第8話 新たな刺客?

 そしてあれから数日が立った。

 あの日から内海さんとはロクに会話もできないまま気付けば既に金曜日になっていた。

 悪評みたいなものは広まってはいなさそうでその点の心配はないけれど………

 けれども、なんかモヤモヤするな………

 それでも、今日も今日とて俺は朝早くから学校に着き本でも読もうとした時、一枚の二つ折りの紙切れに気が付いた。


 「なんだこれ?」


 誰かが俺の机に置いたまま忘れていったのだろうか?

 ………いやなんで俺の机に?

 幸いにもこの時間は誰もいない。持ち主には少し悪い気がするが中を拝見させてもらおう。

 そしてその紙に書かれた文字を見てみると……


 ”今すぐ屋上”


 そう書かれていた。

 なんだかとっても既視感がある。

 てかこれ絶対に内海さんでしょ。なんか前回よりもさらに文章が短くなってて字も汚くなってるし……

 しかも名前書き忘れてんじゃん。前回の反省はどこ行った?

 でもここで俺には疑問点がいくかでてきた。

 一つ目、何故今になってこのような伝え方をしてきたのか。既に俺たちはrinelを交換しているわけだし別に置手紙みたいなことしなくてもいいのではないだろうか?

 そして二つ目、何故明確な時間が記載されていないのか。まああいつの場合、俺が朝早くからここへきているのは知っているだろうからあえて書いていないだけかもしれないが。

 ダメだな。考えれば考えるほど不可解な点が出て来てしょうがない………

 こうなったら実際に行って確かめるのが正解な気がする。

 よし、善は急げだ。

 そう思った俺は紙切れを机の上に放り投げ、屋上へと向かった。



 

 で、来たのはいいのだが………


 「誰もいない………」


 とてもデジャヴを感じるのだが。

 この流れだとまるで………

 とその瞬間、屋上の扉が開いた。

 まさか本当に起きてしまうとはと思ったものの、その場所に現れたのは内海さんではなかった。

 

 「この時間にこの場所に来たってことは、キミが噂の2-Bの外木場勇翔で間違いないのかな……?」

 

 そう言いながら現れたのは、黒髪ロングの女子生徒だった。ぱっと見先輩っぽい。


 「そうですけど、俺に何か用ですか………?」


 いろいろと訳が分からない。


 「そうか、キミが外木場勇翔か……」

 

 そうして先輩(?)は俺の顔を見ながら頷いていた。

 何が目的なんだろう、まるで意図が読めない。

 そして頷いていた先輩(?)は少しハッとした表情を見せた。


 「おっと、自己紹介が遅れたな。私は3-Aの粟島だ。君の机に紙切れを置いたのは何を隠そう私だ」

 「そうですか……」


 まあこの場にいるってことはそうだと思ったよ。 


 「心配するな。君のことは内海さんから聞いているよ。変なようにはしないさ……」


 ほえ~。内海さんと知り合いなのか……

 ……なんで?

 それを知ってしまうと二人の関係性が気になるな。確か内海さんってこの前帰宅部って言ってたような気がするけど……


 「それで何故、粟島先輩は俺をここへ呼んだ理由はなんですか?」


 俺は今抱いている疑問を先輩に投げかけた。


 「理由?そうだな……」


 そうすると先輩は何かを考えるような仕草をし始めた。

 え?ここに俺を呼んだのは先輩ですよね?

 などと考えているうちに先輩は口を開き始めた。


 「まあ単純な話、私は一度キミがどんな人だったのかを確かめたいだけだったんだよ。それだけの話」


 ようわからん……

 何故、彼女が俺の存在を知りたいのかが分からない。 

 などと思っていたその時、またもや扉が開いた。

 そこに立っていたのはここ最近ロクに会話をしていなかった人物だった。


 「こんな時間から何してるのよ、レイさん」


 少し呆れながら、でもどこか心配していそうな顔をしていた内海さんが立っていた。


 「なんだ、内海さんじゃないか。おはよう」

 「あ、はいおはようございます。あと外木場も……」

 

 うーん、なんでここに内海さんが?

 

 「な、なんでここへ……」

 「なんでって言われても……アンタの机にこれがあったから……?」


 そう言いながら、内海さんは小さな二つ折りの紙切れを取り出した。そういえば机の上に置きっぱなしにしてたな……


 「最近のレイさんの発言とこの字の汚さから見てさ、もしかしてと思って来てみたらこれよ……。レイさん。何も変な発言はしてないわよね?」

 

 内海さんはそう言いながら、粟島先輩を睨みつけるような目で見ていた。

 おいおい、いくら知り合いだとしても先輩にその顔はしちゃイカンでしょ。

 しかし、粟島先輩はいたって冷静だった。


 「いいや?何も言ってないけど?なあ、外木場クン?」

 「え?そ、そうですね」


 何故俺に話題を振ったんだこの人?


 「だそうだ。別にここ最近、内海さんがボーっとしるのが増えたり集中力をよく切らしている原因を探したわけではないぞ?」

 「全部言っちゃってるじゃないですかあああああああ!?」


 内海さんは物凄い顔で絶叫していた。

 なるほどそれが理由か。

 最近というものがどの位の日数なのかが分からないが、俺と内海さんが知り合ったたという出来事が先輩の中では”最近”という分類にされたのだろう。

 それだとまるで俺って内海さんの作家活動を邪魔しているってことにならない?もしそうだとしたら俺はとんでもない大罪人だ。

 自分のせいで一人の作家さんが引退なんてことになったら、俺だと責任取れないぞ……。

 あれ?いや待てよ……

 なんで粟島先輩が普段の内海さんの内情的なことを知っているんだ?俺から見て、この二人は親戚とかではないと思うのだが……


 「失礼ですが、あのー、二人の関係性というものは……」

 

 俺は恐る恐る聞いてみた。


 「おや?内海さんはこのことを話していないのかい?」


 先輩は少し驚き表情を見せた。どうやら彼女の中では既に過去の出来事だと思っていたらしい。

 そして、内海さんも似たような状態で呆然としていた。


 「へ?アタシは別にそのことを話す必要は無いかなあって。レイさんだって何も言ってなかったんですか?」

 「いや?すでに話していたつもりで会話をしていたのだが……」


 なにがどうゆうこっちゃ……

 何も知らない俺からすると、二人が何について話しているのかが理解不能だ。一体どういった関係なんだ?


 「じゃあ、せっかくだから私から説明させてもらおう。君ならすぐにわかるさ……」


 すると、一歩先に出たのは粟島先輩だった。

 あと俺ならわかるってどんな分野だよ。


 「改めて自己紹介をしよう。私は粟島玲。イラストレーター名義では”冷凍みかん”という名前で活動をさせてもらっている」


 ………はい?

 イラストレーター?この人が?

 というか、冷凍みかんさんってことは………


 「ええええええええええええええええええ!!!?????」

 「うわ!?外木場うるさっ!?」

 

 驚かないわけがない。むしろ驚くなというのが無理な話だ。

 え???じゃあつまりこの二人って……

 ”キオクのハテナ”のシナリオ担当とイラスト担当の二人!?


 「冗談ですよね……?」


 さすがにそんなはずはないと思った俺は恐る恐る二人にそう問いかけた。

 

 「残念ながら冗談ではない……」

 「ま、事実かな……」

 「うそだろ……」


 俺はとても信じられないといった顔をしていたのか知らないが、粟島先輩は、その場でメモ帳に何かを書き始めた。

 そして……


 「即席の落書きだが、これで証明になるか?」


 先輩は出来上がったイラストとToitterのアカウント画面を見せた。

 ああ……これ本物じゃん。

 まさかこの学校にプロのクリエイターが存在していたとは……なんだこれは、たまげたなあ。


 「まあ何はともあれ、これで私としても一つの”壁”が見えたことだし私は教室に戻らせてもらうよ……」

 「え?あ、はい……」

 

 衝撃を目の当たりにしている俺をよそに、先輩は屋上から颯爽と去ってしまった。

 そして俺はその姿を後ろから見つめることしかできなかった。

 そんな様子を見ていたらしい内海さんは扉が閉まった後、俺に話しかけてきた。

 

 「外木場……、アンタいつまでそのアホずらしているのよ……」

 「今の俺はアホでもいい……」

 「開き直った!?まあ、気持ちは分からなくもないけどさ……」


 内海さんは驚きと納得の表情をしていた。

 そうか、わかってくれるのか。

 でも俺はふと疑問に思った。それは……


 「なんか、イラスト担当とシナリオ担当のイメージ真逆じゃね?君たち?」


 なんかこういうのは賢そうな人がシナリオで、なんかこう馬鹿っぽい人はイラスト担当だと思っていたのだが……


 「ああー、それよく言われるわ……。確かにレイさんって頭良いし………」


 お前も大概だろと突っ込んでやりたい。


 「んじゃ、アタシも戻るわ」

 「俺も戻るか……」


 まだ学校は始まってすらいないというのに俺はもうクタクタだ。もう帰って寝たい。

 でも、何故か今日はなんか清々しい気分だ。

 今日まで何かが足りていなかったのかは知らないが、きっと何かが解決したのだろう。

 その正体は今の俺には知ることができないだけかもしれないけどな。

 などと何もわかってないくせに分かったかのような気分で内海さんと教室へと戻っていった。




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