第5話 ツーリスト・アドベンチャー5

 一番効果時間が長くて強力そうなコーラの飴玉を二つ用意して、亜空間ラムジェット旅客機のターミナルにやってきた。

 ターミナルといってもラムジェット機が二機だけの狭いところだけど。

 そこでキャビンアテンダントさんに色々と質問してみた。

 もう一人のあたしについて、そんなあたしがいる世界について、あのあたしがやっていたこと、やろうとしていること、エトセトラエトセトラ。

 きちんと答えてくれた項目もあれば、濁されてしまった項目もあったけれど、原子破壊熱線銃と瞬間移動チップを持っていくことがOKされたので、やっぱりあの世界とあのあたしはとんでもないものなのだろう。

 そしていざテイクオフ、並行世界とかいうところへレッツゴー!


 と、意外や意外。もう一人のあたしが例の研究所の手前で丁寧に出迎えてくれた。

 研究所に入ると晩餐の準備まで整っていて、これには拍子抜けしてしまった。

 おっと、コーラの飴玉を舐めていなかった。でも目の前にはご馳走が沢山。

 どうしようか少し悩んで、飴玉は後回しにすることにした。


 しばらく薦められるがまま食事を堪能していると、もう一人のあたしがとつとつと語り始めた。

 それは、もう一人のあたしが現在に至ってしまった、やや重たく悲しいお話。


 彼女には恋する男性がいた。男性も彼女を愛しており、相思相愛、仲良くやっていた。

 ところがある日、言葉では説明不可能な現象が発生し、二人は仲を引き裂かれた。

 その現象を今の彼女、あたしの姿をした博士は、時空断裂(じくうだんれつ)、そう表現した。


 この時空断裂により男性と彼女は、お互いが見えるにも関わらず触れたり言葉を交わしたりが出来なくなったのだとか。

 賢明に言葉をかける男性と、それに答えようと必死の彼女はしかしやがて、全てを諦める。

 男性は立ち去り、残った女性は科学に没頭した。時空断裂を解消しようと。

 何度かの実験の失敗で彼女もまた時空断裂に巻き込まれ、結果、並行世界の住人となってしまった。


 泣くほどのことじゃあない、そうあたしの姿をしたあたしは云うが、チキンをほおばったままのあたしの両目からは涙が止まらない。

 好きあう二人が引き裂かれるという話は別に始めてではないが、それにしたってあんまりだ、そう思ったからだ。


 だったらば、急に閃いた。

 今日は持参してある原子破壊熱線砲、これで時空ナントカを撃てば、ひょっとすると元に戻るかもしれない。

 あたしの姿をした博士はやるだけ無駄だと云ったが、この武器の破壊力はとんでもないので、もしかしたら、淡い期待がよぎる。

 どこに向けて撃つのがいいか悩んでいると、あたしに向けて、そうあたしが言って驚いた。

 この武器は人に向けるものではないと力説するが、時空断裂が発生しているのは他ならぬ自分自身だからとあたしは説明し、さあ、と両手を広げる。


 さあ……どうする?

 どうするのが一番?

 迷ったのでコーラ味の飴玉を口にいれてみた。

 シュワシュワという甘い味が口に広がり、ついでに覚悟も決まった。

 手の平サイズの原子破壊熱線砲を両手で構え、ごくりと唾を飲み込み、もう一人のあたしに狙いを定め……そして。


 ――おわり

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