「熔空」

 気分が良い。雲は沸き地は揺らいでいる。

 今朝見かけた足元の蟻たちも、きっと今頃は熱気に飲み込まれ、楽になっているだろう。確信をもち、滾る道路を歩いている。

 通る道、幾人もの民が手を振ると言えば奇妙である。近年の無駄に慎ましい国に似つかない光景だからだ。

 種をまけば茎が生え伸びる様に、政策も転じて民の肥料となったのだろう。十分すぎるほどの陽を浴びて彼らは未だ踊る。

 

 陽は東から昇り西へ沈む。そして水は高い所から低い所へ移る。そんな当たり前の風景が今は鮮やかに映る。

 水などない。隙などない。逃げ場のない高揚が人々を包み、あるべき所へと導いていく。最初は乱雑な作用に見えても、実際断りの利いた現象なのであった。彼らの目に疲れは見えない。


 街を歩けばただ歩くのみなる。通常のそれは奇妙な言い回しだ。詰まる所言い換える所、今の人々には町が巨大に見えている。静かに、そして猛々しく、巨大な町は人間を流していく。流された者が尋常の目を得る事はない。保証される。

 果ての被証明者はどうなるか? 極めて静寂なる場所か、騒音のある所に移り住むのだ、と噂されている。ほぼすべての果てが、誰にも知られず此土を徘徊している。


 彼らは眠り、不眠の時を過ごしていく。休むのか。止まるのか。放るのか。

 パーティーや燥ぎものはただ動くのみならず、以外にも休止というものが重要である、とも噂されている。

 噂の足場で支えられている彼らはついに橋へとたどり着いた。かく橋、渡った者はみな、歓喜のあまり帰ってこないのだという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青空の花束(ショートショート集) 緑がふぇ茂りゅ @gakuseinohutidori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る