第4話 信じられんなぁ…

「よし…。召喚は成功したようだな」


少しずつ覚醒しつつある意識の中で俺が初めて聞いたのは、落ち着いた一人の男の声とそれを取り囲む歓喜の声だった。


一体何が起きた…?


一つずつ状況を整理しよう。俺の名前は蔵亜ケン。高校生でクラーケン様の手下のニンゲンだ。修学旅行中に謎の光に包まれて…


そうだ。腕は…確かに痛む。感覚もない。


よし、千切れているな。つまり俺はあのバスの中で腕が千切れて気絶した後、どこかに連れてこられたと。そう言うことか。いや、俺だけではないな。周囲には他のクラスメイトが寝ている気配もある。全員無事なら良いが…。それにこの声達の目的はなんだ?


ダメだ混乱してきた。よく考えれば、俺まだ目を開けてないな。混乱しすぎて視覚を忘れていた。


恐る恐る目を開く。まず最初に目に飛び込んだのはひたすらに豪奢な作りをしたシャンデリア。ギラついた光を周囲に放出している。次に視線を動かせば、周囲には気配通り制服を着た俺の同級生が転がっている。あまり目立つ動きはしたくない。これが身代金目的やらなんやらの誘拐だった場合、見せしめにされる可能性がないとも言い切れない。


「続々と目が覚めているようだな」


最初に聞いた男の声がそう言った時には、クラスメイトも少しずつ意識を取り戻しているようだった。


「は…?なんだよここ!!どこだよ!!」


「バスに乗ってたよな俺たち…。なんでこんな場所に」


覚醒した生徒達の中で不安そうな声が上がり始める。

そろそろ良いか…。俺も身を起こした。


ここは西洋の城のようだ。それもかなり巨大で豪華な。いや現代のどこにバスから誘拐した高校生を閉じ込める用の城があるんだと言いたいところだが…、実際そうなのだからそうとしか言いようがない。


クソ…。腕が無いと体のバランスがよく分からんな…。再生の特訓はしたことあるけど、流石に腕を切ったことまでは無い。ちゃんと治るんだろうなこれ。


痛みはあるがそこまででは無い。ニンゲンは人間よりも頑丈なだけ痛みにも強い。

ひとまず、この怪我も普通に行動するなら足枷にはならない…そう判断した時だった。


「む…?これは…賢者ラークよ、腕から血を流している者がいるようじゃが?」


この広間の中でも一段上がった場所、そこの一際豪奢なイスに座った豪華な格好の爺さん、さながら玉座に座る王様だな。それが俺の方を見て言った。

血を流しているどころじゃないんだが…。腕切られたんだが…。

と言うか賢者ってなんだよ。


「私が使った魔法に不具合があったようですな。まあ良いでしょう。これだけ人数も居ますので」


答えたのはローブを着て長い杖を持った男だ。顔はフードに隠れてよく見えないが、目が覚めてから1番最初に聞いた声はコイツだ。

その賢者ラーク?なる男が杖を振るうと緑色の光と共に俺の腕から痛みが消えた。血も止まっている。


「すまなかったな。本来なら転移作動前に全員を眠らせておく手筈だったんだが、君にだけは効果が薄かったらしい。応急処置はしたがその腕については申し訳ない」 


ラークさんが何やら俺に謝っているが…。何言ってんだコイツは?その緑色の光はなんだ?あと会話するには俺の持ってる知識が足りなさすぎるんじゃないか?

何より俺の大怪我に対してノリが軽いぞ。人の腕切り落とすって重罪だろうが。倫理観が根本から我々一般人とは異なってる気がするぞ。


そんなことを思っているうち、


「………うん?ケンくん…??ケンくん!!!??!?」


俺の横でユウキが絶叫している。目が覚めたのかと思うのも束の間、


「ケンくん!?その腕どうしたの!!?なんで?どうして??ねえ!!!」


「落ち着け!俺は大丈夫だから!!」


ユウキを宥める。そりゃビックリするのも無理はないよな。急に幼なじみの腕が無くなってたら。

残った左手でユウキを抱きしめて、背中を撫でてやる。今気づいたが左手も、小指が一本足りて無い。そういえば窓の外に投げたんだっけか。


「…ッ!!こんなことをして!!俺たちをどうするつもりだ!!ケンの腕を返せよッ!!」


そう叫んだのはナオキだ。少し前に目が覚めていたらしい。状況を理解するや否や居てもたってもいられず主犯たるヤツらにキレたのだろう。


「やはり不信感を持たれるのも仕方ないことですな…王よ。私が説明いたしましょうか?」


王様っぽい人の右側に控える背筋の伸びたこれまた爺さんが言う。ちなみに左側に立っているのはデブハゲだ。俺たちを品定めするような目で見ていることからも信用に値しない人物であることは一目で分かる。

そのデブハゲが言う。


「そうですな。そもそもこやつらの中で使い物になりそうなのも一握りしかおらんでしょう」


「いや、この者らは我らを救う勇者なのじゃ。王自ら我らの願いを伝えねばなるまい。それが我らに出来る誠意の見せ方であろう」


なにやら話しているがようやく状況を説明してもらえるらしい。やっと王様が口を開く。


「今ここに召喚されし者達よ。突然の事態に困惑しておる者と多かろう。我らの不手際で怪我を負わせてしまった者もおる。誠に申し訳なかった。


しかし、我らにもそうせねばならぬ理由があるのだ。改めて、我はターノシ国の王、アルディウス・レンハート・ターノシである。勇者達よ、是非我らと共に戦い、人々を守ってはくれんか」


——————————————————


「あの王様の話…信じる?ここが異世界だっていう話」


「到底信じられないけど、あんな魔法を見せられたら信じざるを得ないよな…」


俺はフカフカで真っ白なベッドに寝ながら、その横の椅子に腰掛けるユウキと話している。

ここは病室だ。俺の怪我を見て、あの王様が医務室で治療を受けさせてくれたのだ。まあ腕もぎ取ったのは王様サイドなんだけどな!!


さっき王様から聞いた話をまとめておこう。


この世界は俺たちの住んでいる地球とはまた違った世界らしい。ナオキが言っていた最近流行りのファンタジー異世界みたいな感じだろうか。魔法がいたり魔物が実際に存在しているとか。


その中でもこのターノシという国家は、魔族と呼ばれる人の姿をした魔物と古くから戦争が続いているらしい。

その戦争が終わらないのは、“魔王”とかいう魔族の中でも1番強いヤツと“神人”という人間側の最高戦力の力が拮抗しているからだ。

“神人”は長生きらしく、この国は昔からある1人の神人が中心になって魔王の侵攻を防いできた。


しかしながら、最近の戦闘で神人と魔王が相打ちになってしまったという。生きてはいるが当分の間、国を守ることはできない。そこで神人の抜けた穴を埋めるため、あの時バスに乗っていた俺たちが異世界から召喚されたんだと。


「しっかしなぁ…俺たちにそんな凄い力があるのかねぇ。殴り合いすらしたことないヤツも多いだろ俺たちのクラスは」


そんな素人をわざわざ召喚したのは、異世界からやってきた人はこの世界の現地民より魔法の扱いにも長けて肉体も強くなるかららしい。

今はまだそれほどでも無いが鍛えればすぐに一線級の戦力になる、と言っていた。


とまあ俺たちが聞いた話はそんな感じだ。今は細かい話をあの広間で元気なメンバーが聞いているだろう。


「私も自分がそんな戦いに混ざるなんて考えられないな…」


「だよな…。なんにせよ俺は腕がこれだと戦力に数えられないだろうしな…。これからどうすりゃいいんだ…」


俺は頭を抱えるのであった。


…はぁ。クラーケン様心配してるだろうなぁ…。

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どうやら私は転生してもクラーケンらしい。 @kappa_man2525

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