第一週~第二週② AI観もいろいろ

熱狂度として★5が最高です。



「ノスタルジック・シンドロームの黄昏」作者:彁面ライターUFO ★★★★( https://kakuyomu.jp/works/16817330667108096104 )


・発想自体はそれほどというSF短編でしたが、そこから飛躍ではなく地続きの描写で世界を描き出しています。情景描写を丹念に重ねた結果として心情描写を表現していて、只者ではない書き手という印象を受けました。エンタメ作品としては少し一段下がりますが、小説の書き手なら一読する価値があると思いました。



「人工知能は桜を好まない」作者:雨籠もり ★★★★★( https://kakuyomu.jp/works/16817330667250461149 )


・たしかなエンタメの手触りのするSFミステリーです。発想はSF的ではありませんが、ミステリー短編として面白かったです。SFが何故を問うミステリであるならば本作はSFだとも言えそうです。一万字未満でしっかりと読めるコスパ重視の読者におすすめします。文章は上手です。



「シンギュラリティ・クローゼット」作者:蒼井どんぐり ★★★★( https://kakuyomu.jp/works/16817330652712785539 )


・AIの技術特異点シンギュラリティはクローゼットから始まった、というコンセプトが光る秀作です。読み口も軽妙でよく、何よりSF的な面白さがちりばめられています。クールなファッションコーディネートAIとダサいAI開発者という対比構図がきちんとできていました。また何より昨今のAI観を反映したリアリティある設定は読んでいて飽きませんでした。



「AIアイリスさんの苦悩」作者:柏沢 蒼海 ★★( https://kakuyomu.jp/works/1177354055515218989 )


・AI観は古い印象を受けましたが、AIが人間の相棒であった古き良き時代を表しているところは好印象でした。これはAIという表象を用いたバディ小説と私は読みました。ときに聖母のように主人公を見つめるアイリスの視線は読んでいて心地がよく、何度読んでも飽きない印象です。



「アーティファクトラバーズ」作者:鳥辺野九 ★★★★( https://kakuyomu.jp/works/16817330668214401788 )


・SFにおいてアイドルをAI(アンドロイドやサイボーグ)とした作品が多いのも事実です。アイドルとドルヲタを取り扱った作品には進藤尚典「推しの三原則」(ゲンロンSF文庫)があり、私個人の意見としては「推しの三原則」を超えたかどうかがジャッジのポイントでした。作品の最初のほうでしっかりとAI同士の恋愛というリマインドが私に読み取れなかったので、少々構造がどのようになっているかが分かりづらかったです。一方でそこがクリアできれば条例によって疑似人格との結婚はあり得るのか? 人工知能との結婚はできるかといった、SF的な面白さがある傑作だと思いました。



「ゆるキャラになって百年が経った」作者:青山鉱石 ★★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330668032839537 )


・数多の作品があるなかで、面白いタイトル、忘れにくいタイトルをつけるのは重要な戦略です。どうしてもSFではカタカナでタイトルをつけてしまった結果として差別化は難しいという点が否めません。しかし本作はウェブ小説ならではの分かりやすいログラインの提示とあらすじの見通しの良さを持っています。怪獣が人間に捕らえられているあいだに「ゆるキャラ」として定着してしまったという面白さが、下手な文章ではなく、きちんと描写の上手さの光る作品として提示できています。いまのところ一、二を争う作品だと思いました。



「カレンダーにない日」作者:花火仁子 ★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330668333332461 )


・SFというものの最初期の物語が「時をかける少女」や「なぞの転校生」といったジュブナイル小説であったことを考えると、本作は直系のSFジュブナイル小説ということになります。決して驚きが大きいわけでもなく、地味な方だとも言えそうですが、ほんのひとつまみの不思議が物語の主人公の気持ちにぴったりと合っていて、とても良いと感じました。青春の一ページに不思議の風が吹いたとき、物語は動き出します。



「よりよい思い出」作者:はにかみいちご ★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330662633919406 )


・AIを取り扱う作品は非常に今回のカクヨムコンでは多いです。そのなかでも物語に落ち着いている作品は読んでいて少ないと感じています。この作品ではAIと言ってもさいきん一般的となったチャットボットを取り扱っています。調子よく会話を繋げて会話するチャットボットの導入によって病気の母は確かに元気になった、しかしそのことによって大切な家族の記憶が上書きされてしまう小さな寂しさが描かれています。胸に静かに感じ入る名作でしょう。

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