第10話 息抜きだって必要だよ

 「外木場って集合時間いっつも遅れてくるわよね」


 同じ教室なのに何故か校門で集合という形になった放課後。既に内海さんはその場所に立っていた。

 

 「そう言うならせめてもうちょっと細かい時間を指定しろよ……」

 「放課後って言ったら帰りのホームルーム終わったらすぐでしょ?アンタは違うの?」


 じゃあお前が教室で声をかけて来いよ。って言おうと喉まで来ていたが、じゃあお前がやれって言われそうだからやめた。

 勿論、俺にはそんな度胸は無いからな。


 「そういやさ、これからどこ行くつもりなんだ?」

 「うん?そうねえ……」


 そう言うと内海さんは顎に手を当て始めた。

 言い出しっぺなのに何も考えてなかったのか……

 内海さんは意外と思いついたら即行動って人なのかな?周りの人は大変そうだな……


 「ごめん。この辺に特に目ぼしいところないや」

 「えぇ……」


 なんじゃそりゃ。

 これじゃあ無計画の旅じゃねえか。目ぼしい所すらないのかこの辺は……


 「まあいいじゃない。適当にその辺ブラついたりするだけでも結構面白いとはおもわない?」

 「分からなくはないけど……」


 あなたはそれでいいのか?

 学生なのにやってることは完全に老人みたいな事になってしまうがそれでいいのか?


 「さあ行くわよ!大自然がアタシたちを待ってるわよ!」

 「この辺にそんなものは無いと思うが?」


 中途半端に栄えてしまったこの町には何とも言えない建物が建ちまくり、自然という自然もなくなってきているはずだが…… 


 「いちいちうるさいわね……こういうのは気分ってもんが大切なんでしょ?違う?」

 「はいはい。そうですね」

 「ほんっとアンタって適当よね……」


 そう文句を垂れつつも内海さんは歩き始めた。

 俺はその行く先もわからぬまま彼女の隣を歩き始めた。

 

 



 そしてたどり着いた場所は駅前だった。

 

 「ここならある程のものはあるでしょ?」

 「だな」


 確か俺は先程、中途半端に栄えたと言ったがその言葉の正体はココだ。

 この町、何故かこの駅前だけは結構いろんなものがそろっている。駅前なんかどこもそうだろって思うかもしれないが本当にここしか栄えていない。少し歩けば辺り一面には田んぼと畑だらけのクソ田舎だ。

 

 「んじゃ、気になるところあったら言ってみて」

 「うい」


 適当に返事を返しながら歩き始めたとき、さっそく一つの店の看板が俺の目に入った。

 あれはこの前、Toitterで見た和カフェの店じゃね?

 悲しいことにそこまでバズってはいなかったものの、俺は結構気になってたんだよな………

 次にここら辺に来たら寄っていこうと思っていたけど休日は外に出るのは面倒だし、学校帰りだと制服で、しかも男一人で入るにはちょっとハードルが高いなと思っていたから丁度良い機会かもしれん。


 「なあ、内海さん。早速だが、あそこなんてどうだ?」

 「ん?」

 「ほら、あそこ」

 

 そう言いながら俺は店の方角へと指をさした。

 すると内海さんは少し驚いた様子を見せた。


 「へぇ。和カフェかあ。そういうの好きなの?」

 「まあ人並だ」

 「結構意外ね。アンタって」


 好きな食べ物ぐらいあるだろと言いたかったが、多分そう意図での発言ではない気がした。

 でもそんなに意外か?


 「まあ、そこでいいわよ」

 「おけ。お前はあまり食いすぎるなよ?」

 「ホントアンタって一言余計よね………」


 内海さんは文句を垂れてくるが今の俺にはそんなものは通用しない。まさに無敵状態。

 そして何故か内海さんも上機嫌な様子で二人で店の中へと入っていった。


 「いらっしゃいませー。二名様ですね。こちらの席へどうぞー」


 俺は店内を軽く見まわしてみたが思っていたよりも若干混んでいた。

 駅前というのがやはり一つの強みなのかな……?


 「こちらメニューでーす。お決まりになりましたらお呼びくださいー」


 少しノリが軽い店員さんにメニューをもらい、さっそくその中を見てみた。

 と言っても、今日俺が頼むものは既に決まっている。今は次来たときは何にするかを決めるための時間だ。


 「へえ~。和カフェって和菓子と抹茶以外にも結構いろんなメニューあるのね………」


 前々から思っていたんだけど、内海さんって結構偏見すごいよな。偏りに偏っている感じだ。


 「もしかして、和カフェは初めて?」

 「そうわね……。アンタはそうは見えないわね……」

 「ここに来るのは初めてだけどな。一目置いていた店ではあるが……」

 「へえ~」

 

 内海さんは物凄く意外そうな眼をしてこちらを見ていた。

 でもどちらかというと呆気にとられてる感じか?よくわからん。


 「じゃあさ、なんかよさそうなの教えてよ。メニューをぱっと見た感じ苦手そうなのは無かったし」

 「まあいいけど………。本当は自分の好きなやつの方がいいとは思うけどな。俺は……」


 俺もそこまで詳しいわけじゃないから少し不安なんだよね………


 「いや大丈夫よ。この場合、こっちの知識ではアンタの方がありそうだし

 「じゃあ………」


 そう言われたら断れないじゃないか。ただでさえ断れない性格だというのに………

 しかも謎の信頼のせいでプレッシャーが凄い。これじゃあ失敗が許されないな………。

 そう思いつつも俺は机の上にメニューを広げ、その中身を凝視した。

 すると内海さんは何故か突然噴き出した。


 「あははは。そんな真剣にならなくても大丈夫よ。」

 「笑わなくてもいいだろ……。せっかく真面目に選んでやってんのに……」

 

 最初に期待してきたのはそっちだろ……失礼だとは思わないのか?

 まあ思わないんだろうな。


 「ごめんごめん。いや、そんな真剣にメニューを見ている人初めて見たわアタシ。」


 今の俺はそう見えていたのか。なんかちょびっと恥ずかしいな………


 「じゃ、あ、コレなんかどうだ?」


 俺は今の感情を隠し通すようにメニュー表に指をさした。


 「抹茶プリン?」

 「ああ。この手の奴はどこも美味しかったし、これは外れないと思うぞ。人気No2っぽいし」

 

 なんだかんだ言ってこういうのって侮れない美味しさを持ってるとおもうんだよね。


 「んじゃ、それにするわ」

 「わかった。すいませーん」 


 頼むものが決まったので、俺は店員さんを呼んだ。


 「承りまーす」

 「限定クリームあんみつと抹茶プリンを一つずつで」

 「はーい。限定クリームあんみつ一つと抹茶プリンを一つですねー」

 「はい」

 

 よし。まだ今日の分はまだあったか。これはラッキーだ。

 そして店員さんが去ったあと内海さんが口を開いた。


 「え?そんなのあったの?」

 「なんのことだ?」

 「とぼけないでよ!何よ”限定クリームあんみつ”って!そんなのメニューになかったわよね!?」

 「いやあ、アレさ、数量限定の裏メニューなんだよね………。同じのはちょっとどうなのかなって思って……」


 そうは思ったが、さすがに何か言うべきだったか?なんか悪いことをしてしまった気分だ。

 だが内海さんの様子はいたって冷静になっていた。

 

 「まあいいわ。次来た時に頼むから」

 「あ、ああ。すまんな……」

 

 次があるのか……

 さり気なく内海さんは凄いことを言ったような気がするが、本人は気づいてなさそうだ。まあその方がいい気もする。

 

 「そういや内海さん」

 「うん?」

 「先週のことで悪いんだけどさ、粟島先輩がさ、内海さんの集中力がここ最近切れやすいって言ってたからさ、もしかしたら……」

 「何?原因がアンタだって言いたいの?それなら違うわよ」


 俺の話を遮りながらも彼女はそう言い切った。

 

 「これは所謂、ちょっとした不調よ。アンタにもあるでしょ?そういう日」

 「まあ、確かにあるな……」

 「そう、それよ。たったそんだけの話よ」


 そうだったのか。それならよかった。

 もし本当に原因が俺だったから自分に絶望していたかもしれない。そう思っていると結構不安だった。

 

 「アンタって変に真面目よね……」

 「なんだ急に?」

 「いや、さっきのメニューの件と言いなんかそんな気がしてね……。少し気を付けた方がいいわよ?」

 「???」


 一体どういったことだ?これは忠告なのか? 

 でも他人に言われたことだからせめて頭の片隅にでもおいておこうかな……


 「お待たせしましたー。限定クリームあんみつと抹茶プリンでーす」


 などと考えているうちに待望のブツがやってきた。

 てか待て。


 「「なんかデカくね!!??」」


 そう。なんか全体的にデカいのだ。

 デカすぎて思わずは内海さんとハモってしまうほどだ。


 「あははは。アンタのあんみつでっか!まるでコ〇ダじゃん!」

 「確かにデカいけど内海さんのプリンも大概だぞ!そんな大きさのプリン見たことがねえ!バケツで作ってんのか!?」


 さすがにバケツで作ったは誇張しすぎだが、実際それぐらいの大きさだ。デカすぎて二人して笑ってしまうほどだ。


 「そんだけデカいんだからアタシに一口ぐらい頂戴よ?」

 「ああ。たんとくれてやる!」

 「それじゃあ……」


 「「いただきます!!!」」

 

 俺はスプーンですくったあんみつを口に入れ……

 いや美味!!??

 すげぇー美味い。今まで食べた中で一番と言っても過言じゃない。それくらいにすごい。

 さて、内海さんの様子は……


 「んんんんん!!!???」


 ……この様子だと言うまでもないか?

 もう顔がマジで溶ける5秒前みたいなことになっている。目が輝いて見える。そんなに美味しかったのか……

 まあ、内海さんが美味しそうに食べてくれるなら選んだ俺としてもとても嬉しい事だ。

 すると急に内海さんがこちらを見てきて……


 「ねえ?アンタのあんみつも食べてもいい?」

 

 そんな物をねだるような言い方をするな。そんなこと言わなくとも……


 「俺はくれてやるって言ったぞ?」

 「じゃあ……いただきます……」


 そう言うとよそよそしく、俺のあんみつを取っていった。

 いや結構持っていくな!?

 

 「んんんん!!??」


 うん。よく美味しそうに食べるね。その感情がまるでダイレクトにこちらにも伝わってくるよ。

 すると今度は内海さんの方からプリンをこちらの方へ動かして……

 

 「アンタもこっち食べてもいいわよ!」

 「それじゃあ……」


 せっかく食べてもいいと言うのだからもらわないわけにはいくまい。

 俺は自分のスプーンでプリンを救い上げ、口へと運んだ。


 「うん。美味しい!」

 「でしょー!?」


 これまたほかのどこよりも美味しく感じる程だった。

 すごいなこの場所は!常連にでもなろうかな……

 そして俺たちはこのテンションのまま、あんみつとプリン両方を満喫した。





 「いや~美味しかったわね~」

 「ああ、予想以上だ」

 

 食べ終えた後、俺たちは公園のベンチにて座っていた。

 量が量なだけあって、食べきるのに時間はかかってしまったしお腹もタプタプだ。

 

 「それにしてもよく食べきれたわねアレ」

 「まあな。それとお前もな?」

 「いやでもアタシもう夕飯食べられないかも……」

 「そこだけは失敗だったかもな……」

 

 逆言えばそれ位しかないぐらいの満足感である。

 これだけの店は初めてかもしれない。


 「あ!?ごめん外木場……。アタシそろそろ帰って原稿進めたいかも……」

 

 気が付けばもう夕暮れが見える時間帯になっていたようだ。

 そう言わてしまったら仕方がない。応援する作家さんの仕事の邪魔をするわけにはいかないな。


 「ああ、大丈夫だ。気をつけて帰ろよ」

 「うん。また……ね?」


 そして俺は柄でもなく軽く手を振って彼女を見送った。

 なんか今日はとっても充実した一日だったな……

 でも楽しかったのは事実だが、財布がとても軽くなったのは痛手かも知れない……

 それでも今日と言う一日は忘れられないだろう。

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