30

 視線で問いかけられたコーネリアは「こちらはバウムガルト公爵のご嫡男で……」と言いかけ、もはやフェルディナンドこそが公爵なのだと気づく。


「……フェルディナンド・バウムガルト公爵で、彼は守護騎士のランベルトです」

「そうか。公爵、この度は大変だった。さぞお辛いことだろう」

「ありがとうございます。フリーデン国を代表して感謝いたします。テルラーダ国におかれましても、一日でも早い復興へと繋がりますよう願っております」

「うむ。そうなのだ。この通り、わたしも朝から晩まで力仕事をしている」

「ヘンリック様もですか?」


 目を丸くするコーネリアに、ヘンリックは両手を広げて見せた。市井に紛れていたら、誰も彼が皇太子とは気づかないかも知れない。


「その通り。幸い城と家族は無事だったからね。都には家や家族を失った民が大勢いる。民のために、自分にできることはなんでもしようと決めたんだ」


 それは次期国王として、見習うべき行ないだった。けれどもエルマーはヘンリックの婚約者なのだ。胸は痛まないのだろうかと疑念を抱いていると、コーネリアの心中を察したようにヘルマンは重い溜息をついた。


「エルマー王女を忘れたわけじゃない。できることなら今すぐにでも全騎士団を率いて救出に向かいたい。だが……。コーネリア王女。どうかわかってほしい。わたしはこの国とここに暮らす民を護らねばならない」

「はい。わかっています」


 コーネリアは視線を落とした。

 わかってる。同じ立場なら、きっと自分もそうするだろうから。


「来年の夏……いや、秋には必ず兵を挙げてエルマー王女を助けると誓う」


 秋――。あまりにも遠い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る