第11話 一応は決戦前夜

 そしてあの日から一週間が過ぎた。

 時が過ぎるというのは早いもので気が付けばもう5月も終わりが見えてきた。

 そして学生のこの時期と言えばそう、中間試験だ。こればかりは逃れることはできない。

 まあ俺は赤点を取らないギリギリの場所に常に立っている身分なので少しは勉強をした方が絶対にいいのだが、いかんせんやる気が起きてこない。そしてそんなことを考えているうちに試験当日になるってオチだ。

 現に明日から中間試験なのに俺は図書室で本を読んでいる。これじゃあ1年の時と何も変わってない。

 変わったことなんて強いて言うなら一つぐらいしかない。

 それは……


 「アンタ、本当にテスト勉強しないんだ………それでよく進級できたわね……」


 ライバル(?)ができたことだ。

 まあ最初のころのピリピリとした関係性とはかけ離れた感じになってはしまっているが今更である。


 「まあな。国語関連とその他の赤点回避だけは得意分野だ」

 「最初の部分しか褒められたもんじゃないわね……」


 他人から見ればそうかもしれんが、マイナスを打ち消してくれるので実質プラスだ。


 「あ、そだ。座る場所無いからここ座っていい?」

 「ん?」


 俺は図書館全体を見回してみると席はすべて埋まっていた。これではここにいても何もできないだろう。


 「どうぞご自由に……」

 「じゃ、お邪魔しまーす」


 そして内海さんは俺の向かい側で座り始めて、教科書やらノートとかを広げて勉強の準備みたいなものを始めた。

 

 「てか、アンタって図書室とか来るもんなの?音とか人の動きとか気にならないの?」

 「そうだな。滅多に来ないな。でも今月は”誰かさん”と何処かに行っちまって金欠になって何も買えないからここにいるんだぞ」

 「そうなんだ。それはご愁傷様ね」


 内海さんは他人事かのような返事をした。

 お前のことだよ。

 

 「そんなこと言っちまえば内海だってこんな場所あまり来ないだろ?」

 「そうね。来ないわね」

 「じゃあどうしてここに……?」

 「まあ簡単に言うと今日は自分の机に向き合いたくないのよ」

 「……???」


 どゆこと?

 だがその発言は冗談を言っているようには聞こえなかった。原稿の締め切りとテスト期間が被ったとかそう言ったこと?


 「分かってなさそうな顔してるわね……」

 「分からない方が幸せなことってあると思うんだ、俺」

 「何言ってんの急に?」


 あまり触れてはいけなさそうな気がしたので、適当にお茶を濁しといた。濁すといかお茶の入った湯飲みごと放り投げたような感じになったが……


 「そうだ外木場。せっかくだから勉強してみない?アタシも復習ついでに教えてあげようか?」

 「えぇぇ……」

 「あからさまに嫌な顔しないでよ……」


 内海さんは呆れてような表情をしていた。

 面倒くさいなあ……。別に赤点取ってるわけじゃないんだしいいじゃないか。

 

 「明日やる……」

 「明日やろうは馬鹿野郎って言葉知ってる?」

 

 なんかいいなその言葉。俺も使ってみたい。


 「そもそも明日は試験1日目なんですけど?アンタそれ親には何も言われないの!?」

 「いやあ特に?赤点は絶対取るなとは言われてるけど………」

 「ああ、そう……」

 

 そう言うと内海さんは再び呆れたような表情で肩を落としてうなだれた。まるで何かを諦めたかのように……

 しょうがないじゃん。俺の家はそういう適当な家族なんだよ。


 「じゃあどうすればアンタってやる気になれるの?テスト関係なしで」

 「やる気ねえ………」


 そう言われた俺は少し自分について振り返ってみた。

 運動勉強ともにやる気なし。将来の夢、社会人。趣味、本を読むこともとい物語に触れること。

 などとあれやこれやと考えた末に俺の出した結論とは……


 「すまん。わからん」

 「うん。なんとなくそんな気がしてた……聞いたアタシが馬鹿だった……」


 じゃあ初めから聞くなよ。

 

 「じゃあアンタって目標とかってないわけ?」

 「目標……?」


 だいぶふんわりとした言葉だな。


 「そう。自分はこうなりたいとかさ、こんなことをしてみたい的なやつ」


 目標というよりかは夢に近いものか?

 そう言ったものも今の俺には特に無いな。つくづく自分が何もない人間だと実感してきた。とっても悲しい。


 「その様子だとこっちも無さそうね」

 「おっしゃる通りです……」


 そしてそれを察してされてしまうのもまた辛い。

 

 「アンタってホントどうやって国語のテストだけ満点取れるの?知りたくてしょうがないんだけど……」

 

 そんなこと言われたって知らないものは知らないよ。俺の方が知りたいよ。

 ……ん?それじゃあ……

 

 「なあ、逆に聞くけどさ、内海さんって普段どうやって国語のテスト勉強してんの?」


 俺はふと湧いてきた疑問を内海さんに聞いてみた。もしかしたら何かが分かるかもしれないとおもって。


 「ん?アタシ?」

 「そう」

 「うーん……」


 内海さんは少し考える仕草をしたのちに……


 「アタシの場合だと漢字を絶対に間違えないように覚えとくぐらいかな………」

 「うーん……」 

 

 そんなものか。

 だとしたら考えられるのは……


 「なあ、もしかしたらなんだけどさ……」

 「なによ……?」

 「俺と内海さんって、やっぱり物事の捉え方が結構違うんじゃないか?」

 「は?どうゆうこと?それと何が関係してるの?」


 内海さんは頭の上に”?”が見えるような顔と仕草をした。

 うーん、どう伝えるのが一番分かりやすいかな……


 「なんというか、そう。第一印象が違うっていうか……」

 

 なんか違う気がする。自分で言ってても訳が分からなくなってきた。何か手がかりみたいなものがないものか……

 あったかも。

 そう閃いた瞬間。俺は左手で持っていた本を内海さんにも見える位置に移動しながら言った。


 「例えばこれだ。”アンタのことな全然好きじゃないんだから!!”ってやつ。これってどう思う?」

 「どうって。よくあるツンデレキャラのセリフでしょ。テンプレだなあってアタシは思うわよ?」


 うーん。これじゃないか。

 これでは俺と内海さんの考えていることが一緒になってしまっている。


 「てかさ、捉え方の違いってそう意味ではなくない?」

 「そうなのかな?」

 「つまり、アタシとアンタのは考え方の根本が違うって言いたいんじゃないの?」


 確かにそうであってはいるんだけれども………


 「俺はそのつもりだったんだけどな……。何というかちょっとだけ違うというか、これだと半分正解、半分不正解って気がして……」

 「半分ねえ……」


 考えれば考える程どんどんややこしくなってしまっている。


 「あれか?俺の辞書にはあるけど、内海さんには存在しない”ナニかが”あるってことか……?」

 「多分そうなんじゃない?実際にアタシはアンタの言ってることがまるで分からないわ……」


 そうなのかな……

 いや違うな。俺の辞書に載っていないからややこしくなっていってるんだ。だから分からない。


 「すまん。やっぱ俺もよく分かんねえや……」


 自分の言葉を他人の言葉に変換するのって難しいな。普通はそんな事をしないのかもしれないけど他人にとって”分かりやすさ”を重視すると、どうしてもこの手法になってしまう。


 「まあ、物事の考え方に正解はないってことだよ多分」

 「随分とフワフワした結論ね……」


 しょうがないさ。それはこれから探すしかないものかもしれないしな。

 てか内海さんさっきから全然手が動いてないじゃん。

 これは俺がいると邪魔なのか?

 そう思った瞬間、俺は席から立ちあがった。


 「ごめん内海さん。よくよく考えたら俺、今日用事あったわ。また明日な」

 「え?あ、うん。また明日……」

 

 あまりにも適当すぎる言い訳を聞いて少し呆気に取られている内海さんをよそに俺は図書室を後にした。

 今回の話題はしばらく頭から離れそうにないなあ……

 テスト当日にこの話題が解決しなかったらなんか良くない予感がするな……

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