第一週~第二週③ たったひとつの冴えたやり方、あるいは心温まる一作


熱狂度として★5が最高です。



「ロボット三原則に従えば」作者:雨宮 徹 ★★★★★( https://kakuyomu.jp/works/16817330667961475145 )


・ロボット三原則というのはアイザック・アシモフが自身のSF小説「われはロボット」において示したロボットが従うべき三原則です。ここに示します。

1.第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。またその危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

2.第二条 ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし与えられた命令が、第一条に反する場合は、この限りではない。

3.第三条 ロボットは前掲第一条および第二条に反するおそれのない限り、自己を守らなければならない。

「人間への安全性、命令への服従、自己防衛」を目的とする原則です。この三原則は小説に留まらず、実際のロボット工学にも影響を与えました。アシモフは三原則を用いることで自身のSF小説にミステリー的な面白さを加えました。アシモフの話はこれくらいにして、SFの創作ではこうした三原則モノというのは多いです。三原則を掘り下げ、SF小説としてデザインできること自体、書き手がよい証しだと考えては言い過ぎでしょうか。

 この作品が特に良かったのはトロッコ問題と絡めたところですね。トロッコ問題はある人を助けるために他の人の犠牲は許されるかという倫理上の問題・課題です。つまり、ロボットにトロッコ問題を解かせて、それがどのように解き明かせるかをとてもシンプルな描写で描いたところが素晴らしかったです。



「フラクタル・ラブ」作者:藤原くう ★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330666136296427 )


・こちらは文芸作品として読みました。文芸の善し悪しのひとつに小説を、物語のレイヤーや単語のレイヤー、セクションのレイヤー、そしてあらすじのレイヤーと分けていったとき、そのレイヤーが多重の構造として一致していると良いという評価ポイントがあります。今作は「フラクタル」という自己相似構造を物語構造と一致させることに成功している点で評価しました。内容にはそこまでSFとしての驚きや仕掛けがあるわけでもありませんし、こうした構造を持つ小説も珍しくないです。でも数理的なモチーフである「フラクタル」を小説に持ち込んだ、この一点が素晴らしいと思います。



「ウェザーカレンダー」作者:秋待諷月 ★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330667504898341 )


・制度運用系SFです。SF的なアイデアを実際に法制度に落とし込んだところに秀逸な視点を感じます。気象という本来コントロールできないものをコントロール下においたとき、どんなドラマが生まれるかがよく考えられていて、世界観の掘り下げが過不足なくケアされている印象を受けました。ただまとまりすぎた印象も拭えず、SFならばテラフォーミングの話題や、気候変動の話題といった昨今のSFの動きから見て推しきれなかった作品でした。もっとこの世界を見せて欲しかったと思いました。




「時間捜査官は踊る」作者:木口まこと ★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330667920825210 )


・並行世界とタイムトラベル、タイムパラドックスを扱う本作は本格SFファンなら喜んで読むべき傑作でしょう。時間跳躍台と呼ばれるタイムマシンで事件調査をする時間捜査官の設定はお馴染みですが、そこに並行世界を噛ませたところはアイデアの秀逸さを感じました。一方でSFの驚きで押し切るというよりは不思議な気持ち、なんとなく居心地の悪い感じという奇妙な読み味で閉めていることもあって、強く推せませんでした。大風呂敷を広げようと言うわけではありませんが、味わい深さと驚きは両立するかも知れません、そう思わせる筆力だと感じました。



「進化エスケープ」作者:未由季 ★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330667944076315 )


・昨今のSF界で一大ムーブメントとなった百合、ガールズラブ作品です。人類が人工冬眠による眠りにつき、進化をするという計画の裏で少女達が世界からの逃亡を図るという物語です。若い読者にとって世界の動きや大きな流れよりも身近に存在するものを大切にしたいという決意は支持されるだろうと感じています。とても今っぽい作品です。



「魔女と婚活と私(第六回)」作者:あずま八重 ★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330667961382381 )


・魔女というとファンタジーの作品かと思いきや、SF作品には前々から魔女を取り扱う作品が少なからず存在しています。魔法の取り扱いについて、有名なSF作家であるクラークの三法則のなかに「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。」という文言があり、魔法をも科学は含む、ということは多くのSFファンに周知の事実です。

 本作は魔女の料理を中継するというような体裁のコメディ調の作品のようです。読んでいて目が楽しく踊り、良質な短編作品を読んだという気持ちにさせます。



「犬と老女と映画館」作者:たびー ★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/1177354054934574527 )


・機械の犬と老女が映画館を目指す旅は、彼女の記憶を解き明かす旅だったというあらすじ。こういうのに私は弱いですね。きちんとした文章の筆力と構成の上手さが光る本作は、SF小説のなかに家族小説を持ち込んだ傑作でした。6600字のなかでこのお話を作ったことに驚きを禁じ得ません。



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