第14話 病み明けの日
「おはよ……」
翌日の朝。内海さんは何気ない顔で登校してきた。
「おはようさん。体は大丈夫なのか?」
「ん?ああ、もう大丈夫よ……」
顔色は悪くはなさそうだが、どこか眠そうに内海さんは返事をした。
「てかそんな心配されるようなヤツじゃなかったわよ?」
「そうか。ならいいんだ……」
別に俺は彼女の家族でもないんだし本人がそういうのなら大丈夫なのだろう。余計なお世話だったみたいだ。
そして内海さんはいつものように、前の席の人の椅子を借りて俺と向き合うように座った。
そしてまじまじと俺のことを見てきた。
え?何?なんか付いてる?
すると内海さんは唐突に……
「アンタって結構貧相な体よね……」
「どうした急に?」
何故俺は朝一番で見た目をディスられたんだ?
まあ実際にそうなのだから否定はしない、てかできないが……
「いや?そういや今週末、体育祭だなって思って」
「体育祭?」
「え?ちょっと待って?アンタ去年この学校にいなかったの?」
「ちげえよ。そういやそんな時期だなって思っただけだ……」
何もそんなに驚くことないだろ。
……まあ本当のところは忘れていただけです。俺ら運動神経悪い系人間にとって、体育祭というのはただの公開処刑になってしまう。だから出来れば思い出したくはないんだよね……
「しょうがねえだろ。俺は運動得意じゃないし」
「アンタの場合だと、運動が得意なんじゃなくてただの運動不足なんじゃない?」
うお!?コイツここにきてマジレスしやがった。ド正論パンチやめろ。死人が出るぞ!?
「それを全部ひっくるめて”運動が得意じゃない”って言うんだ。」
「言わないわよ!?そう言われるのが嫌なら少しは運動でもしてみたらどうなの!?」
「丁重にお断りさせていただきます……」
それは嫌だ。それにあいにくだが、今の俺にそんなことに使える時間は存在しないし……それに……
「アンタ……なんか色々と勿体ないわよね……」
そして内海は本日二度目の攻撃をしてきた。
でもそれ、お前が言えたことじゃないよ。
内海さんは自分のことをそう思っていないみたいらしく、まるで他人事のように言ってくれるね……
それにしても今週末かあ……
「てか中間試験の2週間後に体育祭ってこの学校、スケジュール調整ヘタクソじゃね?」
「あ、それアタシも思った」
おお。同じ考えの人がいたとは驚きだ。俺、他人とこんな会話したことが初めてだけど。
するといきなり彼女は語り始めた。
「何ていうの?特にこの時期とか色々と詰め込みすぎな気がするのよね。だって体育祭終わったら今度は3週間後にはもう期末テストよ?いくら何でもカツカツすぎるわよ」
「早すぎだよな……」
内海さんは俺の思っていることを全て代弁してくれるかのように言った。
別に、どこの学校も同じようなモノだよって言われればそれまでかもしれないけど、それでも詰め過ぎな気はする。もうちょっと生徒に対する配慮が欲しい。
「まあ、この学校の体育祭は、皆と仲良く体を動かして思い出を作りましょうって感じで殺伐としていて勝利だけを目指すようなものではないのが救いかも知れないわね……」
それはそれで俺としてはどのみち嫌なんですけどね。
「そういやアンタって去年の体育祭とかどうしてたの?千葉君以外とまともに喋ったことあるの?」
「いやぜんぜん?誰とも喋んないよ?あと去年の体育祭は普通に風邪ひいて寝込んでた」
「アンタ、一応聞いておくけどそれ仮病じゃないでしょうね?」
「なわけないだろ」
そんなまさか。
俺は基本的に仮病なんてものは使わないし使えない人間だ。むしろ罪悪感とか覚えてしまいそうで恐ろしくて使えない。
「まあそれならいいんだけど、ってあまり良くないわね……」
「俺としては万々歳だったけどな」
「……はあ」
ため息をつかれてしまいました。
内海さんから見て今の俺はそんなにダメ人間に見えているのか?個人的にはもっとダメなやつが世の中には沢山いると思うのだが。
「あ、そうだ」
内海さんは何かを閃いたような感じだった。いやな予感がする……
「アンタさ、せっかくなんだから体育祭を期に友達でも増やしてみたら?」
「お前って頭どうなってんの?ちょっと気になるんだけど?」
こいつはまた急にとんでもないことを言い出す……
「は?なに急にキモイ事言ってんの?」
「さっきの発言をどう読み取ったらその発言ができるんだ?」
「いや、言ってる意味が分からない……」
ああ俺もだ。お前は何を言ってるんだ?
多分俺たちはこれから先、どうあがいてもお互いを完全理解することなんてできないんだろうな。
……この言い方だとこれからずっとコイツがいることになるな……
「とにかく、友達とかっていらないわけ?」
「いらん」
別にいらない。
人間関係とか面倒くさいことに常に頭に置きながら日常生活をするなんて俺には出来ないし、する気は微塵もない。
「アンタの青春はそんなものでいい訳?」
内海さんはまるで何かを伝えるかのような表情で聞いてきた。
「青春って言ったって、所詮3年だろ?人間の寿命が何年あるか知っているか?」
「今は人の寿命の話なんてどうでもいいから!」
いや結構大事じゃね?人間の平均寿命って年々増加しているし。
「アンタって人間を甘く見てるわよね?」
「俺はそのつもりは無いが……?」
何で少し怒っているの?俺にはその理由が分からない。
あと人間を甘く見るってなんだよ。そんなこと言われても無いとしか答えられないだろ。
「いや見てる。アタシがそう判断した」
「結局お前の主観かよ……」
「人間なんてそんなものよ」
怖いね。人間って生き物は。
そして俺もその内に入っていることか……
すると突然内海さんは何かに気づき、時計を見た。
「あ、ごめん。そういやアタシ日直だった……」
「職員室か?そろそろ行ってきてもいいんじゃね?」
時計を見てみれば時刻は8時15分だった。そろそろほかの奴らが来始める頃合いだ。
「この時間ならもう行ってもいいんだ……。まあとにかくそういうことで」
「考えとくよ」
そうは言ったものの、俺はそんな気はない。
そう言いながら内海さんは素早く椅子から立ち上がり、教室から颯爽と出て行った。
「そう言われてもねえ……」
そう呟いてみても、俺の問いかけに応える人はもうこの教室にはいない。
そんなことを今更したって上手くいくわけないし、失敗したときのリスクの方が何倍もある時点で却下だ。俺は今までそうやって生きていくことにしたんだ。
……こんなことを考えている内は何も変わらないな。
そう思い俺はバッグから本を取り出し読もうとしたが、本の内容がイマイチ頭に入りきらなかった。
最近こういうの多いな……
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