28

「エリアス王とテレサ、それに兄弟たちが亡くなったというのは真なのだな」

「はい」


 ヨハンソンは上を見上げながら目を瞑ると、小さく祈りの言葉を呟いた。


「そなたが無事でよかった。で、エルマーがドラゴンに攫われたというのも真なのか」

「はい」

「ドラゴンに襲われた時、多くの者が二頭のドラゴンが飛んでいくのを見たと言っておる。やつらは鳥のように風を切る音もさせず、まるで宙に浮いているかのようであったと。だから気づけなかった。気づいておればフリーデンへ向かう足を停められたかも知れぬのに」

「わたしたちも同じく二頭のドラゴンを見ています。それにエルマーが攫われる時、わたしはドラゴンの使い手と思われる男と対峙しています」

「なんと!」


 コーネリアは、数日前に起きたすべてのことをヨハンソンに話し聞かせた。

 ヨハンソンは話の腰を折ることなくコーネリアの話を聞くと、うーむ、とだいぶ白くなった顎髭を触った。


「コーネリア。そなたの望みはわかる。エルマー王女を助けたいのだろう。わたしも同じ気持ちだ」

「では……!」


 ぱっと目を輝かせるコーネリアに、ヨハンソンは厳しく眉間を寄せたまま首を横に振った。


「エルマー王女はヘンリックの婚約者だ。ヘンリックだけじゃない。この国にとっても大事な姫。だが応えてやることはできぬ」

「お願いです! 少しでいいのです! 兵をお貸しください!」

「ドラゴンの襲撃を受けて、我が民も大勢が家や子を失った。わたしが今一番にせねばならぬのは、民を救うことなのだ。見通しが立たぬ状況下で、力となる兵を出すことはできぬ。すまぬ。わかってくれ、コーネリア。できぬ約束はせぬ。いずれ必ずエルマー王女の救助に力を貸そう」


 最初からわかっていたとは言え、完全に最後の望みが切れたコーネリアは、足元にぽっかりと空いた深淵に吸い込まれる思いだった。

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