みちしるべ

「アルフリード、早く身支度を整えて外に出てくれ。民達の歓声聞こえないのか」

「寝坊したの見てただろ、これでも人生で一番急いで支度してる!」


 その様子に共に戦ってきた幼馴染は笑う。身分格差をなくそうと奮闘してきたアルフリード。結局周囲と戦が起きてしまって命を落とした者たちもいる。その家族ひとつひとつに頭を下げに行き、必ず人びとが幸せに暮らせる国にすると約束し見事にそれを果たした。

 戦いによる支配ではなくあくまで和平を望む姿に戦った相手でさえ賛同し、今や一つの国と言っていいくらいに発展した。


「それにしてもよくここまで来れたな」

「俺には幼い頃から強い思いがあったからな」

「母上のこと、だよな。俺も覚えてる。聖人として持ち上げられてる感じが凄かったな……」

「身分格差をなくそうとして結局死んでしまった母。権力者たちに利用されて、嫌なことを押し付ける民衆に殺されたようなものだ。身分格差はただなくそうとするだけではダメなんだ。心の歪んだ弱い者は一度手を差し伸べられることに味をしめてしまうと自分より上の者全てに嫉妬して責任を押し付ける。自分で立ち上がって行動する勇気を持ってもらわなければ」


 身支度を整えて歩き出したアルフリード。着いた中央広場では、わあああ、と大歓声が上がっている。


「上に立つ者は方向性を示すだけで良い。それをどうやって達成するかは自分たちで考えて、仲間と協力すればいいだけなんだ。自分のやり方を押し付けてしまってはそれが破綻したときに全て崩れてしまう」

「なるほど、だからあそこに銅像を作ったのか」

「俺に道を示してくれたのは母だからな。どうすればいいか必死に考えるきっかけをくれた、これぐらいはしてもいいだろ」




 道を歩いていた少年は巨大都市から歩いてきた商人に声をかけた。


「これ、なに?」


 指を差したのは銅像だ。教会の淑女服を着て空に向かって鳩を飛ばそうとしている一人の女性。


「ああ、それは英雄アルフリード様のご聖母様だよ。ここはちょうど外に向かって四つの道に分かれているだろう? ここが分かれ道だと示す道標としてここに作られたんだ。農耕地、商業地、いろいろな場所へ行ける」

「道標なのに方向を示してないけど。普通こういうのって東西南北のどこかを指さしてるものじゃない?」


「目的地の道と違って、生き方を定めるのも道を例えに使うだろう? あえてどの方向も示さないことで、自分で考えなさいという教えを示しているんだよ」

「そっか、ありがとう。ところで、この先の町ってなんていう名前だっけ」

「フリーダム、だよ。アルフリード様のお名前にしようって意見が多くあったらしいけど。個人の名前では支配しているようで嫌だと本人が嫌がったらしい。謙虚な御方だね」


 じゃあね、と彼は歩いていった。



「やれやれ、なんとか形になったな」


 銅像を見る。自由の象徴である鳩を飛ばしている姿なんて、まあまあそれっぽいんじゃないかな。文字通りの道標(道導)になったわけだ、良かったじゃないか。


「あれ? また道がこんがらがってる。人間が風見鶏をやるとすぐこれだ。欲丸出しで道を示さないんだから、まったく。今度は誰だ」


 小さく笑うと、僕は歩き出す。フリーダムには寄らずに次の道へ。愚かな風見鶏の作った滅茶苦茶な道へ。

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道しるべの風見鶏 aqri @rala37564

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