おとぎ話と流星群

ツバキ丸

おとぎ話と流星群 本文

ずっと………愛してる。君は、そう言った。

いや、正確には『言っていた』かな。


あれは――――。いつの事だったっけ。


多分、兄さんが居なくなってしまった時かなと思う。


一人ぼっちになってしまった、あの時から。


ずっと、いや、永遠に。僕が心を閉ざしてしまった、あの時から―――――。




僕は、双子の兄と一緒に、各地を旅していた。


色んな所に行っていたから、時にはその地の戦いや争いに身を投じることもあった。


でも、そんな時こそ自覚する。

僕は弱かった。弱虫だった。

判断が苦手だった僕は、信頼していた仲間に殺されかけた時でさえ、判断を遅らせて現実から目を背けた。


何かを得れば何かを失う。

何処かの偉い人が言っていた言葉だ。

けど僕の場合は、何も得られない。

ずっと、失ってばかりだ。


「そんなもんか。」

皆は『出来損ない』の僕に失望し、僕の元から去っていった。

僕自身もまた、自分自身を諦めていた。


…………でも、兄さんだけは違った。

僕をずっと諦めなかった。

ずっとそばに居て、時には励ましてくれた。


―――そして何時からか、僕は兄さんの事が好きになっていた。

家族の意味でじゃない。僕は兄さんを『愛』していた。


でも、勿論そんな事は言えなかった。

そんな事を言ってしまったら、今の関係が崩れる気がしたからだ。


『兄さん、愛してる。』

そんな複雑な想いを抱えながら、僕たちは戦いながら旅をした。


でも、僕はその事を後悔した。

言えない……、いや、言わないまま兄さんが敵の矢を受けて亡くなったからだ。


兄さんは強かった。

死ぬ間際まで、ずっと―――――。

だから死ぬ時も、僕に心配をかけまいと思ったのかずっと笑顔だった。

――――自分も矢を受けて痛いはずなのに。


「―――ずっと、愛してる。ポルックス。」


僕はまた、『いつもの様』に何もしてあげられなかった。

僕は双子の兄の死だけで無く、そんな自分自身にも泣きじゃくった。

兄さんが死んでから、一年、五年、十年と、どんどん年月が過ぎていった。相変わらず弱虫だった僕は、兄さんの死が受け入れられなかった。

「今日もダメか……。」

父さんの血を深く引いていた僕は、兄さんと違って死ねなかった。

いつからか僕は、死ぬ方法、すなわち兄さんに会う方法を模索する様になっていった。

………でも、全部ダメだった。

「何で…………、何で置いていったんだよ、兄さん――――。」

僕は、いつもの様に泣きじゃくっていた。


――――それから数百年経ったある日。ふと僕は思った。

「父さんなら、もしかしたら僕を殺してくれるかも知れない。」

そう思った僕は、父さんの居る所を目指して行った。


父さんの元を目指し始めて数十年経った時、僕は父さんに会った。


僕は会って真っ先に、この言葉を放った。

『ゼウス様、僕を殺してください。』


僕は父に頼んだ。愛する兄さんの元へ行くために。


神話だっていい、おとぎ話だっていい。


兄さんとまた逢えるなら……、僕は何だってしてやる。


「―――――ポルックスの言葉に心を打たれたゼウスは、ポルックスの願いを叶えた。こうして二人は、冬の星座を彩る一つの星座『双子座』として空に昇り、いつまでも仲良く輝き続けるのでした。おしまい。」


だから、カストル兄さんとは、今までも、これからも………。


―――――ずっと、一緒だ。

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おとぎ話と流星群 ツバキ丸 @tubaki0603

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