「歩空」

 世界は約三時を指す。下校の時間に生徒はまた沸いている。豪雪は吹いている。

 病欠した彼に課題をあてる役割を得た。そこに甘いあて紙を挟むのだ。

 カナと歩む今日の下校は、吹雪いて歩きづらい道だが、椿を思えば何でもなかった。

「カナ」

「なぁに」

 呼びかけたは良いが、これは彼女に言える事ではなかった。カナは友達として、恋敵として私の隣に立っているのである。

「何言おうと思ったか忘れたーー」

「何それえ」

 普段からもの忘れが激しい私だから、こいの物忘れを演じ、見抜かれなかった。

 結局彼の家を把握出来ぬまま、友人と別れた。

 別れた後の私は、スマホを取り出し、親へ連絡すると見せかけた椿への連絡を行った。セルフフェイントであった。

 演じた弊害で送られた文章に既読がついてしまった。病いの彼に負担をかけてしまったと寒中冷や汗を垂らしたが、宛てられたのは「良いよ」である。

 椿は、咄嗟の見舞い願いを受理し、挙句テレパシーの様に行き先を教えてくれた。

 指示通りに椿の家へ向かうが、心中は物事の進みに不安感を覚えていた。現実は果たして進みの早い所か、対照か。

 想定より二十分超えて着いた家は、何ら変わりもない所である。チャイムを鳴らしてみれば、また何ら変わらない足音が鳴った。

「はあい……どちら様?」

「椿くんのクラスメイトです。プリントを届けに来ました」

「あら、ありがとう」

 何とか用意したプリントを持ち去り、椿の母は去ってしまった。やはり現実、漫画の様に私を家へは招き入れてくれないものである。

「あと、バレンタインのチョコレートもありますっ」半身の嘘をついた。後から思えば、少し恥じらうべき言葉であった。

「あら、今年も貰ったの……流石に待ちきれないから、あがってください」

 言われて私は屋内へ行った。招き人は腹痛か、彼へのプリントをよそにトイレらしき場所へ入った。

 邪魔者はいない冒険、アニメの様に人の部屋を模索してやる。木製の家というのが味を感じる。

 わずかな暗がりの廊下に、一筋の光があった。その元は果たして彼の部屋だろうか。

 元気なヒロインでもない私は、隙間から部屋の内容を覗き込んだ。

 椿が猫吸いをしていた。

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