31
「ヨハンソン陛下にもお約束をいただきました」
「ああ。コーネリア王女にはご心配だろうが、どうか今は堪えてほしい」
「いえ。わたしは先に西へ向かいます」
「なん……と?」
「エルマーを攫った犯人は、国一つを風と炎で滅ぼしたドラゴンの使い手。その者の顔を見たのはわたしだけです。エルマーの無事を確認する術は、彼の地に赴くしかありません」
「顔を見たのか?! いや、だがドラゴンの住む地は西の最果てにあるという。気持ちはわかるが無理だ。きみ一人の力でどうこうできる相手ではない」
「わかっています。ですから、西へ向かう先々の国で援軍を頼むつもりです」
「だが……」
「自分の力不足は充分に承知しています。果たして他の国々が援軍をお貸しいただけるかどうかもわかりません。ですからどうかヘンリック皇太子殿下。来年の秋にはわたしを追ってきてください。旅慣れぬわたしは足も遅く、ヘンリック皇太子殿下にすぐに追いつかれるでしょう」
うーむ、とヘンリックは顎に手を当てて逡巡し始めた。
いやしかし、などとぶつぶつと呟いている。
やがて考えがまとまったのか顔を上げた。
「わたしが止めたところで、黙って城を出るおつもりだろう。同行するのはお二人だけか?」
コーネリアの背後に視線を移す。
「騎士が四人います」
「それだけか」
フリーデンが全滅したと聞いていても、一国の王女に付き従う騎士がたったの五人だと知り、衝撃を受けたようだった。
「コーネリア王女。西の同盟国に書簡を出そう。我が国が出立する際も同盟国に助力を願うつもりだったしね。だから約束してほしい。決して無理はしないこと。きみが危険な目に遭うのはエルマー王女も望まないだろう。我々が向かうまで待っているんだ。いいね。公爵殿も頼んだよ」
亡国の姫と竜の王 太秦あを @Shio_leaf
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