お弁当のシーンの書き方が分からない

こたろー

新型コロナウイルスへ

カクヨムコンの応募作品として、高校を舞台にした青春群像劇を書いていた時、

僕は気づいてしまった。



 お弁当のシーンの書き方が分からない。


高校三年間、常に黙食。友達と会話を交わしながらお弁当を食べた時は、思い返せば数回しかない。


普通の高校生は、どうやってお弁当を食べるのだろう。


屋上に集まって、購買で買ってきたパンを食べながら、恋バナや先生の真似をして、笑顔で食べるのだろうか。


僕は自分の高校生活を思い出した。椅子に座ってお弁当の蓋を開けながら、スマホの漫画アプリを開く。


他のみんなはSNSや動画を見たり、僕と同じように漫画を読んだりしていた。


いつしか僕は、お弁当の時間に漫画を読むことがルーティンになり、数作品を読破した。


高校生活のお弁当のシーンは、殆どがスマホの画面で埋め尽くされていました。


4時間目の授業が終わって、いつものメンバーでわざわざ遠くの水道まで手を洗いに行く。


軽音部の部室の前。12時47分はいつも陽が当たる。


 暑いと言いながら、寒いと言いながら、それでも毎日その場所に集まって雑談をしたのは、黙食から逃げたかったからなのかもしれない。




 次は、部活のシーンを書こうと思った。そこで僕は気づいてしまった。


部活のシーンの書き方が分からない。


僕は3年間ハンドボール部に所属していた。ポジションはキーパーで、二人しかいなかった先輩が引退した後は、副キャプテンを任せられた。

 

接触を伴うプレーの禁止。


ハンドボールでは、ディフェンスを行うために相手をがっつりと抑えに行く。


別名 天空の格闘技とも呼ばれるほどで、ジャンプしてシュートを打つというスタイリッシュなイメージと並行して、泥臭く、汗にまみれなければならない。


高校2年生の冬。着々と成長していた1年生に朗報が舞い込んだ。


市民大会の開催。非公式に開催された大会で、普段レギュラーとして出場できない部員にも出場のチャンスが訪れる。


荷物運び、氷嚢の管理、得点の記入やモップ掛け、グラウンドの慣らし。


練習と並行して仕事をこなし、それでも出番を手に入れることが出来ない1年生にとって、その大会がどれだけ嬉しかったことだろう。


しかし、大会開催の2週間前、顧問の口から大会中止が言い渡された。


練習試合が行えるのは奇跡。


体育館の使った席は消毒をする。


試合後の息が切れた状況でも、マスクをする。


僕はどうやって部活のシーンを書けば良いんだろう。




次は、文化祭のシーンを書こうとした。


僕は気づいてしまった。文化祭のシーンの書き方が分からない。


飲食系の企画は全て禁止。


使用する道具は全て消毒する。


密が予想される企画は生徒指導室からの許可が下りない。


僕と僕の親友は先生に呼び出されてクラスの企画を巻かれた。


文化祭まで残り1ッか月。


生徒会から「映像作品のみ許可」と連絡を受けた。


結果僕のクラスは10分程度のバカッコいい動画を制作した。


文化祭は、どんな感じなんだろう。




次は、修学旅行のシーンを書こうと思った。


僕は気づいてしまった。修学旅行のシーンの書き方が分からない。


本来は北海道まで行く予定だった修学旅行。


延期と旅行先の変更を繰り返し、2年生の11月に山梨県に行った。


移動費が少なくなった分、豪華なコテージに宿泊することが出来た。


しかし、目玉であった有名なテーマパークでは感染症対策により運航していないアトラクションがあった。


1日目の昼ご飯も黙食。


修学旅行のシーンはどう書くんだろう。




次は、友達が笑っているシーンを書こうと思った。


友達の笑顔は、ちゃんと書けた。言葉に出来た。


マスクで半分は見えないはずなのに。


声と目元しか分からないはずだなのに。


時には画面越しだったのに。


「笑」や「w」の一文字で済ましていたはずなのに。


それでも僕は、友達の笑顔をちゃんと書けた。


母親のお弁当の美味しさも、ちゃんと書けた。


部活の楽しさも、辛さも、ちゃんと書けた。


文化祭の楽しさも、ちゃんと書けた。


修学旅行の思い出も、ちゃんと書けた。



僕たちは、マスク越しでも友達の笑顔が分かるようになりました。



だから、もう大丈夫そうです。



大丈夫だけど、忘れません。





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