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「……よろしくお願いします」
「だが、フリーデンの民はすべてわたしが責任を持って預かる。暮らしの目途が立つまで、家と金子も無償で与えると約束する。そなたはテレサの大事な娘。わたしの
「ありがとうございます」
これ以上の温情は望めまい。
コーネリアは固まった口角を無理やり引き上げると、膝を折って礼を取った。
コーネリアとフェルディナンド、ランベルトにはそれぞれ部屋が与えられ、フリーデンの民は城の一部の部屋と、家屋を失ったテルラーダの民と同じ天幕へと案内された。
まるでドラゴンの襲撃などなかったかのような、美しく清潔な部屋だった。
薄い絹の垂れ布が下がる寝台が目に入った途端、どっと疲れが押し寄せてきた。
コーネリアは寝台に倒れ込むと、花や鳥たちの描かれた天井画を見つめた。
手も足も重く、ぴくりとも動かせない。重い瞼を閉じた途端、コーネリアは深い眠りの底に落ちていった。
*
「コーネリア王女!」
一瞬、誰なのかわからなかった。栗色の髪、思慮深そうな濃茶色の目。再会するのは何年ぶりだろう。ただ、目元の黒子は記憶にあった。
「……ヘンリック皇太子殿下?」
いや。それよりもその姿だ。白いシャツは泥に汚れ、市井の民が穿くような吊革のズボンを身につけている。およそ皇太子とは思えない様相だ。
「昨日は挨拶もできずすまなかった」
回廊を歩いて来たヘンリックに、共にいたフェルディナンドはこうべを垂れ右手を胸に、左手を背後にして礼を取り、ランベルトは左膝を立てて跪き騎士の礼を取った。
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