第6話 ステータス、そして幼馴染
休息日の次の日。
この日は学校に通う日だが、授業を受けるわけではない。
この日あるのは、総合身体測定。
身長、体重、体力測定、内科検診といった、学校での身体検査を1日で全て行う日なのだ。
本来であれば、昨日行われる筈だったのだが、急遽休息日に変更になったため、総合身体測定も次の日に持ち越されたのだ。
検査はクラス毎に行われ、ローテーション形式で順番に検査をしていく。
俺のクラスは、身長測定、体重測定、内科検診、体力測定の順に回ることになっている。
俺は特に不健康な生活も、健康になるような生活もしていないので、まぁごく普通の結果になった。
もちろんのことだが、能力の使用は禁止されているので、どれかが異常な数値になるとかはない。
結果はご覧の通り。
―――
身長 173cm
体重 59.3kg
心電図 異常なし
視力 右 A 左 A
聴力 右 A 左 A
握力 右 38.6kg 左 35.4kg
上体起こし 31回
長座体前屈 48cm
反復横跳び 55回
20mシャトルラン 79回
50m走 7.82秒
立ち幅跳び 2m18cm
ハンドボール投げ 25m
―――
そして、体力測定が終わると、いよいよやってくるのが、総合身体測定の目玉とも言っていい検査、能力測定だ。
能力測定とは、冒険者ギルドから推奨されている、魔力量などを測定する検査のことだ。
一般的にこの数値がその人の強さとされるので、この数値が高ければ、冒険者ギルドからスカウトされることもあるらしい。
俺からすればスカウトされるのは迷惑なのだが。
しばらく列で待っていると、俺の順番が来た。
専用のブースに入り、測定士の先生に測定値を書き込む紙を渡し、鑑定魔法陣の上に立つ。
とはいえ、このまま測定されれば、大騒ぎされるのは間違い無いので、俺は偽装スキルと隠蔽スキルを発動し、自分のステータスを書き換えておく。
―スキル〈
その時、魔法陣から淡い光が放たれ、しばらくして光が消える。
「早川君、これが君のステータスだ」
「ありがとうございます」
測定士の先生から紙を渡されたので、素直に受け取り、専用のブースを出る。
測定が終わった生徒の集団の元に向かい、俺も自分のステータスを確認する。
―――
個体名
早川海斗
性別
男
レベル
Lv38
パラメータ
体力 3,690/3,690
魔力 2,780/2,780
攻撃力 5,030
防御力 4,520
回復力 4,310
瞬発力 4,220
持久力 4,570
魔法攻撃力 4,530
魔法防御力 4,370
魔法回復力 4,450
所持スキル
魔剣士 B
攻撃力増強 C
―――
とまぁ、ごく普通のステータスだ。
しかし、これは書き換えた結果のステータス。
真のステータスというものが存在する。
そんなわけで、これが俺の本当のステータスだ。
―スキル〈
―――
個体名
早川海斗
性別
男
レベル 偽装状態
Lv9238
パラメータ 偽装状態
体力 53,693,690/53,693,690
魔力 60,232,780/60,232,780
攻撃力 55,345,030
防御力 52,174,520
回復力 53,904,310
瞬発力 49,894,220
持久力 50,094,570
魔法攻撃力 61,234,530
魔法防御力 60,984,370
魔法回復力 58,974,450
所持スキル 偽装状態
等価交換 UN
因果応報 UN
現実改変 UN
弱肉強食 UN
明鏡止水 UN
行雲流水 UN
天眼通 Z
地獄耳 Z
神眼 Z
鑑定
瞳術
慧眼
超鑑定
千里眼
虚構の邪視
勇者 Z
剣魔両極
神聖魔法
神剣召喚
詠唱保存
強化斬撃
剣神 Z
精霊剣召喚
聖剣召喚
遠隔斬撃
高速斬撃
万物切断
武器破壊
二刀流
魔法帝 Z
精霊魔法
詠唱破棄
詠唱反響
詠唱拡大
詠唱破壊
魔法創造
多同時詠唱
従魔士 SSS
孵化
従魔召喚
能力共有
感情伝達
精霊使い SSS
真・精霊剣召喚
真・精霊魔法
精霊召喚
読心術 SS
行動予知
万能隠蔽 SS
万能偽装 SS
万能適応 SS
物理攻撃無効 S
魔法攻撃無効 S
属性攻撃無効 S
精神攻撃無効 S
神聖攻撃無効 S
状態異常無効 S
豪魔攻撃耐性 A
体力増強 A
魔力増強 A
攻撃力増強 A
防御力増強 A
回復力増強 A
瞬発力増強 A
持久力増強 A
魔法攻撃力増強 A
魔法防御力増強 A
魔法回復力増強 A
―――
久々に見たが、やはり随分と長いステータス画面である。
「まぁこれを暗唱できる俺もヤバいんだがな」
そう言って自嘲していると背後に気配を感じた。
「ドーン!!」
「どうした?お前のクラスはこっちじゃないぞ」
「効いてない、だと?」
「お前と俺の能力値にどれだけ差があると思ってんだ。ほれ」
「わ、相変わらずとんでもない能力値してるね。普段動かないくせに」
「豆粒にされたいのか?」
「何その脅し文句!?豆粒にするって初めて効いたよ!?実際できるの!?」
「……………」
「沈黙は肯定だよ!?」
明るい赤みがかった茶髪のポニーテールに、若干着崩された制服。
高すぎる顔面偏差値はいいが、胸元が少し残念なプロポーション。
そして、さっきから異様にテンションの高いコイツは、
俺の同級生で幼馴染の女子だ。腐れ縁とも言っていい。
ちなみに、俺の実力であれば、コイツ程度豆粒サイズにするのは朝飯前を通り越して寝起き前だ(?)。
ちなみに普通に美人なため、モテはするが、やはり他の人と胸元を比べられがちで、本人は物凄く気にしていたりする。
「はぁ、なんか用か、遥香」
「ため息とは何事ですかな?何か悩み事でも?」
「さっきまで悩み事はなかったが、今さっきできたところだ」
「この私がストレスだと?そんなわけないだろ?ほら、こんなに可愛い遥香ちゃんがわざわざ来てやってるんだぞ?」
「来ないでいいんだがな」
「つれないねぇ」
ハッハッハ!と笑う遥香に対して、俺は面倒臭がりながらも相手をする。
これが俺と遥香のいつものやり取り。
これを俺たちは昔から続けている。
他から見れば、俺の対応が冷たいと言われるが、俺も遥香も、これくらいの距離感が心地よいのだ。
遥香が俺に絡み、俺はなんだかんだでそれに付き合う。
互いに知られたくないことは知ろうとしないし、深いところには踏み込まないでいてくれる。
そんな距離感が、互いにとっていいと知っているから。
「ん?あれ?なんか…………ヘアゴム変えた?」
「お?分かりますかね?」
「そりゃあ毎日お前の姿を見てりゃな」
何やら遥香の身なりに違和感を感じたので、記憶を辿って変わったところを探したのだが、正解だったようだ。
「毎日、私の姿を…………」
「あぁ、それにしても突然変えたな。前のヘアゴムお気に入りだって言ってなかったか?」
今、遥香がつけているヘアゴムは、黒の紐に紫水晶のアクセントがついたシンプルなものだ。
記憶の中では、前はクマの形をした石のついたヘアゴムだったと思うのだが…………
「うん、そうなんだけど、ちょっとイメチェンしてみようかな〜って」
「なるほどな。男の俺からしたらよく分からんが…………ちなみに、それを選んだ理由は?」
「ん〜、男の子が好きそうだな〜って思ったからだね。海斗の目からはどう映る?」
ふむ……………
「そうだな…………前のクマちゃんヘアゴムの方は、少し幼さが出て可愛い感じがしたが、今の紫水晶のヘアゴムは、遥香の明るめの髪色とは反対の暗めの色だから、アクセントになってて俺含め目を引くし、落ち着いた色だから清楚感が出て可愛いよりかは綺麗って感じが増したな」
「そ、そう………………」
おや?
割と全力で褒めたつもりなのだが、遥香は何やら顔を俯かせて何かゴニョゴニョと呟いている。
まさか俺の褒め言葉が不発だったか?
人を褒めるというのは難しいな…………
「もう…………気づいてよ……………」
〜新野遥香side〜
(ま、まさか、ヘアゴム変えただけでこんなにも褒められるなんて…………恥ずかしくて顔伏せちゃったし…………)
只今私、新野遥香は、絶賛好きな人から褒められて舞い上がっています。
だって〜!
いきなり真面目に物凄く褒めてくる海斗が悪いんだよ!
それにしても、こんなにアピールしても気づかないかこの鈍感は。
そう、私は目の前の男、早川海斗のことが好きなのだ。
私が気持ちを自覚したのは、中学1年生の頃。
*
この頃から私は、他人から美人だと言われることが多かった。
自慢ではないが、自分でも他よりは見た目は整っていたと思う。
みんなが私に対して「可愛い」や「綺麗」といった言葉を投げかける中、私は聞いてしまったのだ。
「新野さんってさ、なんか媚びてる感じ?あるよね?」
「あ〜分かる。あの「私可愛いよね」って感じ?なんか嫌だなって思ってたんだよね」
その2人の女子の言葉。
陰で言われていた、私への悪口。
今では、この程度のことなど無視すれば良いと分かっているのに、当時思春期であった私は、大層落ち込んだ。
私は暗い気持ちでその後の授業を受け、その日の放課後、家に帰らず暗くなるまで、近くの公園のブランコに座っていた。
「私、そんなつもりなんてないのに………どうして―――」
―――そんな酷いこと言うのか。
この答えも今では分かる。
彼女らは、ただ自分たちがチヤホヤされないから、チヤホヤされる私を陰で攻撃して、憂さ晴らしをしていたのだ。
「こんなところで何してんだよ」
「……………海斗」
しばらく無言でブランコに座っていたら、聞き覚えのある声に問いかけられた。
声のした方を向くと、そこには若干呆れ顔の幼馴染が立っていた。
「お前、親御さんが心配してるぞ?7時になっても遥香が帰らない〜って」
「……………」
「………何かあったのか?」
「………ほっといてよ」
「はぁ、全く…………」
私がそっけなく返答すると、海斗はため息をつき、隣のブランコに座ってスマホを弄る。
「…………まぁいい。何があったかは知らんが、遥香を1人ここに置いとくわけにはいかんからな。遥香が動く気になるまで俺も一緒にいるよ」
「…………勝手にして」
「あぁ、勝手にさせてもらう」
その会話を皮切りに、再び辺りが静寂に包まれる。
海斗は宣言通り、その後も何も聞いてこなかった。
ただそばに寄り添い、一緒にいてくれた。
今はその気遣いが、とても嬉しかった。
「…………海斗は、こんな時間にここにいていいの?」
「お前がそれを言うか?お前の親から連絡があったんだよ。それで俺が探しに出動したってわけ」
「………ふーん………そんなに私のことが心配なんだ………」
「あぁ、心配に決まってら。たった1人の、大切な幼馴染なんだぞ?」
「……………」
大切な幼馴染。
その言葉は、私の心を解きほぐすのに十分の柔らかさがあった。
「……………学校でね、陰口を言われてたの」
「…………それで?」
「それで、私、ものすごく悲しくなっちゃって、私、そんなつもりはないのに、どうしてそんな酷いことを言うのかって………」
「………それは、直接言われたことなのか?」
「ううん、偶然聞いちゃったの…………私、どうすればいいのかな…………」
「ん……………」
私の心からの問いかけに、頼んでもいないのに、海斗は真剣に考えて答えてくれる。
「そうだな………俺は、別にどうもしなくていいと思うな」
「………どうして?」
「そうやって陰口を言う奴は、いまいち自分に自信が持てないだけの臆病者か、大した努力もしないで妬むだけ妬む自己中のどっちかだ。遥香は別にそのどちらでもないだろ?」
「うん………」
「なら、遥香はドンと胸を張っていれば良いんだよ。それに、そんな奴らの言葉をわざわざ真に受ける必要もない。むしろ、耳を貸すだけ無駄だ。俺はそう思う」
やっぱり、海斗は凄いと思う。
ここまで説得力がある励ましは、私にはできない。
他の同い年の人にはできないような励ましをしてくれる。
自分と同い年なのに、ここまでの思考ができるなんて、信じられない。
「そっか…………そうだよね。私は私、他人は他人だもんね!」
「あぁそうだ。元気出たみたいだな。それじゃあ帰るか」
「うん!」
暗い帰り道を、2人で歩く。
その間、他愛もない話をして歩いた。
その間にも、海斗の気遣いは終わらない。
さりげなく車道側を歩き、身長の低い私の歩幅に歩く速度を合わせてくれる。
その気遣いと、海斗の優しさに、家にたどり着いた頃には、私は惚れてしまっていた。
*
海斗は昔からそうだ。
さりげない気遣いと、他者の励ましが途轍もなく上手い。
こんなにも人を笑顔にすることのできる人は少ないと思う。
「おーい。遥香ー?いつまでボーッとしてるんだー?」
「ッ!?」
海斗の呼びかけで、私は意識を現実に引き戻す。
「どうしたんだよ。いきなりボーッとして。らしくもない」
「い、いや、ちょっと考え事を………」
「ふーん。ま、良いけど」
それにしても、あれだけ気遣いができて、ここまで私のアピールに気が付かないのはやはりおかしいと思う。
「とっとと気づきなさいよね。この鈍感」
「おん?なんか言ったか?」
「何でもないよ〜だ」
「なんかムカつく言い方だが、まぁ良いか」
それでも私が海斗を好きな気持ちは変わりない。
だって、定期的に海斗が私をドキドキさせてくるんだもん。
そんなの意識するなって方が無理だよ。
そんなことを思いつつ、今日も絶えずアピールを続ける私なのだった。
「…………この俺が気付いてないと思ったか?」
その極小の呟きは、周囲の喧騒に掻き消されて聞こえなかった。
異世界帰りの勇者は、ダンジョンが現れた世界で無双する 島 @airanndelizyourikutai0923
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