘ったことないし。

 取りあえず自然な感じで……

 いやまて、自然な感じってなんだよ?

 こういうのって意識してするもんじゃないよな?

 うーん………


 (放課後暇か?俺は今日、気晴らしに行くんだが……)


 これでいっか。

 俺は自分の中で自然=適当と解釈した。なら、これぐらいの適当さがちょうどいいだろう。

 送信っと。

 そして次の瞬間、恐らく内海さんと思われるであろうスマホの通知音が聞こえてきた。

 

 「ねえちーちゃん。rinelきたみたいだよ?」

 「よし、私がチェックしてやる……」


 あ、やべ……

 これではまたあらぬ誤解を生んでしまう。こうなったらどう謝ればいいんだ……

 と思った次の瞬間……


 「なーに勝手に人のスマホ見ようとしてんのよっ」

 「痛い!?」


 内海さんは起き上がりながら机の上に置かれていたスマホをしまいながら、友達にチョップを食らわした。

 結構痛そうにしてたけどちゃんと加減はしたのか?

 

 「てか千尋起きてたんなら返事してくれよ」

 「ごめん。ちょっと疲れ……てええ!?」


 返事をしながらスマホに目をやった内海さんは次の瞬間、叫びながらものすごい勢いでスマホをしまった。


 「……?どうしたのちーちゃん?」

 「な、なんでもないわよ?」

 「えー?怪しいなあー?」


 やめてくれ内海さん。その反応だと余計に怪しまれるぞ。

 まあ、こんな時に送った俺が悪いようなところだけど……

 ふとスマホを見てみると、そこには内海さんから”OK”のスタンプが届いていた。

 あの一瞬でどうやった?恐ろしい速さだ……

 何はともあれ放課後の予定が決まったな。我ながら結構緊張してしまったな。やはり初めてというものは苦手だな……

 俺は質問攻めにあっている内海さんをよそに、教室から移動を開始した。





 「アンタ、タイミングってものがあるでしょ?言ってる意味わかる?」

 「おっしゃる通りでございます……」


 放課後、内海さんと何故か駅前で合流した後、開口一番に言われた。

 まあ案の定である。


 「なにアレ?わざと?」

 「いえ。偶然です……」

 「余計たち悪いんですけど……」

 「申し訳ないです……」


 これに関しては俺が100%悪いのでもうひたすらに平謝りである。

 

 「それで、今日はどこかへ行く当てでもあるの?」


 内海さんはそう尋ねてきた。

 俺の中でも急に決めたものだから休み時間をフル活用して今日行く場所を探していた。

 それで俺が出した場所はと言うと……


 「ああ。この辺に美味いたい焼き屋の屋台があるらしくてな……」

 「餡子系ばっかりねアンタ……」

 「別にいいじゃないか」


 何故かこういう情報にだけ詳しくなりつつあるな俺。これもお前のせいだぞ?

 あと、お前が学校にたい焼き持ってきた日のことを俺は忘れていないからな。結構好きじゃないと持っていけないだろ普通。


 「まあいいわ。で、それは何処にあるの?」

 「こっちだ……」


 って言っても駅前からじゃそんな遠くないのですぐに着いた。

 だが屋台の周りには全然人は並んでいなかった。時間帯の影響か?一応前回のヤツよりかは話題になっていたはずなんだけどな……

 

 「いらっしゃい」


 何を買うかまだ決めてはいないが、気前のよさそうな屋台のおっちゃんが先に声をかけてくれた。

 ここは少し高いが……


 「俺はこの大納言小豆を一つと……」

 「あ、アタシもそれで……」

 「じゃあ二つで」

 「あいよ。少し待ってな」

 

 どうやら注文を受けてから作り始めるようだった。出来立てというものは一番うまいから運がいいのかもしれない。

 それにしても……


 「内海さんも大概に餡子が好きだろ?」

 「うーん?まあそうね……。アンタと好物がダブるのは少し癪に障るけど……」

 「酷い言いようだな……」


 冗談のつもりのようなトーンで喋ってはいたが、それでも傷つく……

 

 「まあ、その結果がこうしてこの場にいるわけだから悪い気はしないけどね?」

 「そうかい……」


 一体どっちが本心なんだ?いや多分両方とも本心だと思った。その表情を見てたらな……

 

 「あいよ。大納言小豆二つ!合計600円ね!」


 うーん、やはり高いな……

 そう思いつつも俺は財布から小銭を二つ取り出しておっちゃんに渡した。


 「ありがとうございます」

 「また来いよ!若いの!」


 威勢のいいおっちゃんから受け取った二つのたい焼きの内一つを内海さんに渡した。


 「ありがと。はいじゃあお金」

 「いや、いらん」

 「は?なんで?」


 俺は内海さんから渡された金の受け取りを拒否した。勿論これには理由があっての行動だ。


 「ほらなんだ、今日のお詫びみたいなヤツで……」

 「何?そんなの気にしてたの?どうでもいいわよ……」


 多分内海さんは学校でrinelを送ったことについて言っているのだろう。


 「そっちじゃねえよ。今日急に誘ったことだよ」

 「対して変わんないじゃない。いいから受け取りなさいよっ!」


 と内海さんは俺に向かって恐らく小銭が入っている右手を俺に突き出してきた。


 「おい、やめろ。無理やりポケットにねじ込もうとするな!」

 「アンタが受け取らないからでしょ!?だから無理やり……」

 「わかった。わかったから離れろ!」


 俺は無理やり内海さんを引き離した。

 そして内海さんは不機嫌そうに手を差し出した。


 「じゃあ、はい!」

 「サンキュー……」


 俺は渋々お金を受け取った。

 別にこれぐらいなら払わなくたっていいのに………

 そんな俺をよそに内海さんはもう既にたい焼きに夢中だった。

 

 「それにしても買い食いなんて久しぶりかも……」

 「俺は初めてだな」


 すごいな俺、放課後に女子と二人っきりで買い食いなんかしてるぞ。昔の俺が見たらさぞ驚くに違いない。

 まあ俺らそんな関係じゃないんですけどね。初見さん。


 「ねえ見て!このたい焼きすごい餡が入ってるんですけど!?」


 内海さんはそう言うと餡ぎゅうぎゅうにつまったたい焼きを見せてきた。食べかけのものを他人に見せるはどうかと思うが……


 「こりゃすげえな……」


 でもいくら何でも入れすぎな気がする。記事で見たときはこんなに入っていなかったぞ?

 などと不思議に思っていたら、袋の中に紙が混入していた。

 これ入ってて大丈夫なやつなのか?見てみるとこんなことが書かれていた。


 (頑張れよ男の子!サービスしてやったぜ!)


 これってもしかして俺に対するメッセージ的なやつか?だとしたらいつ書いたんだコレ?


 「ん?どうしたの?」

 「いや、何でもない……」


 俺は紙切れをポケットに突っ込んでその場をごまかした。

 ありがとうおっちゃん。でもなにか勘違いしていると思うよ。そんな関係じゃないよ俺ら。

 こうして俺らは絶品のたい焼きを食べながらその辺を散歩したりした。

 内海さんの様子はいつもと同じく元気そうだった。 





 「やば!?もうこんな時間!?」


 気が付けば時刻は7時を迎えようとしてた。最近は時間が過ぎるのが早く感じるな……


 「どうした?なんか予定でもあったのか?」

 「うーんちょっとね……」


 内海さんは歯切れの悪そうな返事をした。

 それは悪いことをしてしまったかも知れない……。これでは俺が内海さんを誘った意味がなくなってしまう。


 「すまんな。予定があったにもかかわらず……」

 「いや、いいのよ。アタシが決めたことなんだし、アンタが気にする必要は無いわよ」

 「いやでも……」

 「アタシが大丈夫って言えば大丈夫なの!」


 内海さんはそう無理やり筋を通してきた。

 少しは反論したいが本人がこう言っている以上、何かを言うのは間違いだろう。


 「わかった。でも今日はちゃんと寝ろよ?」

 「分かってるわよ。じゃあ、また明日ね」

 「ああ、また……」


 そう言うと彼女は駅のホームへと駆け出して行った。

 結局、今日の放課後の内海さん”だけ”はいつもと変わらない内海さんだった。

 じゃあ学校であったあの雰囲気は一体何だったのだろうか?俺はその謎を解くことができなかった。

 本当に明日は大丈夫なのだろうか?

 そんな不安を抱いたまま俺は帰路に就いた。

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