第2話 残念そうな少女
放課後を迎えてしまった………
いろいろ迷いはしたが、果たし状についての答えは俺の中でもう出ている。あとは行動するだけだ。
でも少し怖いなあ……もしかしたらヤクザとかいるかもしれん……
……あまり気乗りしないが行くとするか。
俺は少しでも面倒ごとが起きませんようにと祈りながら教室から出て、いつもとは違う方角へと足を運び始めた。
だが、俺はその足をすぐに止めてしまった。
あれ?こっちであっているよな?
ロクに校内をうろつかないせいでイマイチ方角が分からない。これでも俺は一応2年生のはずなんだけどなあ……。
といっても、結局は階段を上るだけで今回の目的地にたどり着くことができた。屋上に行くだけで学校内で迷子になる2年はさすがに存在し、もしそうなってしまったら恥ずかしさのあまり学校を中退するだろう。
てかうちの学校って屋上に行ってもいいんだっけ?現実は2次元と違って行けないのがほとんどだと思うけど。
………今更か。
一度決めたんだし、行かないとだよな。
さて、どんな人物がいるのだろう。正直なところ不安要素しかないが。
少し重い扉を開け、その目の前にあった景色は……
…
……
………
…………
「誰も居ねえじゃねえか!!!」
思わず叫んでしまった。
そう、誰もいないのである。
言われてき来てみた屋上は、何とも言えない広さと妙に高く設置されたフェンスしかなくとても殺風景だった。
これはまさか騙されたというのか?
クソが。だから3次元は嫌いなんだよ。どれだけ良いことをしようが、行きつく先が地獄だからな。
ああ……悩んで損した。
本当にあの時間は何だったのだろう。ここに連れ出した人は何が目的だったのだろう。今はただ自分が哀れに思えてくる。
もう帰って家でのんびりとゲームでもするか。この現場を誰にも見させるわけにはいかない。
そう考え、俺はさっさと屋上から引き返そうと思いながら扉に振り返ったそのとき……
ギギギギ…
屋上の扉が開く音がした。
え?もしかして……
そしてその扉から出てきたのは……
……誰?
そこには顔立ちが良くスタイルも良く、ショートヘアーのやや気の強そうな感じの、所謂美少女と言われる人物が現れた。
え?どゆこと?てかこの学校にこんな人居たんだ……
俺は状況が呑み込めなくその場で立ち尽くしているとその美少女の方からやや睨みつけるような表情をしながら口を開いた。
「……あんた、誰?」
それはこっちのセリフです……
いやこれどう答えるのが正解なんだ?俺がここに来た理由を正直に話せばいいのか?でももしそんな事言っちまったら……
いやそれしかなさそうだな……
でもできるだけ、ふんわりと、それっぽく伝えてみよう。
「えーっと、その、待ち合わせ的なやつです」
「ふーん。奇遇ね。あたしも待ち合わせ。で、名前は?」
名前を聞かれてしまった。
てかもしかしたらだけどさ、俺のこと呼んだのこの人じゃね?
いやだってさ、普通屋上で待ち合わせって変じゃね?広くて座れる場所があるなら納得するけど、この屋上はそれに該当しない。
……その可能性に賭けてみるか?こういうのはあまり好きではないが仕方がない。
「……外木場。外木場勇翔だ」
「ふーん。外木場ねえ」
名乗ってあげたのに随分とリアクションが薄いな。もしかしたら本当に別の人との待ち合わせなのかもしれない。
冷静に考えてみればこんな美少女が俺に因縁をつけてくるなんてありえないだろう。きっとこの人は性格も良い人なのだろう。
と、考えていたのもつかの間、美少女は何故かこちらを急にガン見し始めた。
「え?待って?アンタが外木場勇翔?」
「……?そうですけど……?」
え?俺のことをご存じ?てか二人称がアンタって……
と口に出そうとした時、彼女は突然……
「はあああああああああああああああ?」
うわ、なんだ急に。
彼女は唐突にバカでかい声、というか奇声を上げた。てかものすごくうるさいし人間が出していい音じゃない。
するとすぐさま美少女は冷静さを取り戻したのか俺に尋ねてきた。
「アンタね………。なるほど。アンタが外木場勇翔ね………?」
「はい。そうですが………」
「そう………」
あのー。ついさっきまでの美少女はどこへ行ってしまったんだ?俺、今ものすっごく睨まれているんですけど……
この人のこの様子だと本当に俺は何かをやらかしてしまったのか?だとしたら、誤った方がいいのかな?
………いや、理由が明らかになっていない現状、それをする必要はないな。これじゃあまるで痴漢冤罪のソレだ。
まずは、その”理由”を知らないとな………
「えーっと。その、何か気に障るようなことしてしまいましたか……?」
「そうね。したわね。」
美少女はきっぱりとそう答えた。
うそだろお前……
そんな言い方をしてしまうと自信がなくなってしまう……
「ま、アンタのその態度を見れば、さも当然のような感じがするのが余計に腹立つわね。とんだ自信家ってやつかしら?」
「自信家………?」
俺が?自信家?
ないないないないない!
それは絶対にありえない。彼女は俺のことを一つも理解できていない。
運動がダメなのは勿論のこと、他人との会話なんてほぼ出来ないし、学力だって学年の中でも下の方だぞ。かといって趣味のゲームだって案外そうでもなかったりする。
自分で言ってて悲しくなるくらい何もないな、俺………
「………どうやらアンタ、何故自分が呼ばれたのか分かってないの?」
勝手に落ち込み始めた俺の事なんぞ知らずの美少女はそう尋ねてきた。
そんなこと言われたって答えは一つしかない。
「ないです」
「じゃあ、アンタの自慢できることでも行ってみなさいよ………」
なんで急に哀れんだ目で見てくるのかな?
そんなに悲しい人間じゃあないぞ……と言いたいところだが、実際悲しい人間でした。誰か俺を死刑にしてください……
でも自慢か……
できることなんか何にもないぞ?強いて言うならば……
「我は、誇り高きオタクです……?」
「アンタがオタクなのはどうでもいいよ………」
どうでもいいとか言わないで!
俺の数少ないセールスポイントだぞ。もっと丁寧に扱っていただきたいものだ。
とはいえ、本当に自慢できることなんて無いぞ。
「アンタさあ……」
「はい……」
もうすっげえ呆れてるじゃん。もはやこれは失望というやつか?あなたは一体俺に何の期待をしていたのですか?
まあどのみち俺は彼女の中では期待外れの存在になってしまったのは確かだろう。
「1年の時の国語のテストの点数でも言ってみなさいよ………」
「………?」
なんで急にテストの点数?しかも国語の。
俺は高校に入ってからのテストの点数を振り返ってみると………
「全部、満点ですけど……?」
「満点ですけど?じゃないのよアンタ!」
そうなんだよな。俺、何故か昔から国語の点数だけいいのが取り柄なんだよな。なんでかって言われたら俺もよく分からん。
なぜ、俺はテストで高得点を取って怒られるのだろうか?こんな理不尽な目に会うのはさすがに初めてだ。
てかこの言い方だともしかして因縁の原因って……
「アンタのそのよく分からない、なんか、あの、変てこりんな特殊能力みたいなやつのせいで、アタシは毎回、毎回、国語の順位だけ2位なのよ?」
そんなこと言われてどうしろと?
そして何故国語にこだわっているんだこの人?進路は文系の優秀な大学を志望しているのか?
それかもしくは、親がそういった職種の人達だからか?
どのみちわけわからん………
「じゃあどうしろと言うんですか………?」
「簡単な話よ。アンタがテストを受けなければいいのよ」
「お前、ひょっとしてアホか?」
「アホとか失礼ね!」
そんなことできるわけないだろ!
そんなことしたら唯一の合計点数の稼ぎどころを失うと同時に、下手したら留年や退学レベルになってしまう。
「まあ要するに、アンタがアタシにとりあえず負ければいいのよ」
そんなことをして手に入る勝利に意味はあるのか?これじゃあもはや接待プレーじゃん。
こんなことを言われても答えは一つしかないだろ。
「いやです」
「なんで拒否するのよおおお!」
「あたりまえだろうがあああああああ!!!」
思いもしない返答が帰ってきたので、思わず俺も声が大きくなってしまった。
てかなんでそれでうまくいくと思っていたんだよ!?よくそんなんで高校生やっているな!?
「わかった!わかったわよ!じゃあ勝負でいいんでしょ!?」
「なんで少し上から目線なんだよ!」
「なによその言葉!?喧嘩でも売ってんの!?」
「お前が先に果たし状よこしたんだろうが!」
「そういえばそうだったわね」
「お前さあ………」
今わかった。こいつは正真正銘の本物のバカだ。
そう自分の中で結論付けるとこのままじゃ永遠に話が進まないのでは?と思った。
もう面倒くさいからこっちから決着をつけさせてもらう。
「………もういい。勝負の話は乗ってやるよ」
「わかった。宣言撤回とかないよ?」
そんなことするわけないだろ。
「でも………」
「でも?」
元美少女はそう言葉を濁らせたのち……
「今年こそはあんただけには負けないからねええええええ!」
そう叫びながら、彼女はものすごい勢いで屋上から去ってしまった。なんというか物凄く小物感がした。
それにしても疲れたなあ。まさか本当に因縁をつけられる日になるなんてな………
などと思っていた俺だが一つ重要なことを思い出した。それは……
「あの人は結局誰なんだ?」
あまりにも予想できない展開についていくのに精いっぱいで名前を聞きそびれてしまった。
でも、残念な人だということは分かった。
残念美人とこういう存在なのかな………?いや多分違うような気がする。
そんなくだらないことを考えながら、俺は足早に屋上から出て行った。
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