第3話 偶然で必然な遭遇
「よう勇翔」
「どうしたんだ?こんな朝早くからとは珍しいな」
まだ、朝のホームルームまで50分ぐらいあるこの時間に、歩は話しかけてきた。
………なんとなく理由が分かってしまうのがとても嫌だが。
「っで、昨日は結局どうなったんだ?」
歩は少しニコニコしながら俺に聞いてきた。
やはりそうきたか。
まあそんな気はしていたから、どう答えるなんかは既に決まっている。
「何も……なかった!」
俺の出した結論はこれだ。
実際はなんかもっといろいろあったけど、まず相手の名前が分からないとか因縁の内容が結構しょうもないとかいろいろあるけど結局のところ説明がめんどくさいということだ。別に誰かに話す必要性もないと思うし。
「………マジ?」
「マジだよ。屋上に誰もいなかったぞ」
「なんだよそれ。面白くねえなー………」
俺からすれば、相手から一方的に因縁つけられた挙句、決闘まで申し込まれたから”面白い”の一言で済まされるのが癪だな。
それを承認した俺も大概な気がするけど。
「しょうがないだろ。現実はこんなもんだよ」
「そっか~」
そう言うと歩は、一気に俺への興味を失ったかのような返事をした。
まあ、これが一番正しいのかもしれないな。あいつに”本当のこと”を喋っちゃえば、もっと面倒なことになっちまうからな。それだけは避けたかった。
「そういや歩、昨日の昼休みの……」
話題をそらす目的で、昨日の件について聞こうとしたところで俺は廊下からこちらを見てくる女性の気配に気が付いた。
そしてその人と目が合った瞬間、俺はその人物の正体を知った。
コイツ、昨日の……
「……………ア!」
声小っさ!!
昨日の勢いは一体何処へ行ってしまったんだとばかりの弱々しい声で、”昨日の例の人”の声がわずかに聞こえた。
ホントに同一人物なのか?
と思ったら、彼女は俺達しかいないことを確認するかのように教室を見まわした次の瞬間、
「アンタァァァァァァァァ!」
「うわあああああああああ!」
彼女は叫びながらものすごい勢いで俺に近づいてきた。あまりの出来事に思わず俺も声が出てしまった。
しかもタイミング悪!
「アンタ!なんでこんなところにいるのよ!」
「ええ!?だってここ、俺クラスの教室……」
「え!?そうだったの!?アタシもこのクラスなんですけど……!?」
「………はい?」
え?知らなかったの?俺の名前は知っていたくせに?
てかさ……
「同じクラスなら普通に気づくだろ。少なくてもお前は俺のこと知っていたんだろ?」
「いや、アンタの顔なんか知らなかったし……」
「そうですか………」
何なんだよこれ。
つまり、俺の顔を知るためだけにあんな回りくどいことをしたのか?そうだとしたらあまりにも残念過ぎる。もっと他によい方法があっただろうに………
と、ここで今この場に俺にとって不都合な人間がもう一人いることに気が付いてしまった。
「お?何だどうした?修羅場か?」
「違うわい!」
「でも、傍から見れば誰でもそう言うと思うぞ」
ごもっともである。
男女が言い合いをしている場面なんて事情を知らない人間が見ればそう思うにきまっている。
しかも昨日のことがあるから余計にそう思われる。
「はあ?何アンタ?昨日のこと他人に言ったの?」
「言ってねえよ!むしろお前が来たからややこしいことになってんだよ!」
「しょうがないでしょ!?ココ、アタシのクラスだし………」
「俺もそうなんだけど………」
唐突に因縁をつけられた人物がクラスメイトだったというオチかよ……。ラノベか何かか?
「………勇翔。お前、本当に昨日は何もなかったんだよな?」
「…………」
どうしよう、これは正直に言うべきか?でも、彼女の先ほどまでの言い分だと周りにはあまりばれたくないらしいし……
「何も言わないということは、そういうことなんだな………」
「………すまん」
無は承諾ということだ。俺は素直に白状した。
「いやあ、そうか。お前がまさかな………」
「………?おい待て、多分だけどお前、何か勘違いしてるぞ」
何かとても嫌な予感がする。厄日は昨日だけでもう十分堪能したぞ、俺は。
「だってさ、その相手が内海さんなんだぜ。これはもう………」
いやちょっと待て!
これを聞くのはお門違いな気がするが、確認の意味を込めて俺は歩に問いかけた。
「……内海さんって誰?」
「「はあ!?」」
なんというか、ある程度予想できた反応が返ってきた。むしろこれは俺が望んでいた反応だ。
「お前まじかよ………せめてクラスメイトの名前ぐらい覚えておけよ………」
「いやでも昨日結局、名前を名乗ってくれなかったし………」
「いやそれでも覚えろよ」
うーんこの。
そもそも俺は、人の名前とか覚えられないんだよね。まあ今回は、知ろうともしなかったけど。
「ま、まあ、アタシも名乗んなかったのは悪かったわね」
「ほらいったろ?」
「俺は今、お前ら二人の関係性がすっげえ気になるんだけど………」
「それは後程で」
いったい彼女がどんな存在なのかは今の俺は知らないから、その時が来たらついでに教えてもらおうかな………
そしたら急に彼女は、自分の胸に手を当てながら、
「じゃあ改めて。アタシは内海千尋よ」
「外木場勇翔だ。よろしく……」
「よろしからないわよ!!」
えぇ………
それはさすがに傷つくわ。いくら敵対関係とはいえ、この扱いはさすがにひどいと思います。
「勇翔。お前いったい内海さんに何をしたんだよ?」
「なんもしてねえよ!」
何もしてないかと言われればしていたけど、そんな大したことじゃない。だから俺は悪くない。
「ただ、次のテストの点数を競い合うだけだよ」
「はあ?お前が?内海さんと?」
なんだよ?何かおかしい事でも言ったか?
「そういえばお前、内海さんがどういう人か知らなかったよな………」
「ああ」
そこは俺が一番知りたかったことでもある。
「あのなお前、内海さんは1年生のとき、1学期の中間から学年末テストまでの期間、合計点数がずっと学年1位の人だぞ。そんな人とテストの点数で争うとか身の程知らずにもほどがあるぞ……」
これマジ?
もしかして今俺は、とんでもない人に目をつけられてしまっているのか……?
てか別に合計点数が1位なら別にいいじゃんと俺なら思うが、それは彼女のプライドが許されないのだろう。
「どうやら、理解できたようね。そうよ。アタシの中で”テストの点数”で唯一の、しかも1年を通して黒星を上げ続けていたのは外木場勇翔。アンタだけなのよ」
「…………」
なるほどね。俺は今、事のすべてを理解することができた。
つまり、俺は彼女にとっての最後の壁になっている、ということか。
でも肝心なことが聞けてない。
「もしや、内海さんは国語以外の教科はすべて学年1位をキープし続けていたのか?」
「その通りよ。アンタがやってきたのと同じようにね」
なるほどね。これで全てとは言えないが、俺が持っていた8割程の謎が解明された。なんだかとても清々しい気分だ。
これで解決。と思いきや………
「なんだ。そういう事か。てっきり男女のお付き合いでも始めたのかとおもったぜ」
「「…………はい?」」
俺と内海さんは同時に返事をした。
歩、お前今とんでもない発言をしてくれたな。
「だって、放課後の屋上だぜ?テンプレっぽいけどそうだと思っても仕方ないだろ?」
「いやそれはないだろ。お前も果たし状って書いてあるの見ただろ?」
「いやー、武道に精通している子ならもしかしたらって」
大丈夫かこいつ?2次元と3次元の区別ついてる?
そんな展開は現実だとありえないだろ。俺が言うのもなんだけど、アニメの見過では?
「でもお前ら、結構馬が合っているよな。初めてまともに喋ったの昨日が初めてだろ?怪しまれても仕方ねえよ」
「仕方なくねえよ!変な誤解を生むな!ここ学校だぞ!」
まあ確かに馬は合っていたな。俺自身もとても不思議なんだけど、何というか話しやすいというか何というか………
よくわかんねえな………
少し自分の気持ちに悩んでいたところ、さっきから一言もしゃべってない内海さんの声が微かに聞こえた。
「………………わよ」
「ごめん内海さん。なんて?」
よく聞こえなかったのでもう一度聞こうと思ったら………
「そんなのこちらから御免わよおおおおおおおおおおおおおお!」
そう叫びながら彼女はものすごい勢いで教室から出て行ってしまった。
てかその反応だと………
「なんか俺、フラれたみたいになったんだけど……」
あれはもはや、一種の拒絶としか思えない。
別に好意を抱いていたわけでもないのに、とても悲しい気持ちになってしまう。しかもあれだけの声量だ。これではいろんな人の耳に嫌でも入ってしまうだろう。
もしかして、俺、終わった………?
そして、歩が口を開いた。
「何というか……その……ドンマイ!」
まあ、そういう事になってしまうのだろう。これから俺はどうなってしまうのだろう。もう考えたくない。
あぁ、もう帰りたいよ俺は……
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