第一週~第二週④ 科学小説とすこしふしぎ


熱狂度として★5が最高です。



「霊山の振り子」作者:荒糸せいあ ★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330661853806537 )


・この世界では月が三つあり、それぞれが決まった間隔で動いているという異世界の話のようです。この世界には物理学があり、科学者もいるようで、天動説ではなく地動説が選ばれています。また霊山にとても大きな振り子が存在しています。そこで学徒であるフラートがいま立っている星は教えられている通り、丸いのかを一生懸命理解しようとします。このようなあらすじを持つ本作はれっきとした科学小説のようです。

 物理学の本質というものは、なかなか「いま・ここ」にいるだけでは理解しづらいもののようです。飛行機で南半球に行ったり、宇宙へ行ったりした人が突然すべてを理解した! と思うようなことだとどこかのエッセイで読んだ記憶があります。

 そうした瞬間を切り取った作品だと読みました。エンタメとはほど遠い本作ですが、自然と科学的真理が身近に感じられる作品だと思います。



聖餐せいさん」作者:あずさゆみ ★★★( https://kakuyomu.jp/works/16817330664419636425 ) 


・キリスト教では自殺は罪とされています。この世界ではキリスト教的な神が人間のまえに顕現したというところから始まります。さらにこの神の糧として死を選ぶことが強要されているというショッキングな内容でもあるようです。神はどうやら人間が自殺することを憂い、姿を現したというような謎めいた設定です。キリスト教的な世界が物語を覆っています。

 こうした構図は藤子・F・不二雄の「ミノタウロスの皿」でも見て取れますよね。ただ「ミノタウロスの皿」と一点だけ違うのは生きることへの思索の深さでしょう。



「黒猫はコンニャク爆弾の夢を見るか?」作者:長門拓 ★★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330665859947782 )


・議事堂にコンニャク爆弾を投げ込んだ疑いをかけられた僕は、ネオ・トーキョー拘置所に収監される――というちょっとおかしくて謎めいた始まりをする本作は読んでいて安心感があり、どこか飄々としている、「ドラえもん」の世界のような質感があります。おそらく「ドラえもん」の四次元ポケットにインスパイアされたと思しき、四次元の拘置所という設定はとても楽しく読みました。

 コンニャク爆弾とは何なのか? どうして僕は収監されているのか? 滑り落ちる時間のふちとは? 謎が謎を呼ぶ展開ですが、謎など放っておいても良いのかも知れません。



「AI葬」作者:石田空 ★★★★★( https://kakuyomu.jp/works/16817330664726863609 ) 


・故人をAIで蘇らせる技術は、実際に美空ひばりをAIで再現したり、それより以前から戦国武将の顔を復元させたりとアイデア自体は新しくはないです。ですが、今作はそういう感傷的なお話なのかなと思わせつつも、AIによる復讐譚となっています。じっさいAIが意志を持つというアイデアも手垢のついたSFネタですが、ここで着目するのは作中のデジタルタトゥーの扱いでしょう。天才的でした。この一点において本作はひとつ抜けたSFホラーになっていると思いました。テクノロジーが起こす恐怖を堪能してほしいですね。



「幸福ボタンを1億2,600万回押すだけの簡単なお仕事です」作者:戯 一樹 ★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330668019886015 )


・押すと日本の誰かひとりを幸福にして、さらに対価として10円が支給されるボタンを渡された男の物語です。この作品で良いと感じたのは思考実験ですね。人間は幸福になれるのかという哲学的な問いを物語のなかで提示しています。人が幸福になれた結果として、ある状態になっていくのも面白く読みました。また作中でSFっぽい設定も仄めかされるので、もっとSFに寄せても良かったんじゃないかなとも思えました。



「その星のいとなみ」作者:ピーター・モリソン ★★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330668098258945 )


・生まれつき舌の形がほかのひとと違う、そんな出だしの本作はどこか遠い世界にするりと誘われる素敵なショートショートでした。おそらく男性である主人公が配偶者を持ち、そして配偶者と死別するという筋書きですが、SFを強く感じる作品でした。それはなぜなのかは読者に読んでもらうことをおすすめします。これは上手さが光る作品でした。



「月の塔」作者:みらいつりびと ★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330666920559245 )


・書き出しが素晴らしい作品でした。西洋でバベルの塔が建設されている裏で、この国では皇帝が月の塔を建てている――これ以上ない書き出しです。しかもなんらかのテクノロジーの力があり、人力ではないようです。ただ月を目指す国家プロジェクト、プロジェクトXが好きな人におすすめしたい作品です。



「移眠の夏」作者:十三不塔 ★★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330668300307962 )


・意識を違う宇宙へと飛ばす移眠トランスリープ。なぜその技術があるのかは人類が食糧危機から安楽死を選んだという理由とちりばめられた世界設定が光ります。昆虫型群体ドローンであるサルーと、ある少年との旅の物語です。設定が浮かない程度の確かな描写力と語りの軽快さで物語を牽引する素晴らしい作品でした。彼らの種を超えた友情が感情に訴えかけます。私はハーラン・エリスンの「少年と犬」のようなどこか懐かしい英米SFの質感を感じました。



「君の知らない夏の果て」作者:石田空 ★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330666940576412 )


・「死に戻りカウンター」という不思議なガジェットが出てくる本作はすばらしいSF青春小説でした。運の乱気流という不運が重なる体質の少年と死をキャンセルできる死に戻りカウンターを得た少女の物語です。視点が途中で反転して物語の見方がガラリと変わる構成も良かったです。ふたりにとってこの物語がどのように映っているのかという差分が物語に奥行きを与えています。

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