第9話 憩いの場所にもまた一難?

 「遅い!!」

 

 翌週の月曜日の昼時。

 いつもなら人目につかないような場所で時間をつぶすのだが今日は何故か先客がいた。

 そう、内海さんである。

 彼女は何故か俺のいつもいる移動のめんどくさい場所にある使われていない空きの教室にて先に座っていて、まるで待っていたかのような状態だった。

 お前友達とかいないのか?

 そして何故この場所を知っている?いや、何故この時間に俺がこの場所に来ると知っているんだ?

 

 「でていけ」


 よくわからんが俺は内海さんが出ていくように命じていた。


 「何よその言い方!?」

 「なんでお前がここにいるんだよ!」

 「え?千葉君があいつならここにいるよーって言ってたわよ」


 あんにゃろめ……勝手なこと教えやがって……

 今度会った時覚悟しとけ……


 「お前、友達いないんか?そいつらのところにでも行ってきたらどうだ?」

 「アンタにだけは言われたくないわね!今日は用事あるって言ってきた!」


 どうやらこの場所を譲る気はなさそうだ。こうなったら面倒くさいのを受け入れるしかないな………

 てかその用事が俺かよ。またあらぬ誤解が生まれそうで嫌なんですけど。

  

 「しょうがねえな……」


 そうして俺は近くにあった椅子を持ってきて……

 ……俺、どこに座ればいいんだコレ?

 こういう経験が皆無すぎてどうすればいいのか分かんねえ。

 会話をするんだし、正面が無難なのかな……?

 そして俺は内海さんと向き合うようにして座った。

 その行動を見た内海さんは少し驚きの表情で呟いた。


 「あ、正面なのね……」


 あれ?違った?


 「え!?ダメ!?」

 「別にダメではないけど……」


 じゃあ何なんだよ。そんなこと言われても俺にはさっぱりわからんぞ。 

 そう言いながら内海さんは自身の弁当の包みを取ってそこから出てきた昼飯は……

 ……お好み焼き?


 「学校でお好み焼き食べてるやつ初めて見たわ………」

 「え?いいじゃない。別に」

 「まあ、お前がいいんならいんじゃねえの?」

 

 確かに他人の昼食にとやかく言うのはあまり良い事ではないかもしれないな。でもそれ後で匂いとか気にならない?大丈夫なの?

 そう思いながら、俺は購買で買ってきた焼きそばパンを口へと放り込んだ。


 「っで、本題なんだけどさ……」

 「もほほ?」

 「何アンタ?ふざけてるの?」


 じゃあ他人が食っているときに話しかけんなよ。返事できるわけねえだろ。


 「で?なんだよ?」

 「……来週の水曜から中間じゃん?そういやアンタってどう勉強してるのかなって思ってさ……」


 なんだそんなことか。

 そういやそんな時期だな。

 だが俺の答えは既にある。


 「いや。勉強なんかしないぞ?」

 「はあ!?」


 まあ、当たり前って言えば当たり前な反応が返ってきた。普通はそうだよな。それが学生だもん。

 

 「ええ!?でもそれじゃあどうやって1年間で全部満点なんか取れるのよ!?」

 「いや?俺もよく分からん……」


 こればかりは謎だ。

 普段から本ばっかり読んでいるからそれなりの点数を取れるとは思ってはいるけど、実際はそれなりどころか完璧だったってオチなわけだ。

 漫画のキャラクターかな?


 「嘘……。アタシってノー勉の奴に負けてたの……?」


 今のあなたのその理論で言うと、誰も俺に勝ててないことになるんですけど?

 え?これが俗にいう”俺TUEEEEEEEE”ってやつ?もしかして俺って知らない内に異世界転生でもしてたの?

 その割には規模がちゃっちいな……

 てかそもそもの話……


 「ちゃんと勉強してれば他のテストで赤点ギリギリにはならなくね?」

 「確かにそうわね……。アンタって不思議ね……」


 うん。君も大概だよ?

 普通の人は学生の内から小説家にはなってない。というかなれないよ。

 

 「しょうがないわね。これじゃあ何を聞いても意味がない……」

 

 内海さんはどこか諦めたかのような様子だった。

 いったい彼女が何を企んでいたかは俺は知らない。というかあまり知りたくない……


 「じゃあ何?アンタってトリックかなんかあるの?」

 「トリック?」

 

 何だよトリックって……そんな器用なことできねえぞ俺は。

 ただ言えることとしては……


 「毎日、本読んでればいいんじゃね?」

 

 まあこれしか無かろうよ。むしろこれ以外の答えが存在しない。


 「ま、それしかないわよね……。アンタってもしかしたら”天才”なんじゃない?」

 「国語のテストだけ満点を取る才能ってこと?」

 「そゆこと~」 


 くっそいらねえ!!

 どうせならもうちょっとマシなものが欲しかった。これじゃあ才能の生かしどころが限定的過ぎるし、学生で無くなった瞬間に産廃性能と化する。

 これを見ているそこのキミ!もしよかったらこの才能どうだ?少なくても学生の内は無双できるぞ。

 ……国語だけ。

 もしこんなこと言われたら絶対にいらないと答えるだろう。そういう事だ。

 ……にしても


 「内海さん。よく食べるね……」

 

 こうやって会話をしながら3枚ぐらい食ってたぞ。一体その体のどこに入るんだ?


 「アンタが少なすぎるだけよ!パン一個しか食べてないじゃない?そんなんで大丈夫なの?」

 「いやあ、俺そんなに食えなくて……」


 確かにパン一個は少ないかもしれないな。

 でも俺はこれでも十分だ。まだ食えなくはないけど食いすぎるとあまり良くないと思うしな。


 「もしよかったらでいいけど、アタシのたい焼きもあげるわよ?」


 そう言うと内海さんは茶袋を取り出した。


 「え?お前まだ食うつもりだったの……?」

 「当り前よ」


 てかたい焼きとかチョイス渋っ!

 学校のお昼にたい焼きを食う女子高生なんてめったに見れるもんじゃないだろコレ。

 彼女の弁当箱(?)にはまだまだ食べ物が入っており、さすがに食いすぎる気がすると思ったもでもらっておくことにしよう。


 「……じゃあ有難くいただくよ」

 「いいわよ」


 俺は素直にそのたい焼きを受け取った。

 

 「あ、まって!やっぱ半分だけ頂戴!」

 「食いしん坊め……」

 「う、うるさいっ!」


 そんな照れくさそうな表情をするな。そんな顔しても別に何とも思わねえよ。

 そう内心思いつつも俺はたい焼きを半分に割り内海さんへと渡した。


 「ありがとっ」

 「もともとお前のだろ?」

 「それもそうね……」


 こうして二人してたい焼きを食っていたんだが………

 これってなんだか変じゃね?

 普通の学生ってさ、昼休みに男女二人で食い物を半分に分けあうことってしないよな?

 これじゃあまるで………

 ………。

 そんなわけないか。


 「外木場ってさ………」

 「え?な、なに?」


 唐突に聞こえた声の方角へと顔を向けると、そこには少し頬が紅潮した内海さんがこちらを向いていた。

 彼女のたい焼きは一口も減っていなかった。


 「放課後って暇なん………?」


 なんだ急に?

 それはもちろん………


 「何も予定はないけど……。どうした?」

 「へえ!?いやあ、えーっと……」

 

 どうしたのだろうか?いつもと様子がおかしい気がする。

 だが、それは俺にも言えたことかもしれない。何故か心臓がバクバクになってしまっている。

 いくら他人と会話をする機会が少ないと言っても、これまでの緊張?をすることは今まででもそうそうないはずだ。


 「何というか、気晴らし?みたいなことしたくて?」


 何故に疑問形?

 どこか寄り道でもしたいという事なのか?でも結構唐突な提案だな……

 

 「そういう事なら構わないけど………」

 「そ、そう……。じゃあそゆことで、ね……?」


 よく分からないが、決まったらしい。

 まあ、たまにはそういうのも悪くはないのかもしれないな。


 「じゃ、じゃあ、また放課後に。またね……」

 「あ、ああ……」


 そう言いながら内海さんは一口も減っていないたい焼きを片手に小走りで教室から去っていった。

 てか、同じクラスなんだからまたとか無いのでは?すぐ会ってしまうけれども?

 よくよく考えたら俺、歩以外の奴と初めて二人っきりで何処かに行くことになってね?しかも、女子とか……。

 ヤバい。なんか急に緊張してきた。

 なんで俺あんなにあっさりOKしてしまったのだろう。何をしてくれちゃってんの俺?

 その後、俺は昼休みが終わる時間ギリギリに教室に戻り、内海さんのことばかり気になってしまい授業の内容なんかこれぽっちも頭に入ってこなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る