待っていてくれ

 三日後、チームの責任者である三宅から呼び出された。彼はずっとデータ解析を行っていたらしい。


「一人でやってたんですか、せめて他の面子に手伝ってもらってくださいよ」

「いやあ。俺独身で一人暮らしだからヒマでなあ。時化しけてるから漁にも出れねえし。他の奴らは家族サービスさせてやんな。で、本題な。梶枝のことだから、辛いと思うがどうしてもお前の考えが聞きたくて」

「はい」


 彼がそう判断したのなら、絶対に必要な事だったのだろう。見せられたのはイースターからなんとか拾った音源データだという。あの時は通信が断絶していたが、陸側のAIによって受信することができたそうだ。雑音が酷かったのでノイズを消す作業を延々していたらしい。


「こっからは自分の耳で確かめてくれ」


 ヘッドホンを渡されたので着用し、スタートを押した。


「深海……ご、が……発見だ……谷山さ……」


「聞いたか?」


 ヘッドホンを外した谷山にそう聞くと、彼は頷いた。彼女の声に恐怖はない、笑っているようだ。


「この、『ご』の辺り。音と母音を推測するに三文字だ。アンご、って感じだから考えられるのはサンゴか、卵だ。お前に、何か発見を伝えたかったんじゃないかなって思ってな。……大丈夫か」

「アンタに気遣いされると背中痒いんでやめてください」

「おいこら」

「ありがとうございます、大丈夫です。あと、なんとなくわかりました」

「マジで?」

「サンゴと卵なんて、そりゃ二つともでしょ。サンゴは産卵するんですから」

「おい、マジかよ。深海でサンゴの産卵?」

「未知の世界を調べるのに、過去の常識はいりませんよ。竜宮城があるかもしれないじゃないですか」


 泣きそうな顔で笑う谷山に、三宅は悲しそうに微笑む。


「そうだな。探してみるか、あの子が辿り着いた新世界ってやつを」


 そう言いながら鞄から弁当箱を取り出すと、おかずを入れているタッパーを開ける。そこにはめんつゆに浸けたような薄茶のゆで玉子が三個入っていた。


「お前も食え、俺特製の煮玉子」

「いりませんよ、玉子なんて」

「ばーか、だからこそだよ。食って、かみ砕いて、ゲン担ぎするんだ。栄養を吸収して、自分の一部にしてやんな」


 水圧で潰れたイースター。いまだに自分の責任を認めようとせず法廷で戦うとほざいている数学者の男。その顔を思い出して腹が立ったので、玉子を三個鷲掴みして次々と口に突っ込みかみ砕く。


「食い過ぎだ、まったく。絶対喉につっかえるぞ」


 泣きながらもぐもぐと食べて盛大にせき込む谷山に水筒のお茶を渡しながら、頭をぐしゃぐしゃと撫でた。




「あ、もしもし。今日の夕飯煮玉子がいいって母ちゃんに言っとけ。うっせえ、また好きになったんだよ。めんつゆとみりんと七味で浸けてくれって言っといて」


――絶対に見つけるから、イースターの中で眠るお前を。待っててくれ、海雪。


 それまで、願をかけて一日一個は卵を食べると決めた。海の卵を見つけるまで。

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海のたまご aqri @rala37564

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