第13話 優等生でした

 「またこれかよ……」


 俺はいつもの如く、朝一番で学校に着き自分の机を見ればどこか見たことのある二つ折りになった紙切れが一枚置かれていた。

 何回目だこれで?

 まあ、これをやるのはどうせあの人だろう。一応中身を見とくか……

 その中身はこう書かれていた。


 (今、あなたの後ろにいます……)

 

 いや怖っ!?

 そんなまるでメ〇ーさんみたいなこと書かないでくれるかな?実際にいるわけじゃあるまいし……

 そして字が汚ねえな……


 「まさか本当にいないとでもおもってたのか?」

 「うおわああああ!?」


 などと思っていたら本当にその人は俺の後ろからヌルっと現れた。

 その登場の仕方はやめてくれ。寿命が縮む。てかどこに隠れていたんだ?


 「なんだ?そんなに驚からなくてもいいじゃないか……」

 「逆に聞きますけど粟島先輩はこんなことやられても驚かないのですか?」

 「その心配はない。そもそも私はそんなことをやられることは無い」


 それじゃあ答えになっていませんよ。

 この人見た目に反して結構残念な人なのか?


 「で、今回はどの様なご用件で?あ、場所変えますか?」

 「いや、場所を変える必要は無い」

 「でも、もうすぐ内海さん来ますよ?」


 ここ最近、内海さんがこの時間から来るのが多くなってきている。万が一誰かに聞かれてはマズイ話題ならば場所を変える必要性が出てくるが……


 「その心配はない。彼女は今日は休みだそうだ」

 「あれ?そうなんですか?」

 「ああ。昨日あたりから熱が出てしまったようでな、まだ引かないらしい」

 「そうですか……」


 内海さん大丈夫なのかな?

 いや、熱が一日で引かないってことはあまり大丈夫そうではなさそうだ。大事に至らなければいいな……

 などと思っていたら、粟島先輩はニヤニヤしながら話し始めた。


 「おやあ?そんなに内海さんが心配なのか?」

 「クラスメイトが熱出して休んでるなんて聞いたら心配ぐらいしますよ……」

 「そうか、クラスメイトか。そうかそうか」


 なんか癪に障る人だな……

 何がそんなに面白いのだろうか?てか仕事仲間が熱出してんのを笑いごとにするのは如何なものかと……


 「まあ、このことは一旦置いといて……。それとは別に君には話しておきたいことがある」

 「……なんでしょう」


 できれば早く終わってほしい。

 

 「そうだな。まずは一つ目だ」


 ああ、これ長くなりそうだ……

 そう思った瞬間俺は諦めて、持っていた本を畳みそれを机の中へと入れた。

 

 「一つ目。君は内海さんとの”決闘”が引き分けになったことを、一応内海さん本人から聞いているがそれは本当なのか?」

 「はい。お互い97点です」


 それがどうしたのだろうか?

 あとなんでそれを知っているんだ?


 「そうか。ならまずは、おめでとうとでも言っておこうか……」

 「は、はあ……」


 引き分けなのに褒められるのは少し、いや結構違和感がある。たとえ相手が相手だとしても。

 

 「なんだ?もっと喜んでくれてもいいんじゃないか?君は唯一、内海さんに白星を挙げさせなかった存在だぞ?」

 「いや、たとえそうだとしても引き分けで喜ぶ人なんて見たことないですよ」

 

 そもそも俺だって今回のテストで初めて満点を逃した身だ。それも相まって素直に喜べない自分がいる。


 「まあいいじゃあないか。それが君だけにしかない誇りの一つだ。これだけは確かな事実だぞ?」

 「……じゃあそういう事にしておきます」

 「それでいい。じゃあ次に二つ目にいこう」

 

 え!?一つ目はこれでおしまい?

 なんかあっけないというかなんでこんなことを聞いたのかが全く分からない……


 「二つ目。実のところを言わせてもらうと、私は内海さんに勉強を教えている身であるんだ」

 「え!?そうだったんですか!?」


 意外、というわけでもないが実際にそうだったとしたらあまり想像がつきにくい光景だな。

 でも……


 「それ俺に言う必要あります?」

 「まあ、今の君の持っている情報の中だとまだこの意味が伝わってないようだね……」


 そう言うと粟島先輩は自身のバックの中からとあるファイルを複数取り出し、俺の目の前に置いた。ナニコレ?


 「……見てもいいんですか?」

 「ああ。真相は自分で確認するといい」

 

 言ってる意味が分からない。何が目的だか分からない。

 だが、見てみないことには始まらない。

 俺はファイルの中から複数枚の紙を取り出し拝見すると……

  

 「どぅええええええええ!!??」


 そこには粟島先輩の各学年、各テストの成績が入っていた。

 てかこれ他人に見せてもいいものなの?

 いやそれどころではない。

 驚くべきにも彼女は全てが軒並み高得点だ。しかも低くて92点ときた。この人なぜこの学校にいるのかと不思議でならない点数だ。

 

 「その顔を見れば大体私の予想通りだ。そしてそれらを踏まえた上でこれを見るといい……」


 粟島先輩はまた別のファイルを取り出した。こういうのいつも持ち歩いてるのかな?そうだとしたらこの人いろいろと頭がイカレテいる……

 そして俺はその中を確認するとそこには各教科ごとの平均点と順位が記載されていた。それらを確認してみると……

 え?全教科1位?

 それも一つだけじゃない。各学年の各学期の中間と期末そして学年末全ての順位が”1”という数字で埋まっていた。

 なんだこれはたまげたなあ……

 でも余計意味わからん。彼女は何故これを俺に見せたのだろうか?自慢でもしたかったのか?


 「あまり分かってなさそうだからもう一度言わせてもらおう。私は内海さんに勉強を教えている身だ」

 「はい……」


 うん。それは知っている。

 てか内海さんってとんでもない人から勉強を教えてもらっているんだな。通りで成績がいいわけだ。


 「成程、まだ分からないようだな。では聞こう。何故内海さんは君に対して”決闘”を申し込んだのかを覚えているか?」

 「それは……」


 内海さんが唯一、教科の順位が1位じゃないのが国語だけであってその相手がたまたま俺だっただけなのでは?

 え?これが答え?そんなわけ……


 「多分君の答えであってると思う。馬鹿馬鹿しいかもしれんが、それが内海千尋という人間だ」

 

 まさかのドンピシャだった。

 馬鹿馬鹿しいと言うと大変失礼だがその通り過ぎてどうしようもない。

 だったら内海さんはなぜこんなことをしてるんだ?これじゃあまるで粟島先輩を追いかけてるようとしか思えない。


 「そしてその理由も至って簡単だ。ただ私に認められたいというだけだ……」


 内海さん。あなたは結構お馬鹿さんだったんだね。いや、今までなんとなく知ってはいたが……

 

 「しかし、私はそんなことをしなくてももう既に十分に彼女を認めている。このことは本人にも伝えてある……」

 「じゃあなんで、内海さんはまだそれに拘ってるんですか?」


 そう聞くと先輩は少し考える仕草をした後……


 「それが私にも分からないんだよ……」

 「えぇぇ……」


 分からないのか……。そこ結構重要なところなんじゃないの?


 「ただ今わかっていることは二つ。一つ目は小説家だ。文系科目、しかも国語にいたっては結構なプライドが高い傾向だ」

 

 まあ、それはわかる。

 

 「二つ目は……。どうやら内海さんは君を特別視しているみたいだ……」

 「え!?内海さんが俺に?」


 それはまた何故?

 俺は特に高校生になってからは何もしてこなかったが……?


 「ああ。そうだ。理由は知らないがそれだけは確かだ」

 「根拠はないんですね……」


 それは分かっていることに入っていいのか?まだ大分あやふやな状態じゃないか……

 

 「ああ。残念ながら私はまだその”根拠”が見つかってないんだ。それが君の中にもあると思っていたのだが………」

 「先輩のその様子だとなかったんですね……」

 「その通りだ」

 

 そう正直に言われると少し無力感が沸いてしまう。どうやら俺は粟島先輩の期待に応えられなかったみたいだ。

 ……勝手に期待されても困るんですが。


 「まあ、これに関してはこれからじっくり調べさせてもらうよ」

 「俺たちに何する気ですか……」


 なんか怖いんですけど。


 「まあひとまずはこんな所かな。有益な時間を過ごせたよ」

 「それならなによりです」


 俺からすればただ時間を奪われた挙句、何もわからずじまいだったが。


 「それじゃあな。今日は内海さんがいない寂しい一日を過ごすんだな」

 「一々癇に障る人ですねえ……」


 そんな俺の言葉を無視するかの如く、何も反応を返さずに粟島先輩は教室から出て行った。

 そういえば今日は内海さんは休みか。久しぶりに静かな一人の時間が過ごせそうだ。

 だがそう思えたのは午前中だけであり、昼休みあたりからは何故だかとても虚しい気持ちになった。

 一人の時間がこんなにも虚しいのは生まれて初めてかもしれない。

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