第4話 陽キャって怖い

 「疲れた………」


 やっと放課後だ……

 朝の出来事がまるで遠い昔のような感覚だ。自分の悪いうわさ話が広まっていないか周りの話が気になってしょうがない一日だった。

 ああ、こんな日はすぐ帰ろう。そうしよう。

 そして俺は急いで帰り支度を済ませて帰路に就こうと席を立ちあがったその時、見知った影が俺に近づいてきた。


 「よう、今話題の外木場勇翔くん!」

 「やめてくれよ……その言い方……」


 歩はあまり悪気の無さそうな感じで俺に話しかけてきた。

 こんな時でも構わず声をかけてくるのが歩の良いところでもあり、悪いところでもある。

 

 「で、何用だ?」


 俺はさっさと帰りたいので歩の要件を聞いてみた。


 「いやあ、お前と話したい奴がいてな。この後時間あるよな?」


 うわあ……

 絶対行きたくねえ……

 もう勘弁してくれよ。俺は一体前世で何をしでかしたんだ?独裁国家の最高責任者だったのか?


 「なんだそのあからさまに嫌そうな顔をして……」

 「するに決まってるだろ。結局前回があの様だったんだぞ!」

 「勇翔。俺はな、切り替えっていうのがとても大事だと思うんだ。それに今回は相手の名前もわかっているし、要件も俺が把握している。だから安心しろ」


 歩は自信満々にそう答えた。 

 うーん、それなら安心なのかな………?

 でもこいつこの前、俺の人間関係のこと”面白い”の一言で表しやがったんだよな。いくら旧知の仲とはいえ、安易な信用は己の破滅を導くかもしれん。

 ここは少し慎重に行くとするか……


 「そうか。じゃあ相手がどんな奴かを教えてくれ。わかるんだろ?」

 「ああ、いいぜ」


 歩は結構すんなりと答えた。

 あれ?もうちょっと濁すなりすると思っていたんだが……

 まあいいか。


 「相手は、和泉和斗。バスケ部に所属して、次期キャプテン候補みたいだぞ」


 うわあ、これまたハードルの高い人物が出てきたな。

 バスケ部でキャプテン候補?それはもうバキバキの陽キャと言って差し支えないのではなかろうか?もう住んでる世界が違うのでないか?

 続きを聞くのが嫌になるな……

 そんな俺の気持ちは勿論通じるはずもないので歩はそのまま続けるようにしゃべり始めた。


 「で、その聞きたいことは今朝のことだそうだ」

 「やっぱそれかよ!」


 答えを聞いた瞬間、俺は絶望した。いや期待をした俺が馬鹿だった。

 なにが安心かな?だよ。ふざけるのも大概しろ。便器に顔突っ込むぞ。


 「まあでも安心しろ」

 「できるかあ!」


 信用できるかそんな言葉!

 俺は逃げ出すように席から立ち上がりながらそう叫び、教室から出ようとした。


 「あ!ちょっと待てよ!」


 引き留めようとする歩の声を無視し、教室から出ようとドアに手を伸ばしたその時、そのドアは俺が触れてもいないのに勝手に空いた。

 そして……


 「うお!?」

 「うぇ?」

 ドシン!

 

 向かい側から入ろうとした、高身長の男子とぶつかってしまった。

 俺としたことが周りが良く見えてなかっったようで思いっきり尻もちをついてしまった。ケツがすげえ痛い。

 

 「大丈夫かい君?」


 ぶつかってしまった男子は特に痛がる様子を見せず、俺に手を差し伸べた。

 どうやら相手は損傷ナシのようだった。まあこの体格差だからな……


 「すみません……」

 「いや、こっちは大丈夫だよ。むしろこっちこそごめんね」

 

 俺は相手の手を借り、立ち上がった。

 にしてもでかいな。いったい身長はいくつあるんだ?スポーツとかやっていたら結構有利に働きそうだな。

 そうすると彼は俺にはもう用はないようで俺の隣を通り抜け、誰かのもとへと向かっていった。

 その人物とは……


 「おーい、千葉くん。例の人物とは連絡取れた?」


 どうやら歩の友達だったらしい。

 てかガタイの良いこの二人が並ぶとなんか凄いな……


 「なんだ和泉。こっちまで来たのか?」

 

 ……ん?さっき和泉って言わなかった?

 いやな予感がする……


 「勇翔のことか?それならそこにいるぞ」

 「そこ?」

 

 歩はそう言うと俺の方へと指をさした。こらこら、人に指をさしてはいけませんよ?

 いやそんなこと言ってる場合じゃない……


 「え!?もしかして君が?」

 「……はい。外木場勇翔です……」


 まさか相手の方から来るとは思いもしなかった。完全に予想外の出来事だ。

 これはもう覚悟を決めるしかなかろう。


 「そうか。君が外木場くんか………」

 「そうですね」


 彼もとい和泉はじっくりと俺のことを見ながら顎に手を当てていた。

 もう早く帰りたいからこっちから聞いていいかな?

 そう思った俺はすぐさま彼に尋ねてみた。


 「それで、要件とは何ですか?」

 

 俺は本題であろうことを切り出した。

 彼はまるで何かを警戒するように辺りを少しを見回した末、口を開いた。


 「そうだね、この教室はもう人がいないからここで話そうか」

 「……はい」


 和泉は先程とは違い少し低いトーンで答えた。

 人目を気にするということは、あまり他人に知られたくないのだろう。それだと余計に怪しいんだけど、この際どうでもいいか……


 「ああ、後そんなかし後こまらなくていいよ!」


 自分からトーンを下げたくせによく言うよ。

 でもそう言うならば気を使わなくてもいいか……?


 「それじゃあ遠慮なく……」

 「じゃあ、話すとしようか……」


 さあて、今度は一体どんな面倒ごとだ?

 ここまでくるとなんか逆にもう楽しくなってきた。


 「君は内海さん。内海千尋さんから”決闘”を申し込まれたのは本当かい?」


 そして開口一番で出てきたのはまさかの内海さんだった。

 わあ、これが面倒ごとの連鎖ってやつだね。クソが。


 「ああ……」

 「それなら僕からは一つだけ言っておくよ。君は彼女には勝てないよ」

 「………はい?」

 

 今なんて言った?

 勝てない?俺が?内海さんに?

 困惑している俺を差し置いて和泉は続けて語った。

 

 「内容が何かは僕は知らないけど、本気になった彼女を止められる人間はいないよ」

 「………???」

 

 余計に意味わからん。

 何故、彼がそれを語っているのか?そしてそれが事実とすれば何故それを彼が知っているのか?二人はどういった関係なのか?

 そしてどういった趣旨で発言したのか。

 考えれば考える程分からない。

 

 「そう言える根拠は?」


 そして考えついた末、俺はその謎を一つずつ埋めていこうとした。


 「簡単な話だよ。僕は、いや違うね……彼女に”決闘”申し込まれた人たちは、全て敗れていったからだよ」

 「!?」


 全員が!?

 そんなことがあり得るのか?

 いや、そうだとしても……


 「勝負の内容は……?」

 「人によって内容はまちまちだけど、共通して言えることは、全員がその得意分野で敗れているのは事実だよ」

 

 和泉の答えを聞いた俺は唖然とした。

 なんてこった。

 でもこんなことがあり得ていいのか……?

 俺は少しだけスパイスを加えてみることにした。


 「それなら俺も決闘の内容を教えよう。それは、次の中間テストの現代文だ」

 「なるほどね。そうきたか………」

 

 和泉は少し納得したかのような表情を浮かべていた。

 そうきた、ということは少なくても彼は、彼女についていろいろと知っているようだ。それもただの友人というにははみ出しているくらいに思える。

 でも正直に言うと、俺は別に内海さんの事が知りたいわけではない。

 どちらかと言うと俺は被害者の立場ということもあってあまりその真相については触れたくないのが本音だ。


 「知りたいのはそれだけか?」


 俺はさっさと終わらせたい雰囲気を醸し出しながらそう聞いてみた。

 そして和泉の反応は……


 「うん。とりあえず聞きたいことは聞いた感じかな……」

 「そうかい」


 どうやら彼の目的は一応達成したらしい。

 本当はどうなのかは知らないが俺が知ったこっちゃない。


 「とりあえず、僕からは一つだけ忠告をしておくよ。彼女の”本気”に飲まれないように気を付けてね……」


 和泉は最後にそう言い残して教室から出て行った。

 飲まれるな、か……

 それは一体どういった意図の発言なのだろうか……?

 その後、歩と会話をしながら下校したが、頭の中がさっきの会話の内容でいっぱいになり歩の言っていることの内容などろくに覚えることができなかった。

 次会ったら謝っとくか……

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