平凡な男

Grisly

平凡な男

M星に緊急着陸したS氏。

不安で仕方なかった。

無理もない。彼は平凡な男だった。


宇宙探検のため、

地球から出発したチームだったが、

事故に遭い、

各自脱出ポッドで緊急脱出することに。


優秀な隊長達に

なんとか支えられてここまで来れたのに、

彼等はもういない。

別の惑星に着陸したらしい。





しかし、彼の不安はすぐに解消された。

脱出ポットの非常食が、

M星人に高値で売れたのだ。


地球ではどちらかというと

安いものだったが、

M星にない味。

1年は遊んで暮らせる金を手に入れる。



S氏は、M星のバーで飲み歩いた。

金はあるのだ。不安も消し去りたかった。

地球では味わえない、

様々なサービスを堪能する。




ある時、S氏は、映画へ出演する。

バーで飲み歩いていたのを、

プロデューサーが引き抜いたのだ。


もちろんS氏は平凡な男。

顔もどちらかというと、悪い方。


しかし、それは地球での話。

M星にない系統の顔である。

希少な顔というのは、

良い顔と捉えられやすい。


脚本にも少し携わる。

何年も前の名作のパクリだったが、

M星にない発想。


もちろん、映画は大ヒット。




自信のついたS氏、自作曲CDを発売する。

彼は平凡な男。

歌もどちらかというと下手な方であり、

作曲もやったことがなかった。

だが、そんなことは関係ない。


10年前のヒットソングを

そのまま歌ったものであったが、

あくまで、地球での話。


M星には、音楽もリズムの概念すらない。

なんて凄いものを作るんだ。

天才ではないのか。

瞬く間に大ヒットを飛ばし、

一躍M星のスターに。



人気は止まらない。

バラエティ番組にも出演し、人気を集める。

S氏は平凡な男。

もちろん面白い話など一つもなかったが、

それも地球での話。


M星人にとっては、

一度も行ったことのない

地球の話というだけで充分だった。


やがて本を出版し、音楽教室を作り…




きっとS氏は、救難信号すら出さないだろう。

地球から迎えが来た瞬間、

彼の優位性は全て失われるのだ。

また、これまで売って来た、

権利関係で揉めても困る。


もっとも、

地球に強制送還された時は、

M星の話でもして…

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平凡な男 Grisly @grisly

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