第6話 ツーリスト・アドベンチャー6

 毎度お馴染みの亜空間ラムジェット旅客機ターミナル。キャビンアテンダントさんとも既に顔馴染み……のはずなのに、どうしてか初めてのような感覚が拭えない。

「本日はどちらに向かわれますか?」という問いに対して事前に用意していた返答をしつつ、葡萄味の飴玉を口に入れる。

 着席してベルトを締め、ワープが始まり少し揺れ、もうしばらくしてから目的地に到着する。


 そこには予定通り、彼がいた。一緒に河川敷から鉄橋を眺めた、最初に時間旅行をした際にガイド役をやってくれたあの彼だ。

 あたしは、こちらも用意してあった質問を彼に向ける。

「あなたとあたし、会うのはこれで何度目かしら?」

 彼は若干困った風の笑顔で思案し、しかしすぐに答える。

「きっと四度目だと思うよ、間違いでなければね」

 こちらの反応を少しうかがいつつ、彼は続ける。

「最初は、そう。一緒に河川敷から古びた鉄橋を眺めたよね。次は商店街だったかで、キミは随分と大人っぽかったかな。その次は正反対みたいに無口で殆ど喋らずだった筈だ。そして今、これで四度だけど、間違いないかな?」

 彼の言葉にあたしは軽く頷くが、実際は半分しか記憶がない。

 二度目と三度目の記憶があたしにはなく、それは博士をやっていたときのあたしの記憶だからだ。


 原子破壊熱線砲で時空断裂は復元された。

 のだが、同時に並行世界にいたあたしは一人のあたしとして統合されてしまった。そして、その際に博士をやっていた頃の記憶の殆どが消えてなくなってしまった。

 だからこうして実際に彼に会いに来て、博士だったあたしが愛していた彼をこの目で観ておかなければと思ったのだ。


 あたしは彼とは一度だけ会っている。彼の云う通り、鉄橋の見える河川敷で。

 たった一度だから大それた感情などない……筈なのに、博士だった頃の記憶が残っているのか、特別に思えてしまう。

 どうしたらいいのか悩んでいると、彼から思わぬ提案があった。

「そちらの詳しい事情は解らないけど、もし良かったら友達にならないかい?」

 その提案は悪くないどころかとてもいい、そう思えた。

 博士だったあたしが彼をどう思っていたかは今となっては解らないが、お友達から、これはとってもいい。


 といっても今口にしている葡萄味の飴がなくなるまで、という期限付きではあるのだが。

 いや、そうでもないかな?

 飴玉がなくなったら一旦帰って、そしてまたやってくればいいんじゃないだろうか。

 同じ時間軸に繰りかえしで来ることが許されるのかどうかは、キャビンアテンダントさんに聞かなければ解らないが、もし駄目なら、うーん……彼をあたしの時代に連れて行く?

 それこそ駄目だと云われそうだし、そもそも彼がそれを良しとするか。

 どう切り出そうか悩んで、あたしはこう云ってみた。


「もし良かったら、あたしと一緒に同じ時間を過ごしてみませんか?」

 云ってみると違和感はなかった。きっと博士なあたしが望んでいたのはこれだったのだろう、そうも感じた。

 彼の返答は……満面の笑みだった。



♪「鋼{はがね}の心」


 いつかどこかで出会った二人

 言葉も顔も違うけど


 君がもし 楽しいのなら

 僕もきっと 楽しいだろう

 君がもし 悲しいのなら

 僕もきっと 悲しいだろう


 宇宙{そら}の外れの小さな街で

 静かに渡る淡い歌声

 僕がまだ小さな頃

 君はどんな歌を口ずさんでいたの


 いつかどこかで出会ったなら

 君の声を聞かせて欲しい

 君の歌を聴かせて欲しい


 いつかどこかで出会った二人

 言葉も顔も違うけど


 君がもし 寂しいのなら

 僕が行くよ 今すぐにでも

 君がもし くじけそうなら

 僕が行くよ 今すぐにでも……



 ――おわり

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ツーリスト・アドベンチャー @misaki21

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