天使堕天使

 ある日我が家に天使が舞い降りました。

 家でも外でも落ち着かぬ生活を送っていたモブ尾巻は、弟の誕生を心待ちにしていたのでございます。(詳しくは別エッセイ『頼むからほっといてくれ』参照)


 少々大きめに生まれてきた弟は、身内の贔屓目を抜いても大変愛らしい赤子でございました。

 福々と丸い顔、楊枝が数本乗る長い睫毛、つぶらな瞳。モブ尾巻は父上が拾ってきた猫以外にも癒しを見つけ、舐めるように可愛がりました。

 手ずから襁褓むつきを替え、夜泣きをすればあやし寝かしつける。学校帰りは保育園に迎えに行き、共に遊び、オヤツやご飯を作って食べさせました。

 弟もモブ尾巻にはよく懐き、母上の言うことは聞かずとも、モブ尾巻の言うことは聞いてくれます。


 しかし、モブ尾巻が騒がしい実家を離れ、放浪している間に、弟はすっかり様変わりしていたのでございます。

 成長期の男子の変化は著しいものです。小さく愛らしかった弟は、いつの間にか見上げるほどの長身に育ち、どことなく退廃的な空気を纏う青年になっておりました。

 アンニュイな雰囲気でギターを爪弾き、菓子作りなどを嗜む。中身は甘ったれでちゃっかりした末っ子なので、そのアンバランスさが女性を惹きつけるようでございます。


 顔面の良さを自覚し、堕天した弟はすっかり女誑おんなたらしになっていたのでございます。見るたび彼女が違うので、名前を間違えないように「彼女さん」と呼んでおりました。同時に複数と交際していた時は、流石に母上からキツイお小言があったようでございます。


……お姉ちゃん、そんな子に育てた覚えはない。(泣)

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